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犬も歩けば犬にあたる  作者: いふじ しゅう
「あの世界」と「この世界」~
6/7

ありがとシュン

「ところで……、アキモトシュンは死んだのか?」





 「ええ。崖の呪いによって記憶も薄れたでしょうし、第一あの高さでは助かる見込みもありません」





 「そうか…。もし生きていれば、大変なことになっただろうしな」





 「そうですね…。私たちは優秀な人材を育て魔王の生贄にするためにこうして召喚しているわけですから」





 「『切り裂き、燃やし、全てを壊す』の特別適性があったのを見たか?あの適性があればあるだけで魔王に不快感を与えるオーラを出すのだよ。他の二人に比べ容姿も整い能力も安定していたが……」






 会議のような静かな、どこか殺伐としたこの雰囲気の中二人が話していた。










 「なあ、」


 「どうした」


 「今日、勇者を一人殺したろ?」


 「ああ」


 「あの勇者、めちゃめちゃ美人だったよな」


 「…ああ」


 「死ぬくらいなら最後にお楽しみしときたかったぜ」


 「ほんとそうだな。…最近は碌な女もいやしない」


 「そういえば、勇者も一人の女も結構いい線いってたぞ」


 「暇があれば部屋に突入してみるか。もしかしたら男好きな奴かもしんねぇよ」




 肉体労働に精を出す二人。











 「ねぇ、そこあたしの部屋なんだけど」


 「えっ……、で、でも。ここは僕ので」


 「カンケーナシ。あたしのとまりたい部屋なの」






 一樹の専属メイドになるはずだった人間を金で買取、自分がメイドになった上で主人の部屋をぶん取る女。











 「…………」


 「…………」




 僕は今、裕香の部屋にいる。

 裕香の機嫌が悪い。

 裕香が今までに無く落ち込んでいる。

 僕は何も出来なかった何もしようとしなかった。

 僕は最低だ。僕は…秋本さんを見殺しにした。

 僕がかわりに死ねばよかったんだ。


 「……ね、裕「うっさい。黙れ馬鹿」





 裕香の機嫌がMAXに悪い。

 裕香が前例が無いほど深く沈んでいる。

 僕は何か出来なかったのかなにかしようとしなかったのか。

 僕は馬鹿だ。僕は…僕は…。

 僕が身代わりになってあげたい。






 小学3年生のとき、隣の席が秋本さんだった。

 絹よりなめらかな肌に、ちっちゃくって壊れちゃいそうなその体。

 ああ、あのころは僕よりも小さかったんだなぁ。


 真っ黒な髪の毛をストレートに伸ばし、…眼鏡をかけ始めたのは5年生のときだったかな。

 ずっと見てたんだ。クラスが変わっても、ずっと。


 猫みたいなその目に、めがねにぶつかってしまいそうなほど長い睫毛。

 細すぎず太すぎず、柔らかい体のままだった。6年生のときに胸がふくらみ始めた。僕、ちょっとストーカー?


 もちろん、顔がいいからって言うわけじゃない。

 彼女は、とてもいい人なんだ。

 秋本さんは覚えてないかもしれないけど、僕は秋元さんにしょっちゅう迷惑かけてたんだよ。

 


 暑い日に水をまくためのホースでびちょ濡れにしたり、怪我をして転んだときにおぶって保健室に連れて行ってもらったりね。

 一言で話すなら、機械に感情をスプーン一匙ぶんたしたみたいな人だった。





 僕はそんな秋元さんが好きだった。


 中学校2年生のときに身長が急激に延びたんだ。

 もう、クラスで一番後ろのほうで。

 でも僕は180センチだったから、一列になっても二列でも彼女の近くに行くことは出来なかった。

 それに、苗字が和田だった。和田一樹わだいつき。なんだか変な名前だが、出席番号も1番から30も離れてる。僕は30番だった。

 



 アキモト。 イトカワ。 ウカワ。 エビナ。 カニ。……ハシモト。 マミヤ。 ヨシダ。 ワダ。






 絶望的だった。偶然、なんてものは存在しなかった。


 こうして、僕がここにいるのは偶然でなく必然だったのかもしれない。

 僕は身長はでかいのに動きがのろい。クールとかいわれたこともあるが、ただ動じないだけだ。ていうか動けないだけだ。




 僕は臆病だ。僕は弱虫だ。


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