040:『消失』
己己己己はチャラい男である。
そんな事はもはや常識とも言えるだろう事柄だ。
火は暑い
氷は冷たい
と言ったぐらいに常識。
普通で当たり前な事なのだが、そんな常識が覆る時がある。
常識が覆る時、普通が普通でいられなくなる時、必ず何かが起きるのだ。
「この世界にとって灯夜君は敵だ」
己己己己は白いスーツ姿に七三分けで、革靴という姿でこう言い放った。
神社の境内
ボロボロのその境内に美月、景、メカ姉妹こと志乃芽、志乃花は集まり己己己己の話を聴いていた。
「何でっ!!」
志乃芽がどしっと右足を踏み出したことによりボロボロの境内の床はビキッと音を立てる
もう一度志乃芽の力で踏み込めば、その床は床の天命を終えるだろうという位の力で踏み込んでいた。
いくらボロボロの境内の床とはいえ、己己己己が生活出来るくらいには床としての役目を果たしてはいた。
志乃芽にとってはその位に己己己己の発言が聞き捨てならなかったのだろうか。
話を聴いていた他の3人は何かを堪える様に歯を食いしばったり、下をむいていたりしていた。
己己己己は煙草に火を付け一吸いした後、天を仰いで煙を吐いた後、ゆっくりと口を開く
志乃芽の発言の後、己己己己の発言までには少しの時間があった事によって、ボロボロの境内には独特の重い空気のが生まれていた。
「そのままの意味だよ 灯夜君はこの世界の敵なんだ」
「敵なのは分かりました。 では、なぜ灯夜殿がこの世界の敵なのか、敵になってしまったのかを教えていただきたい」
立ち上がり、握った両の手を両腿に打ち付け、動揺を隠す様に言葉遣いだけは丁寧に景は言う
「そんなに怒らないでおくれ 世界が灯夜君の敵なだけで、僕が灯夜君の敵とは言っていないよ」
外を吹く一迅の風がボロボロの境内の戸をガタガタと揺らす
「お兄ちゃん誰かに殺されてしまったの?」
志乃花が涙を浮かべながら正座をした膝の上で拳を握り締めて言う
「死んではいない 他人が灯夜君を殺す事は不可能だと思うね」
「良かった・・・ 灯夜は生きているんだね」
美月が体育座りをした膝に口を押し当て言った
己己己己は無言のまま組んでいた足を組みかえる
ある日の朝、灯夜は消えた
寝室で 基、神室で寝ている筈の灯夜をいつもの様に、志乃芽 志乃花が起こしにいったところそこには灯夜を居らず、灯夜がさっきまで寝ていたであろう布団がまだ暖かいまま有っただけだった。
「お兄ちゃーん」と、だんだんと声を荒げて呼ぶ声にただ事じゃないと、ちょうど朝食の準備を終えた景と顔を洗っていた美月が駆けつけた
「どうしたのだ妹姉妹!」
志乃芽 志乃花は経緯を二人に話した
「灯夜! 灯夜―!」
一番取り乱していたのは美月である
人が隠れる事は出来ないであろう大きさのタンスの中まで探し出した。
灯夜は5人での生活が始まってから一度たりとも妹達に起こされる前に起きた事はない。
その後も4人は灯夜を探し神社の敷地内を探し、最後に境内に入った時、スーツ姿の己己己己に言われた。
「灯夜君はもう居ないよ」
今に至る
トントンと灰皿に己己己己が溜まりに溜まった灰を落としながら「他人にはね」と呟いた
「どういう意味だよ! 何が言いたい!」
今度は床が壊れた。
バキッと大きな音を立てながら、さっきまで床として微かな炎を灯していた板が、志乃芽の行動によって天命を全うした。
「灯夜は自殺なんてしない!」
立ち上がり小さな体を精一杯ブンブンと震わしながら美月が叫ぶ
身体に合わない位大きな声をだしたもんで、美月のその声は裏返っていた。
「いや、灯夜君は死んではいないとさっき言ったよ」
「ただ」と己己己己は続ける
「ただ、命が危ういのには変わりはないね。 現に今僕たちの目に灯夜君の姿は見えなくなっている。 それはつまり命が消えかかっているという事」
「灯夜殿は・・・」
言いかけた時、境内の扉がガタガタと明らかに風ではなく人為的に、誰かが戸を開けた様に音を立て戸が開いた。
が、そこには誰も居ない
4人はキョロキョロと周りを見渡したり境内の外を見たりしても誰もいない。
オロオロとしていると急に己己己己が口を開いた
「君はお呼びではないのだけれどね」
「それは口惜しい」
どこからともなく声がした
己己己己はその声の主を認識している様だが、4人は見付けられずにまだオロオロとしていると
「まるで私が悪者の様な雰囲気ですねー」
そんな声に対して、煙草の火を消して己己己己が口を開いた
「返してもらおうか世界の敵を 僕等の友達を」
「いやいや私が何をしたと言うのですか 誤解ですよ誤解 私が他人を傷つける筈がないじゃないですかー」
「誰も他人をどうとかなんて言っていないよ 君は自分自身をどうにかしたんだろう ミヤ君 それとも みのり君と呼べばいいのかな」




