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第10話 転生者と竜の姫

 馬とその餌を買い、武器も間に合わせのを買い、旅に必要な衣服だけを最低限そろえたら、名残惜しさを振り切るように、振り返ることなく町を出た。近くの町までは、魔法で強化した脚力で走り続ければ三日で行ける。馬を歩かせれば一週間ほど。賊が出るという話もないし、魔物なら余程の相手じゃなけりゃ軽く駆除できる。のんびり行こう。


 そういうことを考えるのは、一種のフラグであったか。犬も歩けば棒に当たる、では人間が歩けば何に当たる。特に、俺のような特殊な人間の場合は。

 進路方向、道のど真ん中。遠目から見ても一目で美しいとわかる容姿の女性が立っていた。見覚えある黒衣。長髪。立っているだけで馬が怯える存在感。一瞬で忌々しい記憶を想起し、その中にある彼女と一切変わりない。

 忘れもしない五年前のあの日、父を殺し、集落を森ごと焼き払った、あの憎き竜。焼け死んだ村人の顔一つ一つが大口を開けて殺せと叫ぶ。老若男女問わず、すべてが。殺せ、殺せと。言われなくともそうするつもりだ、それが俺の使命なのだから。殺意が膨れ上がり、全身に血が滾る。

「どうどう……お前はここに居ろ」

 馬を降りて、逃げようとする馬を近くの木に縛り付ける。お前に逃げられたら俺はどうやって次の町へ行けばいいんだ。自分の足でとか考えたくないぞっと。

「久しいな。私を殺す者よ……よくぞ我が子を殺した」

 目算距離で百歩以上は離れているのに、耳元で囁かれているように穏やかに、しかしハッキリと声が聞こえた。また妙な事をしてくれる。

「人の家族友人皆殺しにしといて、子を殺されたかたき討ちにでも来たか?」

「いや、今の私にそんな感情はない。むしろ逆だ、君の成長を悦んでいるのだよ」

「はぁ……それで?」

 あの純粋な、因縁さえなければ一目ぼれしそうな透き通っ微笑み顔からして、言っていることは本当なのだろう。子供殺されて喜ぶなんて、理解できない。さすが魔物だ、感性が完全に理解の範疇の外にある。

「そろそろ私を殺せるか?」

「上等。そこを動くな」

 その言葉を聞いて、取るべき行動を決したのは一瞬。背負った鉄弓を地面に突き刺し、槍を矢として番え、引いて絞って、離す。空気の壁を一枚貫いて飛翔する矢を追って駆ける。残身などない、時間にしてコンマ一秒以下で着弾。これで獲れるなら苦労しないと、速度を落とさず、自分自身を弾丸として音速以上の拳を叩き付ける。手ごたえはない、舞い上がった砂煙の向こうでほくそ笑んでいる顔が気に入らず、受け止められた腕を引いてゼロ距離からの蹴り上げで距離を離す。放った槍は、右手でしっかりとつかまれて、地面に落とされた。

「!」

 一歩下がって、二歩前へ。腰に差した二本の短刀で両側から首を挟み込むように一閃。両手で受けて、止められて、手を自らの意志で千切り取って踏み込む。どうせ再生するから問題ない。

 一発一発殺す気で、全身全霊、捻りを加え初速を乗せた蹴り足を。急所である三点へ。

 眉間――撃ち込んだ反動で足の肉が千切れ飛び、再生。彼女の体がわずかに後ろへ下がる――

 喉――後ろへ飛んでいくよりも早く次弾を撃ち込む。足が地面から離れ――

 鳩尾――さらに一歩踏み込み、完全に浮いた彼女の胸へ音速以上の攻撃を。空中で体が曲がり、足首まで肉に沈み込み、押し出す!――

 三発全てが音速を超えた蹴り。パパパン、と銃声のような拍鳴が三度連なる。俺達が最初に出会って、尻尾でぶたれた時と同じように、彼女は飛んでいく。街道を何度もバウンドして転がって止まり、一瞬の静止の後、何事もなかったのように立ち上がり、ドレスについた土を払って、また微笑んだ。銃弾の比ではない重量を、銃弾並みの速度で三発ぶち込んでこれ。人間なら、人間でなくとも、一撃一撃が致死レベルの打撃。それを三度も受けて、なお立つか。

「少しは効いたか?」

「ああ、痛い痛い。久しぶりだよ、痛みを感じるのは」

 全く効いている様子がない。自分自身が徒手で出せる、最高の攻撃を受けてこれとは、殺意も霧散する。こいつは化け物だ。正真正銘の化け物だ。よくも過去の自分はこんな化け物相手に復讐なんてする気になったもんだ。たった今、その復讐がいかに無茶で無理で無謀かを理解した。こりゃ無理だ。あと何百年修練を積んだら殺せるようになるやら。それとも、どんな武器があれば。

「だが、楽しい」

「変態かよ」

「何千年と続いた私の生を終わらせてくれる者が、ようやく私に痛みを与えてくれる段階まで上り詰めてくれたのだから。これがうれしくなくて何なのだ?」

「じゃあ大人しくその首よこせ」

「それではつまらない、ただ殺されるだけであればつまらない。私はずっと我慢し続けた。最後くらい楽しませてもらってもいいだろう」

 さっき腕ごと置いていった短刀を投げ返される。二本指で挟んで受け止め、鞘にしまう。

「我慢してるのはこっちも同じ。俺を死ねない体にしたのはお前だろう? おかげでこの数年何度死ぬより辛い思いをしたか」

 一度狩りに失敗してオークの群れにケツを掘られ続けたのはやばかった。屈辱と苦痛と苦悶のあまり死のうとしたが、舌を噛んでも頭を岩にたたきつけても口に突っ込まれたオークのナニを噛みちぎってのどに詰まらせても、どうしても死ねなくて。なんとか脱出できたがありゃあひどかった、二度とあんな思いはしたくない。

「お前の命は私の命。私の命はお前の命。私が生きる限りはお前は生きる。何があろうと……何年経とうと。私を殺せるのはお前だけ。死にたければ、私を殺してみせろ」

「そこまで修練積んで、技術を身に着けるのに、何十年……いや何百年かかる? 下手をすれば、何千年」

「いつか、私を殺せるほどお前が強くなれば。組み敷いて犯すなりして存分にその鬱憤を晴らすがよい……私は何千年でも、何万年でも待とう。お前が私を殺す、その日を楽しみに」

「その頃には殺意も欲も枯れ果てて、悟り開いちまうよ」

 俺は聖人になんてなる気はさらさらない。なりたくもない、何の欲もなくなるということは、何の楽しみもなくなるということだ。ゾンビでさえ食欲があるというのに。

「お前が我が子を殺すたび、私は現れる。死にたければ、私を殺したければ、頑張るのだな。では、また会う日を楽しみにしているよ」

 一言だけ言い残し、さらりと、砂糖が湯に溶けるかのように消えていく。後に残ったのは暴れたせいで荒れた道路と、地面に突き立てられた槍。彼女がいた痕跡などそれ以外どこにもない。

 結局殺すどころか傷一つすらつけられなかったし、無駄に暴れて疲れてお終い。徒労にも程がある。さっさと次の町へ行こう。

木にかけていた縄をほどいて、馬に跨って移動を再開。少し暴れて腹が減った、町に着いたら少し奮発していい飯を食おう。

主人公の装備・アイテムとスキル的な物

(説明? いる?)


装備

布の服

普通の槍

ただの弓

鉄弓

解体用の短剣


アイテム

気付け薬

毒入り壺

傷薬

お金


スキル

毒・薬物知識

高速再生(不死)

竜特効(竜限定で防御無視ダメージ)

拳闘術(要はステゴロ)

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