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第12話 転生者と変人達

「諸君! 僕はこれから彼と、僕の恋人をかけて決闘するぞ! 諸君らには結果を見届け、その証人となってほしい!!」

「誰がいつあんたの恋人になったのよ」

 嫌々ながらに引きずられて、酔っ払い共のど真ん中を行く。決闘しなければならないことになってしまった。本当、なにがどうなってんのかわかりゃしない。当事者なのに状況が理解できないってどういうことだ。こういうことだ。本当に、どうなってる。

「よっしゃ、俺は旦那に賭けるぞー!」

「俺は見慣れない方に!」

 酒、燃料と言い換えてもいい。たっぷり染み込んだ連中の中に、イベントという名前の火種を放り込む。するとどうだろう、あっという間に盛り上がり、周りはお祭り騒ぎ。頭痛に苛まれる俺を無視して場はどんどん盛り上がる。勘弁してくれ。本当に。そんな胸中を知らず、騒ぎはどんどん加熱する。タガの外れたよっぱらい共から放出される熱気たるや、まるでサウナだ。

 なんやかんや。表に放り出されて、酔っ払い共の包囲網が完成し、即席のリングができあがったのであった。

「よっしゃぁイクゾォァー!」

 ――ペチン―― 

 気合の入った声。その割に、勢いはしょぼく。肌に触れた拳も、ジジイのファックの方がまだ気合が入ってると思えるほど。なんというか、痛くもかゆくもないというか。その、反応に困った。本気でやってこれなら、正直同じ男として同情する。どれだけ貧弱なんだ、と。

「オラオラオラ!」

 ペチンペチンペチン。なんだろう、痛くもかゆくもないのだが、蠅に集られているような、そんな不快感。蠅を追っ払うように腕を振り回してうっかり当てでもしたら、死ぬんじゃないかと思うほどの貧弱さ。ついこの前竜を相手に一戦交えた記憶もあり、それを思い出すとなんとも。

「……」

 すっと、デコの前に手を差し出し、デコピン。たかがデコピンと侮るなかれ。竜を殺すほどに鍛えられた肉体から放たれる一撃は、音速を超える……ということはなく、本当にただのデコピン。しかし、それだけで。

「ぬおおおおおおおおおおお!!!」

 ごろんごろんと額を抑えて地面を転がりまわる男の無様、観客に笑いが湧いて、沸く。異世界に来てまで漫才を見るとは思わなかった。いや、むしろ漫才をしている側か。疲れていない時ならまだしも、今は付き合ってやるほどの気力が残っていない。金ももらったし、もう解放してほしいのだが。

「ま、参った! 降参だ!」

 腰に手を当て、ため息を吐く。どうしてこんなメンドクサイことをしなけりゃならんのか。

「よっしゃ次は俺だ! あの嬢ちゃんのハートを射止めるぜ!」

「待て。それは俺の役目だ!」

「出し抜こうとするんじゃねえよ! 彼女は皆のもんだろ!」

 さらにヒートアップするギャラリー。彼らの熱量は火事のように燃え広がるばかりで、冷めることを知らない。誰かが冷や水をかけない限り……生半可な水じゃ焼け石に水でしかないが。それをするのは誰の役目? それはもちろん、こんなことをおっぱじめた馬鹿の役目だろう。

「ぬおおおおぉぉぉぉ……」

 しかし……これじゃ役者不足もいいとこ。火をつけるだけつけておいて、責任を取らない。放火魔かこいつは。頭を一掻き、二掻き。ああ、なんてめんどくさい。俺は面倒が嫌いなのに、どうしてこんなことに巻き込まれなきゃならんのか。

 騒ぎの原因の一端は俺にもあるが、しかし解決しようという意思はなく。ひょいと飛び上がり、ギルドの壁に取り付いて、屋根へと上がる。今日中にギルドの人に手伝ってもらい家探ししようと思ってたが、この様子じゃあまり頼りにはならなさそう。といって、どこに行けば求める物が手に入るのか。それすらわからないのにふらついても仕方ない。

 とりあえず、今日は宿を取ろう。そうしよう。馬は明日取りにくればいい。


 日が落ちるまでに宿を探し、部屋取りだけしておいて、あっちへフラフラこっちへフラフラ。まるで浮浪者のように動き回る。この街、大変にぎやかなのはいいのだが、転生前も転生してからもずっと田舎暮らしの俺には、慣れていないせいかどこへ行っても人の声がするので落ち着かない。

 鳥の鳴き声が恋しくなったので、露天で売ってた鳥の串焼きを一本買ってみた。木の串に突き刺して塩と香辛料を振って炭火で炙っただけ、という説明だったが。

 もっしゃもっしゃ。美味である。炙られて少しだけ焦げた表面の香ばしさ、弾力ある肉の食感、染み出る脂。塩と香草の風味がなんとも……だが俺はにんにく醤油ダレが恋しい。塩も好きだがやはりあのタレの味は忘れられない。醤油が恋しいよ……こんなことになるなら、前世で醤油とみその作り方を調べておけばよかった。


 ぷちぷちと肉を食いちぎりながらさまようように歩いていると、いつの間にか路地に入り込んでしまっていたようで。上半身裸で、炎のようなタトゥーを彫った見るからに怪しいお兄さんたちと目が合った。引き返そうと通りの方を見れば、既に先回りされていて、閉じ込められた。

「やあ、こんにちは。奴隷を買いたいんだが、どこで売ってるか知らないかい?」

「有り金全部置いていけば案内してやるよ」

 下品な笑い声。後ろから財布に伸ばされる手。叩き落として、銀貨を一枚取り出す。道案内の謝礼にしては破格だろうが。

「それは困るな。奴隷を買う金がなくなっちまう。案内料は銀貨一枚でどうだい? 悪くはないと思うが」

「だから有り金全部置いていけって」

 懲りずに伸ばされる手。少し力を込めて握ると、男が痛みに顔を引きつらせる。万力のような、とは言わない。強化魔術を使って本気で握ればプレス機並みだ。握りつぶすではなく、握って千切るまでいく。

 なんて口で言っても通じないだろうから、銀貨を見せつけるように指先で持ち、パタンと紙でも折るように半分に。男達の顔が目に見えて青ざめた。財布に手を伸ばしていた男に目を向ければ、股間から水が……きたねえ。手を離して、「あっちへ行け」とジェスチャーで伝えてやると一目散に表通りへ駆け出して行った。

「さて。返事は」

「わ……わかりましたぁ!」

「調子乗ってすんませんでした!」

「出来心だったんです許してくださいなんでもしますからぁ!! あ、でもケツは許してください童貞なのに処女喪失したくないです」

「じゃあ道案内を頼む」

 最後のは無視しよう。この町には脳みそお花畑の連中しかいないというのはよくわかった。

「こ、こっちっす……」

 急に態度を改めて、無理やり作ったようにしか見えない歪な笑顔を張り付けて案内を始めてくれたチンピラA君。小遣いは彼にあげるとしよう。

主人公の装備・アイテムとスキル的な物

(今回は追加なし)


装備

布の服

普通の槍

ただの弓

鉄弓

解体用の短剣


アイテム

気付け薬

毒入り壺

傷薬

お金


スキル

毒・薬物知識

高速再生(不死)

竜特効(竜限定で防御無視ダメージ)

拳闘術(要はステゴロ)

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