四日目
今回の台湾旅行もついに最終日を迎え、あとは帰国するのみとなった。
なんだかんだで、やるべきこと、やりたかったことはすべてやり遂げたような気がするし、心から旅を楽しめたことは紛れもない事実なので、僕は思い残すことなくホテルを後にすることができた。
桃園国際機場行きのバスが出るバス停は、ホテルのすぐ目の前にあった――というか、ホテルの名前を冠していた。空港までの運賃は五十三元だとカウンターのお兄さんにあらかじめ聞いていたので、僕は近くのコンビニでお金を崩しがてら、飲み物を買うことにした。
僕が選んだのは、台湾へ来たからにはこれを飲まなければモグリだと言われるほど市民権を得ている、「黑松沙士」という炭酸飲料だった。
この飲み物、台湾を代表する大手飲料メーカー「黒松公司」の看板商品で、その独特な味わいが、台湾の若者にはすこぶる不評である。ラベルの類似性から、「偽コーラ」または「台湾版ドクペ」などと称されたりもする。
実際に飲んでみると、そんなに不味いわけではないのだが、確かに独特な風味を有している。この味わいを、どう表現したら一番しっくりくるのだろうと考えていると、かつて一人の台湾人の友人が、僕にこう教えてくれたことがあった。
「サロンパスの味」
なるほど、しっくりくる。確かに、サロンパスのあの臭いがそのままジュースの味になっている感じだ。サロンパスは、台湾でも売られていて、最もポピュラーな湿布薬の一つである……というか、もっともポピュラーな湿布薬である。間違いなく。ここまでくると、果たして黑松沙士がサロンパスを模してジュースを作ったのか、それともサロンパスが黑松沙士を模して湿布を作ったのかすら不明である。いずれにしろ、台湾の若者には不評である。
とりあえず、その液体サロンパスもとい台湾版ドクペを買い、意気揚々とバスに乗り込む。バスでの移動中にトイレに行きたくなったら困るので、サロンパスは空港で飲むことにした。
桃園市内から空港までは三十分から四十分ほどだと、カウンターのお兄さんは言っていた。言っていたはずなのだが……ところがどっこい、しっかり一時間以上かかっているではないか。しかもその運転の荒さよ。どれくらい荒いかというと、急ブレーキをかけたときに窓にかかっているカーテンが勝手に閉まるくらい荒い。タイヤのすぐ側にバイクがいても、お構いなしに急発進を見せる。そのうえ、「バッコーン」と、今明らかに何か踏んだよね!? 的な爆発音を轟かせて車体を傾かせること二回。後輪は、常にキュルキュルと逆回転しているような奇怪な音を立て続けている。バスがガス爆発しないのが不思議である。
しかし、日本ではまず見られない(見られたとしても非難の槍玉に上げられる)この台湾のワイルドさに、僕が惹かれているのもまた事実だった。――もちろん、轢かれたくはないが。
そんなこんなで、予定時刻を超過して空港に到着。さっそくチェックインをして、お土産を買って両替を済ませると、もう出発間近の時間となった。空港でこんなにせわしなくしたのは初めてだった。
荷物検査の際、鞄を台の上に乗せてふと気がつく。アナウンスで流れているこんな言葉に。
「機内には、ペットボトルに入ったジュースなど飲み物は持ち込めません。飲み干すか、捨てるかしてください」
そこで僕は俄然思い出すのだった。――さっきのサロンパスジュースを鞄の中に入れっぱなしだったことを。やばい、このままではテロリスト認定されてしまう。
僕は急いで並んでいた列から抜け出し、ゴミ箱のほうへと向かった。先ほどのサロンパスは、ほとんど口をつけていなかったため、まだなみなみとボトルの中に満ちていて、一気飲みをするのは少し厳しかった。僕はそれを半分ほど飲み、泣いて馬謖を斬る思いで残りをゴミ箱(飲み物専用です)に捨てた。
すったもんだで、僕の台湾旅行は幕を閉じた。
今回は、かつて台南にあった僕の生活への未練に見切りをつけることができたし、もっと台湾を好きになることができたし、鉄道の旅もできたし、とても有意義な時間を送れたと思っている。
そして何より、日本と台湾の距離の近さを改めて実感した。
関空からなら、往復二万円以内の航空費で台湾に飛んで来れるし、時間も行きは三時間、帰りは二時間と、とても短い。
頑張れば、三連休にパッと行って、一泊だけして帰ってくることも可能なのだ。
台湾への旅はこれで終わりじゃない。むしろこれからもっと台湾を好きになるための第一歩として、今回の旅を位置づけたい。
台湾は、日本に一番近い国です。文化も近いし、とても友好的です。
まだ行ったことがない人や、海外旅行の経験がないという人は、ぜひ思いきって台湾に行ってみて欲しいです。
きっと大好きになるはずだから。
2016年3月21日から強行スケジュールで行った、3泊4日の台湾への旅。
とても面白かったです。みなさんも、旅行先に迷ったらぜひ台湾へ!




