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第16話 竜殺しと化け物退治

 この町に来て最初の依頼は、元々ここで働いていたハンターと共同での……おそらく、スライム退治。依頼文は、『農業用水路から異常な臭いがするから調査して、原因を取り除けるなら取り除いてくれ』だったので、たぶんそうだろう。

 前を行く二人はそれを知ってか知らずか、やれ今日の夕飯は何にしようか。次はどんな武器を買おうか。この街をいつ出ようか、などのんびり駄弁りながら太い水路の土手を歩く。声をかけたいが、手荷物を無視すれば燦々と降り注ぐ太陽の下で、笑顔で仲睦まじく語り合う男女二人と、その後ろを無言でついていく薄暗いオッサンだ。オッサンというのはもちろん俺のこと。青春真っ盛りの二人の間に流れる空気をぶち壊すのは、竜殺しよりも難易度が高い。


 しかし、もし目標がスライムだと少しめんどくさい仕事になる。二人のうちどちらかが魔法が使えなきゃ手こずること間違いなしだ。毒も使えないし……うむ。絶対めんどくさい。物理がききにくいのに剣と弓ってどうなんだろう。

「まだ決まったわけじゃないか」

 一人言い聞かせるようにつぶやく。単に獣だか魔物だかの溜め糞かもしれないし、獣か魔物の死体が水源で腐ってるとかもあるかもしれない。考えられる要素は複数ある。決めつけるにはまだ早い。可能性を考えるのは悪いことじゃないが、それに縛られ柔軟な対応ができなくなって痛い目を見たくはない。

 

 整備された水路をどんどん上り、その源流へ近付くごとに、腐敗臭が濃くなっていく。オークの巣穴のほうがまだましだ。さすがのバカップルもこのドギツイ悪臭の中で会話するほど好きものではなく、徐々に口数も減り、今となっては完全に無言。ちょっと前までの幸せそうな表情はどこへやら、今は臭いの元への殺意が浮いて見える。

 オークを殺して調子に乗った新人カップルかと思っていたが評価を改めよう。これはなかなか、立派な狩人の顔だ。もう少し殺気を隠せるようになれば一人前なんだが、残念ながらそこまではいってない。


 しばらく進み、水源地に到着。しかし、大事な水源だというのに、手入れされてないから雑草まみれ。それに加え涙が出るほどの悪臭のせいで目も鼻も潰されて……一言で今の状況を表すと、非常にまずい。まずいのだが、二人に帰る気はなさそうだ。足取りは重いながらも迷いがない。まだ原因が特定できていないから帰るわけにはいかない、とでも思っているのだろうか。

 思ってるんだろうな。この悪臭の中で、冷静な思考を保てるはずがない。

 そんな中、なんで俺だけこんなに冷静に観察していられるのかというと、一人だけハーブを噛んでいるから。トイレの中に芳香剤を置いても臭いだけだが、その原料を口の中に入れて嗅覚を殺せば割と我慢できる。涙も収まってきた。

「臭いの元はどこよ……早く帰りたい」

「どこだよ畜生がぁ……っ!?」

 悪態をついた二人の姿が消えた。何が起きたかはわからないが、なんとなく地面に居ては危険と判断し、大きく飛び上がって頭上の枝に掴まり、情報を得るために地面を見下ろす。

 男女が消えた地点に、泥色の穴が二つ。その中でもがく二名。しかし泥はまるでそれを抑え込むようにうねり、覆いかぶさり、穴の底へと押し沈め、じきに見えなくなる。

 臭いで集中をかき乱されて、雑草に隠された罠に気付かなかったか。こんな単純な仕掛けにひっかかるなんて、さっきは立派な狩人と思ったが撤回だマヌケ共め。

「スライムで当たりだな、こりゃ」

 毒があれば、ここで一瓶地面に流すだけでくたばってくれるのに。魔法が使えれば、雑草を焼き払って文字通り炙り出すこともできたのに。どっちもできないから、めんどくさい。二人見捨てて毒を取りに帰ってもいいが、若者見捨ててオッサン一人で逃げ帰るのはちとダサい。

「あまり使いたくないんだけどなぁ……早く片づけるにはしょうがないよな。走査スキャン

 原初の竜は造物主として崇められ、忌まわしき神様から聞いた限りでは実際にその通りの存在だ。おそらく彼女は、その気になればこの世の事象の隅々まで手に取るように理解できる……その力の一部を契約で結ばれた線を引っ張って借りてくれば、あら不思議。通常では見えないものが見えてくる。視界に映るものは魔力。弱いところは弱く、強いところは強く。サーモグラフィーに近い見え方だ。

 なんでこれを使いたくないか? 坊主憎けりゃ袈裟まで憎い、だ。便利だろうとあのド畜生に力を借りることそのものが不愉快でならん。

 それはともかく。

「見つけた」

 二人が沈んだ場所より少し先の、大きな水たまり。湧き水は無色なのに、その横に溜まった水たまりには不自然に魔力が溜まっている。多分アレだろう。あの倍のサイズなら手こずるだろうが、あれくらいなら一発でいける。たぶん。

 ぶら下がっている木の枝によじ登って、槍を抜き、跳ぶ。距離二十メートルほど、目標へ向け一直線に。狙うは中心たる核。液体を半固体に押しとどめるつなぎ。それさえぶちぬけばスライムは崩壊する。逆に言えばそれ以外をぶち抜いても、水がある限りいくらでも再生する。ちなみに普通は核の場所なんてわからないので、高火力で削っていって核を露出させてから叩くのだ。良い子はマネしないように

「てりゃ」

 武器なんて所詮消耗品。壊すときには壊せばいい。そう開き直って、近距離から手加減なしの投槍……強く放ちすぎたせいで槍の柄が砕け、穂先だけが音に迫る速度で飛翔し着弾。腐臭を放つ汚泥の塊、スライム本体に風穴を穿ち、核を消し飛ばした。

「きたね」

 少し抑えたつもりだったが、それでも威力が強すぎたのか臭い泥が飛び散って顔にかかって顔を顰める。たとえ今散ったスライムにそういう趣味があったとしても、美女あるいは美少女のソレならともかく化け物の糞をかけられても不快でしかない。

 あとで湧き水で顔を洗おう。そうしよう。


 まあ、その前に。

「沈んだ二人は生きてるかねえ」

 生きてたとしても、あの臭すぎる泥の中に沈んだら、体に染みついた臭いで死にたくなるだろうけど。命があるだけよしと思って、生きてもらえるだろうか。

今回出てきた魔物の解説

・スライム属 魔力的なものが固まった核が本体の魔物。液体を纏う習性があり、核の大きさに比例して纏う液体の量も増える。物理が効きにくい(効かないとは言ってない)

今回のスライムは動物の糞尿を多く纏っていたため、それが悪臭の原因であった。


主人公の装備・アイテムとスキル的な物


装備

布の服

普通の槍

ただの弓

鉄弓

解体用の短剣


アイテム

気付け薬

傷薬

お金


スキル

毒・薬物知識

高速再生(不死)

竜特効(竜限定で防御無視ダメージ)

拳闘術(要はステゴロ)

!!new!!走査術(サーモグラフィーのように魔力分布を見る)

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