生き残る可能性を除外
少し短いです
「召喚、成功しました」
頭痛が消えた。
私は状況を理解できずまばたきを数回した。
床に寝転んでいたはずなのにいつのまにか私は立っていた。
「……ふむ。今回の召喚では3人か」
「ええ。ですが、失敗ではないようです。こちらのほうに有利な力が働いているようですし。ああ、心配はご無用です。こちらの会話は聞こえないようになっています」
私は、頭がおかしくなってしまったのだろうか。
それとも、夢を見ているのだろうか。
会話、聞こえている。
裕香とその彼氏(仮)もいる。
場所は石造りの建物、立派だ。
赤い絨毯がひいてあってその先に大きな椅子がある。そこに王冠をつけた太った人が座っている。
今のところは大丈夫そうだけれど。
「召喚されしものよ。我はこの国の王だ。名はペリサンタ・マリカロス。マリカロス王国はお前たちのような召喚されしものをほかに3人連れている。どうだ、魔王を殺すたびに出るために勇者になってはくれぬか」
これは、小説なんかでよくあるテンプレなのか…?
このままだと私は魔王を倒さなくてはいけないのか。
「…ゆ、勇者にならない選択肢は…?」
「勿論それでも良い。ただし、魔王を倒さなければ元の世界へと戻る扉が開かれないぞ。我らが異世界から人を呼び出しているのも昔倒した魔王の力を利用しているものだからな」
「あ、あはは…。さっきまで普通の高校生だったのに、いきなり勇者かぁ。駿、どうする…?」
「秋元さん…」
裕香が私に全てを託してきたようだ。
私は、元の世界に戻りたい。
だから、勇者になる道を選ぼう。
「私は…勇者を選ぶ。裕香は?」
「駿が行くならあたしも」
「えっ、…ぼ、僕も!」
「…おや、不都合が発生したようで。勇者は2人までだそうですよ?」
王様みたいな人の横に立っていた頭が良さそうで優秀そうな人が言った言葉を私はただ黙って聞いていた。
つまり…、一人だけ勇者になれない?
「この国では勇者パーティは5人までなんです。既に3名勇者がいるので貴方方3名の中から一人選んでください」
5人まで…。
「…残った一人は安全な場所にいさせてもらえるんですか?」
裕香が言った。
私は、もし安全なら裕香に残ってもらいたいなと思った。
裕香の彼氏(仮)は…男だから戦ってもらおう。
「……すまないが、召喚されしものはこちらの世界に体が合わず特別な称号を持っていないと一週間で腐り落ちてしまう。少しでも苦しみを減らすためと、儀式を行った後国の、ある山のある場所から突き落とすのだ。勿論即死だろう。そう悲しむことは無い。その魂はなくならないのだから新しき転生者をこの世界中探せばいいこと」
「…そんな」
私は、悲しい気持ちになった。
裕香やその彼氏(仮)と、また楽しい日常が始まると思ってた。
その彼氏(仮)はおまけでしかないけれど同じ時を過ごしている仲間だ。
「なら、私が残ります。私を残らせてください」
私が言った。
「駄目です。駿は世界に必要な人間です。残るべきは私で…!」
裕香も言った。
「…裕香。駄目でしょ。私…ね、嬉しかったんだよ?あの日、友達になろうって言ってくれて。私にとって裕香は命の次に、いや命より大事な存在なの。裕香が死ぬならわたしも死ぬ。でも、それよりはわたしだけが死んで裕香は生き残って」
ああ。
ごめんね。
また、私貧乏くじひいた?
そんなことない。
私は、裕香のことが大好きだ。勿論友達的な意味で。
だから、何があっても死んでほしくない。
裕香は悲しむかもしれないけど、できることなら私は裕香より先に死にたい。
裕香の死に顔を見たくない。
これで、さよならだね。