枯葉一枚
テーマ:『枯葉』
意識していたというほどではないけれど、まあ男女関わらず、高校生にはありがちなことだと思う。親の隣に立ちたくないということは。どうしてなのかはよくわからないけれど、恥ずかしい。親の見た目に劣等感を抱くからではないだろうし、物質的不利益が生じるわけではない。おそらくそれは、発展途上下の青少年特有の、親に甘えている、と外部の人間に思われることに対する恐怖なのではないか。手元の箒を動かしながら、そうひとりごちる。
「友樹ぃ、五メートルおきにまとめといてね」
その言葉に返事はしない。無言のまま、箒を雑に動かす。ちらりと声のあった方に目を向けると、数メートル離れたところで、母は小さなちりとりと背丈相応に小さい箒を抱えてて、辺りを見渡していた。僅かに縮んだように見え、視線をすぐに戻す。
母との間に会話はない。何でもない、いつものことだ、今に限ったことじゃない。
「友樹」
あんだよ、と少し乱暴に返す。
「あんまり遠くに行かないでね」
思わず眉を寄せる。そんなこと言われるほど、子供じゃない。もうすぐ大学に上がるというのに。
母は変わらず、鼻歌なんて歌いながら、小さな箒をせかせかと動かしている。
やや大きめのため息をつく。
散らばった枯葉はいやらしく、箒でこすっても動こうとしない。いらだちに任せて、同じところをがしがしと掻く。それでも動かなくて、ちっと舌打ち。しゃがみこんで周囲に散在する葉を摘む。がさついた歯の表面に触れると、虫に触れたような嫌悪感がした。きっと睨み、次の葉を拾う。同じように右手に詰め、ぐしゃっと潰す。同じようにつまみ、詰めて、潰す。片手がいっぱいになったところで左手にも詰め始める。じきに、両手の中が、汚い木の葉でいっぱいになった。
母との距離の、ちょうど中間あたりにあるビニール袋の元へ行く。その途中、視界の隅で木の葉が落ちるのが見えた。重い首を上げて見上げると、赤や黄色の葉が美しく待っていた。茶色のものも、薄汚れ蝕まれたものでさえ、美しく見えた。きっとこの足元の葉は、こんなふうに空から落ちてきたものだったのだろう。気が付けば、風がまた吹き始めていた。
下の木の葉を拾おうとしゃがみ、手のひらをそっと開く。そのとき、案の定手の中からぐしゃぐしゃになった葉がばらまかれた。はぁ、とため息が出た。
「ほら」
視界に白いちりとりが放り込まれた。見上げると、すぐ目の前に母が立っていた。
何も言えず、それを手に取る。手早く辺りの木の葉とまとめて放り込み、後ろ背に放置していた箒を掴み、ずかずかとビニール袋の方へ向かう。さっと塵を入れ、母の方へ向かう。
そして母の持つ背丈の低い箒を奪い取り、さっきまで俺が使っていた背丈の高い箒を押し付けた。
あっちの方が腰が痛まないのかどうかはよくわからないけれど、辛そうにしてたら、今度は俺一人でやればいい。