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第29話 竜殺しと船旅 その4

 空の真ん中に太陽が輝く時間。船上は再び戦場となった。

 ただし、今度は人対人の戦闘ではなく、人対魔物の、防ぐだけで何も得るものがない戦い……朝に人と人とでぶつかり合ったが得られるものは何もなかったな、そういえば。まあ、今度は手を抜く必要がないから気が楽だ。

「よいしょー」

 タコともイカともつかない造形の奇妙な連中を、槍の一薙ぎでまとめて叩き潰せば、飛び散った透明な体液が日を反射して輝く。ほんのり潮の香りがするそれは、目を閉じればビーチで水遊びをする水着の美少女たちを想像させてくれる。が、そんなものはウネウネグジュグジュと魔物の這いずる音、身を守ろうと各々の武器を振り回す乗客乗員の怒号で一瞬で消し去られる。少しは妄想に浸らせておくれ。

 ちなみに、その乗客の中には朝に投げ飛ばした男女の組も混ざっている。男の方は顔面大火傷を負ったはずなのに、もうすっかり元の容貌を取り戻していたのであった。もう少し強火で焼いておけばよかっただろうか。

 などと考えながら、槍をもう一薙ぎ。俺を中心に槍の長さを半径とした円の内側は完全に致死圏なので、人はだーれも入ってこないので気にせず暴力を振るえる。そしてどんどんイカタコモドキの千切れた破片が積み重なっていく。もう少し固ければ、叩き砕いた爽快感があっていいのだが。こう、柔らかいとあまり叩いた感触が良くないな。

「くっ! 来ないで、離れて!」

 俺は問題ないのだが、時折、吸盤のついた触腕に武器を奪われ、手足に絡みつかれるのが居る。声の主を見れば、好みからは外れるがそう悪くない容姿の女性が、あわや薄い本待ったなしの状況に追い込まれていた。その周りに、助けてやろうという紳士は見当たらない。皆自分の事で精一杯らしい。

 あのまま放っておけば、十八禁グロな状況が出来上がるだろう……仕方ないので、ナイフを抜き、腰の毒瓶に突っ込んでから、投擲。球速は時速140km、狙いはピッタリストライク。もどきの胴体に突き刺さって、その女性から引きはがし、慣性のまま飛び続けて後ろのマストに磔にした。

 フォローをした瞬間、投擲後の一瞬の隙をつき、もどきが顔面に飛びついてきた。美人の股を覗くのは好きだが、バケモノの股を見ても気分が萎えるだけ。口から炎を吐いて、丸焼きにして。再び槍を振り回す。

「しかしキリがないな」

 倒しても倒しても、水中から湧いてくる。元を絶たねばいつまでたっても終わるまい。かといって水の中へ飛び込めば餌にしかならないし……どうしたものか。

「タコ焼き……茹でだこ……」

 さっき丸焼きにしたモドキを見て、やることを決めた。大抵の生物は熱湯の中じゃ生きられない。こいつらの出てくるところは水の中。水を熱湯に変えてしまえば、元を絶てるのではなかろうか。どれほどの熱量が必要かはわからんが、幸い熱量を生み出すための元は無尽蔵に供給される。できないこともないだろう。

 善は急げと、船から離れたところにに火球を作る。それに際限なく燃料を注ぎ、秒を追うごとに肥大化させ、太陽と見まごうばかりの大きさまで成長させたら、水中へ叩き落す。さてさてモドキどもは何秒でゆであがるだろうか……と、思っていたら。


 轟!

 

 沸騰するよりも先に、爆音と共に巨大な水柱が発生し、次いで船が大きく揺れ。湯となった水しぶきがもどきのこま切れと一緒になって降り注ぐ。一体何が起きたのか、何を起こしてしまったのか、さっぱりわからないが、とにかく船上から落とされないようデッキに槍を突き立ててしがみつく。

「わわわわ……!?」

 右へ、左へ。転覆することはないが、大きな揺れに人もモドキも翻弄され、手近なものに捕まれない者は揺れに合わせてごろごろとデッキを転がりまわる。吸盤ではりつけないモドキは、揺れの激しさに振り落とされる。

 ただ湯を沸かすだけのつもりだったのに、まさかこんな大爆発が起きるなんて、一体だれが予想しえただろう。予想などできようはずもない……当然船上は大混乱に包まれた。

 

 しばらくして揺れが収まったら、再びモドキを駆逐するために人々は動き出す。もどきも駆逐されまいと戦うが、這い上がって来るのはいなくなった。ので、デッキに居た分だけを叩き潰したらそれでおしまい。もうひと頑張りだ。


 それにしてもあれほど大きい揺れなら、固定されてない荷物はぐちゃぐちゃになっているだろうな。後で爆発は誰の仕業だと詰問されたらどうしよう……そのときは大人しくしらばっくれよう。思考のよそ見をする余裕も出てきて、俺がこれ以上働くまでもなく、駆除は無事終了。水中のモドキたちはどうなったのだろうと水面を覗くと、赤く湯で上がったモドキたちが大量に浮かんでいた。

 少々アクシデントはあったが、目論見は成功したのでよしとする。

 動いて小腹が減ったので足元に転がるもどきの死体を拾い上げ、軽く炙って齧ってみる。見た目通り、タコとイカを足して二で割ったような味と触感。非常に美味で、醤油で食べたらきっとおいしいだろうな……と、ふと前世を思い出してなつかしくなってしまった。

 まさかこんなところで望郷の念にかられるとは、モドキおそるべし。

 その礼といってはなんだが、この死骸は今日の晩飯にさせてもらおう。槍で死骸を何匹か串刺しにして、船室へと持ち込む。醤油はないが塩ならあるし、多分塩焼でも美味しく食べられるだろう。



 余談だが、船室で焼いて食べていたら匂いに釣られて乗員たちが集まってきて、乗客も寄ってきて、そのまま酒を持ち込んでの宴会になってしまった。騒ぎに釣られて、つい記憶が飛ぶほど飲んでしまったのは秘密。なにか勧誘されたような気もするが、果たしてどうだったか。

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