お前は今日から
「あ……、ぅあ」
記憶が、無い。
覚えていることといえば、崖から落ちたことだけ。
どうして崖から落ちたのか、自分が誰なのか、わからない。
しかも、半端に生き残ってしまったようだ。
丁度足の感覚と右腕の感覚が無い。
おなかあたりもスースーする。
頭もぼんやりとする。
これは、致命傷なのか……?
痛い。苦しい。
息が出来ない。
致命傷であるなら今すぐ死なさせてくれ。
どうせ、記憶も無い。
自分が誰なのかさえわからないのに、今ここで生きる意味は無い。
大切な何かを忘れてしまった…ような。
胸のどこかから物を忘れてしまった…ような。
そんな気はするけれど、あのとき来てくれた裕香のために。
裕香?
何だそれは。
そういえば崖から落ちる途中でもそんなことを思い出した。
…でも、そんなこと思い出しても…。
「………」
重たくなってきた瞼を、急に吹いてきた風で無理に持ち上げられた。
めがかぴかぴする。
乾燥して涙が出たけど、それでも目を閉じることは出来なかった。
目に無理やりドライヤー当てられてるみたい…。
「…xaooourkhihdiwa」
「ああ。poihmsjedfoだろう」
……?
何語?
xaooou……。
「おい、お前。意識はあるか」
何だ。
急に、人語話し始めた。
「……駄目だな。こいつぁ使いもんにならんぜ」
「よし、ミッションコンプリートだな。連れて帰ろう」
言っていることが違うぞ。
目が涙で良く見えないけど、黒くて…背の高いのが2人?
ズボンに手を突っ込んだヤンキー風な男と…、やくざの親分みたいな顔に大きな傷のある男だ。
まだ、ぼんやりとしか…。
「坊ちゃんの?それとも譲ちゃんの?」
「…ここまでやばいんだったら坊のでいいだろ」
「バッ、マジか…!一日で壊れちまうぜ」
「死なないように魔法をかけるんだよ。馬鹿はお前だ」
「あーそうか。それならいいな」
坊?
坊の…何が何を何するの?
自分はどうなる?
このまま逃げるほどの体力も無い。
どうすることもできない……。
「感謝しろよ…?瀕死だったお前を助けたのは俺ってこと、覚えとくんだな。俺は優しいから頼ってくれたら助けるぜ」
「ハハッ、お前がそれ言うか。むしろ鬼畜だろ。弱い物いじめが好きな癖してさぁ」
「おい、それいったらつまんねーだろ。まー、別に今も意識があるかどうかわかんねーしどうでもいいんだけどなー」
ふわっと浮遊感。
どうやら持ち上げられたようだ。
私は結構身長大きくて体重重いほうだったな。
なんだか直感的に思い出した。
そうか、この人は大きい人か。
やくざふうのひと、ありがとう。
なんだか助けてくれるとか言ってるし、期待せずに期待する。