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1-4 『社交界』というもの【前編】

「パーティー、ですか?」


父からの申し出に私は戸惑っていた。

久しぶりに父も揃い家族水入らずで夕食を楽しんでいる時、突然「来週末にパーティーがあってね。衿加も一緒に行こうか」と言われたのだ。


それでなぜ戸惑っているのか…そんなの、決まっている。

勉強を始めて早一年、四歳を少し過ぎた私は、あのスパルタな祖母から「まあ、いいでしょう」程度に誉められるくらいには『令嬢』としての道のりを順調に歩んでいた。

…それなのに、娘溺愛の父は未だにどこにも連れ出そうとしなかったからだ。


外出も限られた場所のみだったし、…勘違いでなければ、父は社交界と私を“意図的”に遠ざけているような気さえしていた。


とはいえ、いつまでも…というのは“高階家”の規模を考えると無理な話なので、父もどこかで折れるしかないのだが…父の様子を見るにそれは随分先のことだろうと思っていた。

それが今、パーティーへの誘いを受けている。



「…昔からお世話になってる方のパーティーなんだ。…私一人、というのは少し、ね」


その言葉にああ、と納得がいく。

本来ならば母を連れ立ってパーティーに行く父だが、今回母は一緒に行くことができない…だからこその私、という訳だ。


そう思い隣にいる母に視線を送る。

母は残念そうな表情を浮かべながら、お腹のあたりに優しく手をあてていた。


「衿加ちゃんの社交界デビュー…私も行きたかったわ」

「その話はもうしただろう?君はお腹の子のためにも安静にしていてくれ」

「わかってるけど…ずるいわ、私だけ留守番だなんて」


可愛らしく口を尖らせる母のお腹には、私の弟か妹が宿っている。安定期には入っているが、父としても安全を第一にと母を置いていくことにしたのだろう。

かといって父一人だけで行くというのもホスト側に申し訳ない…それが懇意にしている相手なら尚更というものだ。


母の様子に父も私も苦笑を浮かべるが、母は未だに諦めきれない様子でいるようだ。



(…でも、いいチャンスかも?)


日々勉強をしていてもそれを発揮する本番の場を経験したことがない。頭でっかちになる前に、実践を踏むべきだろう。

失敗を前提にするつもりはないが、万が一のこともある。それならば高階の名を汚したなんて言われないくらい、まだまだ小さいうちがいい。



「…お母さま。衿加にはまだお母さまの代わりがつとまるなんて思えません…でも、高階の娘として、失礼のないようにつとめたいと思います。だから、ご安心ください」


駄々をこねる母に、この家の娘として精一杯の言葉を送りつつ笑みを浮かべた。そんな私の様子を見た母もまた安心して笑みを…ではなく、ますます眉間を厳しくさせる。…え?え?なんで??


「…やっぱり、心配だわ。こんなに可愛らしいんだもの…あなた、ちゃんと見ていてね」

「当然さ。変な虫など寄ってきては困るからね」


……。どこまでも平常運転の両親を尻目に、途中だった夕食を続けることにした。




***




「(…わあ…!)」


初めて訪れる、我が家とはまた違った大きな屋敷に思わず目を見開いた。目は口ほどにものを言う…なんていうけど、目を通り越してバッチリ顔に出してしまった。いや、声を出さなかっただけ頑張ったと思う。


(これは…だって…)


週末になり、父と共にパーティーの主宰者の屋敷へと向かった。

一時間ほどの道のりを車に揺られて降りてみると、目の前にあるのはファンタジーの世界を連想させるような『お城』だった。

我が高階家が異人館をモチーフにした『洋館』だとするなら、目の前の屋敷…いや、もう本当にお城なんだけど、ここにあるのはまるでドイツやスイスの湖畔に佇む『お城』という印象。ー…車で来たはずなのに、ここが日本なのか疑いたくなってしまう程だ。


「さあ、衿加。おいで」

「…!はいっ」


呆けてた私と違ってこの情景に慣れているらしい父は何もなかったように私の手を引き、『お城』の中へと入っていく。

まるで映画のような世界…使用人も男性は燕尾服、女性はメイド服(丈の長いロングスカートだ)で統一されている。そのうちの一人に案内されて足を進めると、広々としたホールへとたどり着いた。



「…おお、高階か。よく来てくれた」

「本日はお招きいただき、ありがとうございます」


沢山の人々が談笑を楽しむホールの一角でゲストを対応している一人の男性。…父の対応から、彼がここの主なのだと悟った。

目力のある強い瞳と高い背丈、整った顔立ち…まさに『やり手の実業家』といった様子。年齢的には父と同じくらい…だろうか。


私は『高階家の令嬢』を意識して、父の横に並ぶ。

ちなみにドレスやアクセサリは母が見立ててくれた。濃紺色のミニドレスはフレンチスリーブになっており、開けた首元には乙女椿のネックレス。

母から譲り受けた白茶色の髪(直毛だけど)はサイドで編み込んでもらって、ハーフアップスタイルにしている。子供だからこれくらいでも問題ないだろう。


身なりを改めて確認し、姿勢正しく、気品を持って……うん、完璧。



「…ようやく連れてきたか。…親バカもほどほどにしないと子供に呆れられるからちょうどいい誘いだったろ?なぁ、娘?」


ー…予想外にフランクなノリできた。

え、ちょ、この場合はどう対応したらいいの?


「…娘を困らせないでください、ただでさえバカでかい城に困惑してるんですから」

「それはお前が普段から連れ歩かないからだろうが。…しっかし、さすがおまえらの娘って仕上がりだな」

「…娘の前で下品な物言いはやめてもらえますか」

「ハハッ、悪い悪い。で、名前は何て言うんだ?」


二人の遠慮のない会話の流れに完全に出鼻をくじかれて固まっていた私。というか、父のこういった面も初めて見る。…母とのほほんとしてる画しか見たことなかったもんね、気の知れた相手(と思う)だと、結構辛辣なとこもあるのか…それともこの人相手だからそうなのか…多分、両方正解かもしれない。


「…衿加、自己紹介は?」


父の言葉にハッと意識を取り戻した。

失敗した…と思いながらも顔には出さないようにして、改めて『令嬢』としての顔に切り替える。


「…しつれいしました。はじめまして。高階の娘、衿加でございます。本日はお招きいただきましてありがとうございます」


…『令嬢』らしく、かつ四歳らしく。

行き過ぎない具合で挨拶を述べると、笑顔を口許に添えて一礼をした。


「…へぇ。だいぶ賢そうだな、俺の息子とは大違いだ」

「当たり前です、我が家の可愛いお姫様ですから」


さも当然といった様子の父に主宰者側の男性が苦笑を通り越して顔を歪める。…うんうん、普通そんな反応するよね。私もそう思います。

長くなったので二つに分けます

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