041:『汚れ』
薄暗い境内の中、ボロボロで風でも倒壊してしまうのではないのかと言うほどに壊滅的な建物。
数十年前ならばきっとそれなりの価値があったのではないかという様な歴史的建造物の中に忽然と姿を現した少女がいた。
「いやー 私が本当に何をしたと言うのですか 言いたいのでしょうか」
己己己己は「ふっ」と笑った様な声を出した後言う
「何をしたもないよ 全てだよ 全部さ 君は全てをしたんだ 何もかもね あ〜大丈夫大丈夫 これ以上何も言わないさ 無意味だからね 質問があるならば何でも問うといい 分かる事なら何でも答えよう」
「ちょっと待ってくれ己己己己殿 一体誰と話しているんだ」
景がどこからか出したのか木刀を持って、それを右左と振りながら言った
「君達にはもう彼女は見えないよ 彼が正しいのかな・・・ まぁとにかくもう見えない 君達は灯夜君–––つまりは黒に封印されてしまったからね もはや神でも何でもない 人間ですらね」
「私は・・・」
と美月が言いかけたところでまた己己己己が遮る
「私は封印されてないって? そりゃあそうだ 君は、はなから黒側だからね 封印も何もないんだよ 分かりやすくいえば もうすでに済んでいる」
「私たちは」
と志乃芽と志乃花が言いかけたところでまたも己己己己
「君達はそもそも神じゃあない 簡単言ったところの 霊障を負ったただの人間だ」
まだ火の付いていない煙草を4人に向けながら続ける
「だが君達は灯夜君に感謝した方がいい」
そう言うと、己己己己はその感謝を煙草に火を付けながら説明した
美月、景の今の状況は人間と神との中間、殆ど人間より
志乃芽、志乃花のメカ姉妹は、実は元々深刻な霊障を負っており、それは幼少期に負ったものらしいのだが、原因は今となっては分からない
そんな4人は灯夜という黒により、封印または霊障の上書きをされた事により今ここに立っている。
もしもそのままでいたら4人とも死ぬどころか、もう生まれる事すら出来なくなっていたと言う。
「それじゃあ灯夜殿は私達を助ける為に・・・」
「それはどうかな きっと灯夜君は無意識何じゃあないかな 彼はとことんお人好しだからねぇ」
そう言いながら、己己己己は誰もいない境内の壁を、己己己己から見たら左側の壁の方を向く
そして己己己己はその壁の前まで歩き、壁の前の空間をさながら猫の首根っこを掴む様にして見せながら4人に向かって言う
「こっちに来てみなよ いいものを見せてあげよう」
4人は少しオロオロしている様な様子はあるものの、スタスタと己己己己の前まで歩く
途端に己己己己が4人の右肩に素早くパンパンパンパンと触れた
「と、灯夜」
「灯夜殿!」
「お兄ちゃん!!」
4人は一斉に叫んだ
「はぁ〜 怖い恐い 怖くて恐くて恐怖ですよ」
と己己己己に首を掴まれた灯夜が姿を現した
景が持っていた木刀を床に落としながら言う
「灯夜殿心配したではありませんか どこに行っていたのです」
己己己己はただにやりと笑っている
「景さんこの人お兄ちゃんじゃあない」
志乃花が睨みつけながら言った
「えっ? どこからどう見ても灯夜殿じゃあ・・・」
「お兄ちゃんはどこなの!!」
そんな声とともに志乃芽が一撃で境内の壁に拳で穴を開けた
すかさず美月も口を開いた
「あなた誰だかわからないけれど、気持ち悪い 本当に生きているの」
景は灯夜の前から一歩下がる
己己己己はというと、まだにやけている
「当たりでも外れでもないですね 外れではないけれど当たってもいないです」
灯夜は無表情で言った。
その声は死んでいた。
声が死んでいるとはおかしな話ではあるのだが、この時の灯夜のその声は本当に死んでいた。
言葉として成立していないかの如く生きてはいなかった。
死んだ声の灯夜は続ける
「全ては時間が解決してくれるとはよく言ったものですが、そんなことは無かった様ですね 時間が解決してくれるならば探偵なんていらないですからね 私だってこの世に生まれる事はなかったでしょうし 時間とは全ての物に平等に与えられていると言う愚か者がいますが それはない 絶対にありえない だって重力は光を閉じ込め時間をも歪めてしまうんですよ それならばブラックホールには同じ時間が通用しないですよね 地上よりも高い所の方が時間の流れが早かったという話だってありますし」
「つまりお前は何が言いたいんだ」
景が声を荒げて言った
「貴女達がチンタラやってるからこんな事になったんだろ 弱者を振りかざすなよ それはもう立派な武器で凶器だ」
無表情で、死んだ声で、灯夜のこの姿からはおよそ今まで発声した事のないであろう言葉を吐いた
「もうその位にしてくれないか その姿でそんな言葉を言わないでほしなぁ 僕等の仲間 世界の敵は絶対にそんな言葉は言わない 汚すんじゃねぇよ」




