No.40 噺買4
出されたお題を元に、一週間で書き上げてみよう企画第四十弾!
今回のお題は「帽子」「風呂」「鉛筆」
5/25 お題出される
5/28 どうせならと『噺買』としてプロットを考える。
5/31 が浮かばないまま日付だけが過ぎていく
6/1 そしてこの安定の締切ブッチである
緊急措置のはずの作品でまさかの難産でした……ちくせう
※この作品はワタクシの別作品
No.31 噺買1
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No.34 噺買2
http://ncode.syosetu.com/n1805cq/
No.36 噺買3
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これらの要素を含んでおります。読まなくても楽しめるとは思いますが、呼んでみた方が楽しめるかもしれません(露骨な誘導)
俺の名は夢野 魁人。大事なテスト中にもかかわらず、訳あって、今非常に集中できないでいる。
今、俺は大事な試験の真っ最中である。二年の三学期、期末テスト。これで成績が悪いと、補習が来る。そのこと自体はどうでも良い……むしろ、その結果やってくるであろう事態が恐ろしい。
で、なんでこんなことをわざわざ言うのか……今まさに、この試験中に……俺の解答用紙の上で……
「ここの問題間違っておるぞ」
解答用紙の上に居る身長10cmに満たないおっさんが一人。居るだけならまだマシなのだが……
「あ、いや、こっちだったかな?」
いや、間違ってないって。その回答はそれで合ってるって!
「どれ書き直してやろう」
「ちょ、やめっ……」
おっさんが鉛筆を勝手に持って書こうとするのを取り上げる。
即座に監視の先生の閻魔帳が、俺の頭に振り下ろされて軽い音を立てる。無言で謝る動きを見せて、その後机の上のおっさんを睨む。
「なんじゃ? わしのせいか?」
ああそらもちろん……と言いたいが、試験中なので私語厳禁だ。
「まったく、助けてやろうと思ったのにのぅ」
そう言いながら、おっさんは被っているシルクハットを正す。
これあれだ……昼休みの時、後ろで喰っちゃべってた女子どもの話、あれを『買った』んだ……。
バリ小さいおっさんの噺――
世に言う『小さいおっさん』の話の分類であり、さながらありがた迷惑な助けを行う、身長10cmほどの、白い燕尾服に白いシルクハット、見事なカイザル髭の小さな英国紳士風のおっさんである。
主におっさんの任意の相手にしか姿は見えず、話す言葉は聞こえず、認識も出来ない。そのため、端から見ていると奇怪な行動を一人でしているようにしか見えない。
なお、おっさんの知識や知恵は多岐にわたり、人知を超えているがボケが激しくあまり頼りにならないんだとか……しかしそれは時に、人が知ってはいけないレベルの深淵の知識とか言う物を口にすることが有り、まともにそれを聞くと正気を失いかねないという。その相手が正気を失いかねない事柄を相手に言うのがおっさんの趣味。とかいうかなりの悪趣味である。
もっとも、おっさんは嘘を決してつかない。その口から出るのは100%真実のみ。
ちなみに、なぜ『バリ』と付くかは分からない。
どういうことかというと、それはひとえに俺の特殊体質にある。
『噺買』……見聞きした話を追体験してしまう。体質の持ち主の意志など関係なく、良い話も悪い話も……命の危機が訪れる話も関係なく、のべつ幕無しに噺を買いこみ、追体験させて来る。それが、このような作り話や空想上の話でも関係ない。おかげで死にかけた事もなんどもある。
「お、茶柱が……」
ってか、この噺もうちのばあちゃんに言わせると『質の悪い噺』になるのだろう。なんで英国紳士風の外見で湯呑に浮いた茶柱気にしてんだよ……。
俺のばあちゃんは主にこの手の都市伝説やあるいは妖怪などを相手にしている“その手の専門職”の人だ。色々信じられない事柄に会ったことも巻き込まれたことも有るが、その都度ばあちゃんが助けてくれて来たのは言うまでもない。……色々振り回されたり、いざという時助けに入ってくれるのがもう少し早くてもとか思ってたりするけど……
まぁ、ばあちゃん曰く「噺の完成度が低いから、都市伝説などの恐怖度合や話の整合性が低くなる。そうすると噺本来の『怖がらせる』や『楽しませる』という噺としての存在価値が揺らいでしまい、脅威ではない。だから放っておけ」と言う話だ。つまり、この噺も特に怖がる必要もなく放っておけ、とばあちゃんなら言うだろう。だけど、いざ危機に陥ってからじゃ遅いっていうのになぁ……
あ、ちなみに、うちのばあちゃんは魔女だと俺は思う。その証拠に……ばあちゃんが俺についてどこかへ買い物などに行くとき、ばあちゃんは俺の肉親のふりをする、出来るほど若作りなのだ。親のフリ? いやいや、じゃあ兄弟? まぁ、そうだが、姉のフリじゃない。……妹のフリだ。しかも、10歳以下の幼女のフリ。それができる外見から、一切変わらず早10数年……間違いなく、あれは魔女だと思う。世の男どもが『ロリババア』が良いと言うが、俺からすると、現実にはそんな良いもんじゃない、と言いたくなる。妹萌えとか言うのに、現実に姉妹が居る男が萌えないと一緒だ。まったく、せめて外見を自由に設定してくれたらなぁ……魔女なら出来るだろうに。
とか思ってると、監視役の先生が俺の前に立っていた。
「夢野……試験中にお前は何をしてるんだ?」
「え、あ、答えを考えてました」
いや実際はばあちゃんへの不満を思ってました。
「お前、その解答用紙に引き続き書き込む気か?」
「え?」
見ると、解答用紙は謎の落書きで埋まっており、明らかに第三者の目にはテストをなげうって遊び始めているようにしか見えない。
「あ、いえ、その……ちょっと昨日寝て無くて……寝ぼけてたみたいです」
「……ほう、そうか。次やったら、無条件で補習な」
そう言って、先生は予備の解答用紙を渡してくれながら、次は無いぞとくぎを刺していった。案の定、どこからかくすくすと笑い声が聞こえてきていた。
というか、おっさんはどこに消えたんだ?
その翌日、テスト科目は世界史に移った。
案の定、難しくてまったくわからない。元々世界史は苦手で、成績も低迷してした。今回山を張ったのだが……見事にずれたようでまったくわからない。解らないまま残り時間が10分に成っていた。
このままだと追試は免れない。追試が来ることは問題じゃない、問題なのは、追試が来ることで、その後高確率でうちの父親、父さんが俺の下宿先にやってくることが問題なのだ。
俺は父さんが苦手だ。タバコの匂いとか、優秀な大学の教授とか、何かと口数が少ないくせに四の五の言わせない教育スタイルとか、……そのくせ一緒に遊んでもらった記憶もない。忙しかったのかもしれないが……。そういえば、俺が小さい頃はもう少し父さんは忙しくなかったような……あれ? 俺、何か忘れてる?
「おい少年」
そんな思い出に浸ろうかという時に、俺の机の上に、解答用紙の上に白いシルクハットに白い燕尾服の体長10cmほどのおっさんが……
今忙しいんだから後にしろ……ってああ! 今、試験中、後残り時間は……
「この試験の残り時間は6分34秒21。この分じゃとこのテストの点数は18点。追試とか言うのが来るのぅ」
ええい、うるさい! 今頑張って思い出そうとしてんだから、もう少し待てくれ。
「……あー、この問題の答え、1937年じゃな」
へ?
「あ、こっちは1956年、あとこっちは伊藤忠孝」
俺は思わずおっさんを小突いた。そして目で必死に合図した。
「な、なんじゃ? 痛いではないか……ん? なんじゃ?」
残り時間が足りない。追試は困る。となればいささか卑怯だけどこの手しか……!
「ほほぅー、良いじゃろう。若者よ、じゃが、後々後悔するでないぞ。わしの趣味に付き合ってもらうからの!」
おっさんの趣味? ってなんだっけ? まぁいいや、何でもいいから答えを早く!
おっさんはにやりと笑いながらカイザル髭を、その白い手袋に包まれた針先のような指でつまみ上げていた。
「以上で問題の答えじゃ。残り時間1分と58秒96。間に合ったのぅ」
カンニングしてる気分だったが、仕方ない。そもそも時間が無かったし。
「では、わしの趣味に付き合ってもらうぞ」
あーへいへい。なんだっけ? 何か深淵の知識だかを聞かされるんだっけ? 別に良いや。そんなの毎回買ってる話と大差ないし……そもそも『噺買』で買った噺から何か買ったことは今まで一度もない。きっと『噺買』で買った存在からは何も買うことが出来ないんだろう。と俺は思ってるし、何を話されても問題ない。
と思っていた。読みが甘かった。おっさんが口を開き、出てきた言葉は……
「この街は、お主の『噺買』を監視するために存在しておる」
俺は試験後の脱力状態から一瞬で飛び起きた。
「このクラスメイトだけではない、道行く人、店を構える者、お主にかかわるすべての人間が、お主が『噺買』であるという事を知っていながら接しておる。むしろ、お主の『噺買』がどこまで動作するかを見ておる」
なにを……言ってるんだ?
「そもそも、おかしいとは思わなかったか? なぜみんな、聞いたこともないような話ばかりお主に持ってくる。なぜ、お主が『噺買』の効力を発動させている時、誰もそこに巻き込まれない。……答えは至極単純じゃ」
いや、たしか、このおっさんは『相手が正気を失いかねない事』を言うのが好きなんだっけか……じゃ、じゃあ作り話なんじゃ……
「遠出の際、必ず誰かと一緒がおったじゃろ? お主の監視の為じゃ。何事もない日々など無かったじゃろう? 常にお主の『噺買』の能力を見る為じゃ。お主は監視されておる。それどころか、この街自体が、お主の監視のために作られた街じゃ」
作り話……の、はず……
「あー、あとのう、わしの噺、ちゃんと聞いておったか?」
噺? バリ小さいおっさんの噺……
「わしはのう……『嘘を決してつかない。その口から出るのは100%真実のみ』……そういう噺じゃったろう?」
周りのクラスメイト達が、皆試験を終え始め、残りの数少ない時間に安堵や落胆の吐息を漏らす中、俺はおっさんから目が離せずに居た。
この……この存在は何を言ってるんだ?
「あと……お前が頼っておる“ばあちゃん”……お主、彼女を何だと思っておるかの? お主が幼いころから外見が変わらない理由を何だと思っておる? 試しに、お主、彼女の“ばあちゃん”の名前を言うてみよ。……言えんじゃろう? 彼女はな……」
おっさんがにたりと笑いながら、ゆっくりと口を開いた。
が、次の瞬間、チャイムが鳴り響き、クラスメイトが思い思いに立ち上がり、一番後ろの生徒が解答用紙を回収していく。おっさんが乗っている解答用紙も回収され、その瞬間におっさんの姿を見失う。
「夢野、どうだった? 今の?」
「へ? い、今の?」
「試験だよ。決まってんだろ?」
クラスメイトの秋原 遊之亮だ。遊び友達で、この間も一緒に電車で遠出を……
『遠出の際、必ず誰かと一緒がおったじゃろ? お主の監視の為じゃ』
おっさんの発言が脳内でリピートされるのを、秋原がいぶかしげに見る。
「おい、顔色悪いぞ。保健室行くか?」
「あ、ああ、そう……だな。ごめん」
俺は顔に疑問の色が出ている秋原を置いて、保健室へと逃げ込んだ。そして何のかんのと理由を付けて、早退をさせてもらった。理由は、おっさんが言いかけて止めた、うちのばあちゃんの話し……
ばあちゃんの、名前……? なんて名前だっけ? そもそも、ばあちゃんは何者なんだっけ? 元々“その手の事を専門”にしている魔女みたいな人で、なにかと家事が出来ないくせに色々甘いものとかお肉が好きで、ファーストフードをこの間買いに行かされたし、毎回失礼なことを俺が言うせいで足蹴にされたりとかしてるし、ばあちゃんが何者かなんて考えたことも……無かった……
俺は、ばあちゃんの家の前にたどり着いた。この家も変わらない。大き目な土地に広い庭、木造建築の平屋で、屋根裏部屋が物置になってる。縁側が庭側にだだっ広く開けられてて、時にはばあちゃんが縁側に腰掛けてる。俺は何度かこの家に家事を手伝いに来てる。変な噺を買ってしまった時とか、匿ってもらうついでに、何か厄介事を処理してもらうお礼に……
俺は思い切ってばあちゃん家に、通い慣れた、潜り抜けた門を抜けた。
「ばあちゃん? 居る?」
廊下は人気がなく、静かだ。奥からテレビゲームの音も聞こえない。
ばあちゃんの返事は無い。
「ねぇ、ばあちゃん……俺、また変な噺買っちゃったみたいでさ……」
寝室、相変わらず脱ぎ散らかした衣服が、これまた派手にひっくり返された布団にまみれてくしゃくしゃになっている。ばあちゃんの姿は無い。
「それで、それで、俺、ちょっと不安になってて……」
台所、俺が前回来た時からあまり変化はない。汚れた食器が積まれ、飲みかけの麦茶が入ったコップが一つ、気温差で汗をかいていた。
「ばあちゃん……どこだよ……なぁ、ばあちゃん……」
二階の物置、冬も近いのに蒸し暑く、微かに差し込む日差しで埃がキラキラと舞っている。ここにも、誰かが居る気配はない。
俺は手当たり次第にドアや襖を開け、片っ端から探した。そして……
「ばあちゃ……」
「阿呆かぁぁああ!」
俺は顔面に思いっきりお湯をかけられ、直後桶が飛んできたのは言うまでもない。
「ノックぐらいせい! 仮にも異性の入浴中に風呂場を遠慮なく開ける阿呆がおるか!」
風呂場、ばあちゃん……外見幼女の御年86歳、いつものばあちゃんが髪の毛を濡らさないようにタオルで頭を巻きながら、湯船につかって赤い顔をしている。
「あ、良かった……ばあちゃんが、居た……」
「はぁ?」
俺は思わず、脱衣所で風呂場へのドアを開けたまま、お湯をかけられて濡れたまま、その場にへたり込んでしまった。なお、そのままで居た為に今度は足が飛んできたのは言うまでもない。
「なるほど……で、不安になったというわけじゃな」
ちんちくりんの体にバスローブを纏って、牛乳瓶に入ったコーヒー牛乳を片手に、外見幼女がにこやかに語る。
「安心せい。英国紳士なのに紅茶じゃなく緑茶を嗜んで、日本の安いお茶販売促進のための茶柱の話しを知ってるようなそんな噺なんぞ、正確さにはかけるというものじゃ。そもそも、そのバリ小さいおっさんとやら、ボケる時があるのじゃろう?」
「あ、う、うん……そうだった」
かくいうも、俺はばあちゃんの前に正座させられいる。その上、太ももの上に重石を乗せられている。これってたしか江戸時代とかの拷問じゃなかったっけ? 曰く、乙女の風呂を覗いた罰、だとうか……乙女?
「……今、わしのことを妙齢と思っておったか?」
「みょ、みょうれい?」
「あー……いや、いいわい。そこで詰まったらその後のボケができんじゃろ……まったく」
そういいながら、俺の膝の上に乗せられた重石の上にばあちゃんが腰を下ろす。痺れかけた足に更なる負担がかかるも、今ここで逃げると今度はドロップキックが飛んできかねない。
「ほれ、わしの体重を感じるか? わしの存在を感じるか?」
「へ? 今、足痛くてそれどころじゃ……」
「……わしはたしかにここに居るぞ。何年魁人を見て来たと思っておる?」
ばあちゃんはそういいながら、背中を捻って俺の顔を覗き込む。
「覚えておるか? 小さい頃、わしはお前の体の弱さを案じて、女装させておったのを」
「あれ、体が弱かったからなの?」
「ああ、古い呪法じゃ。男児は何かと狙われるから、という“噺”を逆手に取ったものじゃな。他にも、お雛様の日には欠かさず桃を喰わせておったじゃろ?」
「ああ、小さい頃、桃のケーキとかばあちゃん造ってくれてたっけ? あれ酷かったなぁ」
「酷いとはなんじゃ! あれでもがんばってじゃな……」
「そうそう、あれからだよ、俺がばあちゃんの家の家事を手伝い始めたの。あの後のキッチンの片づけからだ」
ばあちゃんは俺の頭を撫で乍ら言った。
「どうじゃ? わしは作り物か?」
「……」
「わしとの思い出はどうじゃ? 作り物か?」
「……ううん、今、俺、ばあちゃんと一緒に居る。それは作り物でも、俺が買った噺でもないんだね」
「うむ。足の痛みが真実じゃと語っておろう」
「うん、降りてくれると助かるなそろそろ限界ぃぃ痛たたたたたたたたた!」
その後、足の痛みが引くまで少々待ってから、ばあちゃんのリクエストでハンバーグを造り、なにやらネット通販で買ったとか言うテレビゲームにつき合わされ、何気ない、俺のいつもを過ごせた気がした。
「お、魁人、メール来ておるぞ」
「え、今? 待って、残り時間あと1分はこのゲーム離れたくない!」
「あー、そうも言って居れん様じゃぞ……送り主……ってなんともよそよそしい書き方しておるんじゃのぅ……夢野 清明……」
その名前に俺は総毛立つ気がした。俺は思わずゲームから目を逸らした。そして、ばあちゃんが拾い上げている俺のスマホを奪うように取り、文面を確かめる。
「明日、お前のところに行く。三日は居る予定だ。父より」
ゲームは俺の所属するチームの敗北をコミカルに歌い上げていた。
※この作品はワタクシの別作品
No.31 噺買1
http://ncode.syosetu.com/n2926cp/
No.34 噺買2
http://ncode.syosetu.com/n1805cq/
No.36 噺買3
http://ncode.syosetu.com/n7624cq/
これらの要素を含んでおります。読まなくても楽しめるとは思いますが、呼んでみた方が楽しめるかもしれません(二度目の露骨な誘導)
あい、またしても『噺買』デス……
いや
今回は元々『噺買』にする予定でした
元々『噺買』は色々設定が練り込まれているのですが、とある事情により
その練り込まれた物をそろそろ放出すべき時が来たと判断しました
ええ……まさかの前編です!
後編は一週間チャレンジNo.50で書こうと思います
ちなみにNo.50のお題はまだ決まっていません。どーなるかなぁ~(*´ω`*)
Q:ってことはあと10回は『噺買』で緊急回避とかはしないんですね
A:何ヲ言ッテルノカ分カラナイナ……
ここまでお読みいただき ありがとうございました
待て、次回!