赤ずきんは、フライドチキンが食べたい
赤ずきんちゃんは
病気のお婆さんを
見舞いに行ったんですけどもね、
実は
ベッドに寝ていたのは
お婆さんに変装した
狼でしたよ。
狼は
赤ずきんをも食らわん
と企んでいました。
お婆さんは既に
狼によって丸呑みにされていました。
お婆さんの家にやってきた赤ずきんは
明らかに狼の変装だと
一目見て気付きました。
その上で聞いてみたのです。
「お婆さんのお目々は
どうしてそんなに
ぎょろぎょろしているの?」
「それはね、
お前の全てを余すところなく
見つめるためだよ」
「お婆さんのお耳は
どうしてそんなに
大きいの?」
「それはね、
お前の言葉を一字一句漏らさず
聞き取るためだよ」
「お婆さんのお手々は
どうしてそんなに
太くてたくましいの?」
「それはね、
お前の体を強く、強く
抱き締めるためだよ」
「お婆さんの言葉は
どうしてそんなに
やさしいの?」
「それはね、
お前のことを深く深く
想っているからだよ」
狼は焦れていました。
口に関する質問が出しだい、
「それはお前を食べるためだよ」
的なことを言って
赤ずきんを丸呑みにしようと思っていたのに
なかなかそれが出ないからです。
赤ずきんは
狼にかまをかけてボロを出させ
笑い者にしてやろうとしていたのに、
返ってくる答えが
その意図はさておき
いちいち乙女心をくすぐるので、
次第に
狼に惹かれていく自分に気付きました。
お婆さんは
丸呑みにされて気を失っていたのですが
目を覚ましました。
真っ暗なもんだから
とりあえず
光の射すほうへ上って外を覗いてみたら
狼の口ごしに赤ずきんが見えました。
そこから見える赤ずきんは、
目が潤み、顔は赤らみ
もはや頭巾だけが赤いのではなく
頭巾も顔も真っかっかの
恋する乙女の顔だったのです。
「あ、あのう、狼さんは
好きな人とかいるんですか?
えっと、私なんかどうですか?」
赤ずきんのその台詞で
狼は気付かされます。
この娘は俺に惚れている。
しかも
いつのまにか狼だとばれている。
狼はドキドキしました。
そういうふうに
意識したことなかったけれど、
改めてよくみたら、
赤ずきんは
とてもかわいい。
付き合ったりしちゃってもいいかな。
そしてもし、結婚とかしちゃったら、
やっぱり子供は狼男とかなんだろうか。
いつしか、すっかりその気になっている狼でした。
赤ずきんの台詞を
狼の体の中で聞いていたお婆さんは
焦りました。
私は
妻の母方の祖母を
丸呑みにするような輩なんて、
親戚に欲しくはありませんよ。
ちょっと赤ずきん、
目を覚ましたまえよ。
お婆さんが狼の体内の
脳髄とかに手を突っ込み
何やかや
適当にいじくってみたら、
狼は
お婆さんの意のままに
動くようになりました。
そして、
何だか
めんどくさいことになっている
赤ずきんにむかって
「ありがとう。
その気持ちは嬉しいけど、
俺には受けとめられない」
といった意味を込めた
パントマイムによって
ばっさり拒絶の意を示すと、
赤ずきんは泣き崩れました。
そんな
赤ずきんを尻目に
お婆さんは、
そう、今や
狼の衣を借るお婆さんは、
銀行を襲撃しに行きました。
ファンタジーの世界も
貨幣経済なのです。
ペイント玉みたいなのをぶつけられても
皮を脱ぎ捨てたらいいじゃない。
私は大金を背景に
ファンタジー界を
裏から支配してやるの。
お婆さんの野望は
それはそれは大きかったのです。
わあい、しめしめ。
いつか強盗に入ろうと思いながら
80才を迎えたのよね。
さすがに還暦迎えたあたりで
諦めかけていたけれど、
人生何が起こるかわかんないもんだわ。
乗るしかない、このビッグウェーブに!
そして、
まんまと強盗に成功したお婆さん。
しかしお婆さんは
皮を脱ぎ捨てた途端に
意識を取り戻した狼によって
食べられてしまいました。
狼はお婆さんに操られた経験を活かし、
丸呑みにはせず
よく噛んで食べました。
そして目の前にあった
大金を持ち帰ったのです。
狼が、家で
札束の風呂に浸かりながら
女をはべらし
ピンクのドンペリを
ラッパ飲みしながら
「人生なんてぬるいもんだぜ」と
高笑いしているところへ、
警官隊が踏み込んできました。
銀行強盗および
お婆さん殺害の容疑で
逮捕された狼。
裁判の結果、
銀行強盗の件に関しては
止むに止まれぬ事情があったものとして
狼には無罪が言い渡され、
検察はお婆さんを被疑者死亡のまま
書類送検しました。
お婆さん殺害の罪で
服役していた狼でしたが、
逮捕から12年後に
移送された医療刑務所内で
病死しました。
赤ずきんは
狼の死のニュースを見たとき
結婚しており
お腹のなかに
新しい命が宿っていました。
赤ずきんは
お腹を撫でながら言いました。
「あー、なんか
フライドチキン食べたいなー」
了