さよならの予感
私は、次の日には死んでしまうといわれたので裕香に遺書を書くことにした。
正直言って、あまり意味の無い物だし書かなくてもいいんだけど私はずっと前から遺書というものに多少の憧れを持っていた。
カッコいいものとして認識していた。
ほら、家にたくさんの手紙を残して死んだ少女もいるだろう。
「これでよし…と」
とりあえず、3つ作ってみた。
一つはもし元の世界に戻れたときのために。
一つは裕香に。
もう一つは…。誰にも見つからない場所に、私が存在したという痕跡を残すために。
裕香の彼氏(仮)とは一言しか話してないし、別にいらないよね。
ベッドでごろごろしながら私は鏡で自分の姿を見ていた。
言っておくがナルシストではない。
勇者(私は違う)にはたくさんの物が支給されるので、このふかふか天秤べッドもそれで貰った物だ。
まあ、明日には用がなくなるのだろうけど。
私は、明日死ぬというのに何故こんなに危機感とかそういうものが無いのだろう。
そう考えることも無駄だと、わかっているのだろうか。
もう夜だし眠いから頭が働かない。
ところで、私が鏡を見ていた理由だが頭のてっぺんの生え際から真っ黒だった髪の色がちょっとだけ違う色になっているのに気がついたのだ。
それも赤い髪。
さっき見てきたが、裕香にもその彼氏(もう仮では可哀想なので次からは一樹)には無かった。
黒髪から赤髪が生えるなんてなんかのアニメキャラにいそうで怖い。
パクリって言われたらどうしよう。
現実世界だからそれは無いか。
ああ、ドアが開いた。
もう時間?
寝過ごしてしまったのか。
でも外はまだ暗い。
夜のまま。
「……駿」
「あ、…裕香」
裕香が来てくれた。
裕香が。
嬉しいな。
今のわたしだったら、もし裕香が会いに来てくれなかったとしても満面の笑みで許すぐらいの勢いだったのに。
裕香は、なんでこんなふうにしかものを考えられない私と仲良くしてくれていたのだろう。
もしかしたら、正義感の強い裕香が虐められる(想像)寸前だった私を庇ってくれてたみたいな裏ストーリーがあったのかもしれない。
ああ、本当に裕香は優しかったんだな。
「どうしたの?あ、そういえば明日から魔法を教えてもらえるんでしょ。いいなぁ、私も魔法やってみたかった。ふふ、そんなに暗い顔して悲しいことでもあった?もしかして好きな人に振られたの?…冗談冗談!」
私は、早口で言った。
もちろん笑顔で。
作り笑顔ではないということを自分でも証明できないレベルだけど。
5秒くらい、間が空いた。
「駿、さ。知らなかったかもだけどね。あたしね、駿のこと大好きだったんだよ…」
「私も裕香のこと大好きだよ!」
「…ずっと……、ずっと前から好きだったんだよ。今日の駿、なんかおかしいよ。どうしちゃったの……?あたしに気を使わなくてもいいよ。むしろ気を使うのはあたしのほうでしょ。…ご、ごめんね。最後の最後にこんなことしかいえなくて」
私は、少し動揺した。
裕香が私をここまで気にかけてくれてると思わなかったから。
もちろん、裕香が気が利かない奴だといっているわけではない。
「あたし、今まで駿にたくさん救われてきた。たくさん助けてもらってたんだよ。駿はかわいいし頭もいいし運動もできるし。ちょっとポジティブになれば完璧だったね。中学のとき、3人いた美少女ズの一位は駿だった。2位と3位は知らないけど」
「なあに言ってるの!そんなわけないでしょ…。私が一位なら裕香はもっと上でしょ(笑)ね?だって、3位は裕香で2位は小林さん(登場してない)。一位は生徒会長(未登場)で…」
「生徒会長って、そんなに人気無かったはずだよ。小林さんはぶりっ子だから除外されたしね。もしあたしが運悪く3位だとしても、駿の可愛さはあたしとは桁が違うんだ」
「…そ、そんなことないけどね」
「……さっきの。最初に駿が言ってた言葉さ。今日の朝あたしが駿に言った言葉に凄く似てる。駿、気付いてた?駿が人の言葉真似するときは大抵悲しんでるんだよ。でもほとんどの場合、駿はそれを悲しみとして認識してない」
「だ、大丈夫だよ…!気にしないでいいから!ほら、まだ私は生きてるしまだまだ元気だよ!あ、じゃあのこりが少ないからちょっとしか使えないけど、このケータイから電話かメール送るからね!もし、……私が生きていたら」
苦し紛れの一言。いや、もっと長いか。
「…そうだね。こっちの世界って、ろくに文化とかも発達して無いくせにスマホは普通に使えるんだもんね。圏外マークで無いんだもんね。わかった。じゃあ、もし元気ならメールを送って。元気じゃないなら電話。もし喋れないような状況なら息をするだけでもいいからね。…本当は渡しちゃいけないんだけど、コレもあげる。光属性の魔法使いが籠めに籠めて作ったライトだよ。正式な名前はランタンっていうんだけど、南瓜みたいなのに光が入ってるだけだから。勇者への支給貧ね」
「ありがとう、裕香。…もし、もうあえないとしても私は裕香のこと絶対忘れないからね。絶対絶対絶対ぜっーーたい!!」