039:『私』
私は知っていた。
私は私ではない事を
私は知っていた。
私は私でいてはいけない事を
私は知っていた。
私はもうここには居られない事を
ここというか、全てに居られない
居てはいけない存在なのだ
この街に
この世界に
貴方のそばに
もう随分と無理もした
反則だって犯した
いずれ消えてなくなるのに何で生まれてくるのか
そんな事考えてもキリが無いのは分かっているけれど
考えずにはいられない
私は突然生まれた
それは私の意思とは関係なく
私の希望、願望なんか聞きもせず
神は無理矢理に、強引にこの世に私を落とした
ああ、私生まれたんだ。
全て分かっている
こんな色のな無い寂しい世界に私の生まれた理由
こんな醜い世界に生まれた理由
生まれたんだと気づいた時、私は湖畔に立ち尽くしていた
ああ、なんて夕陽が美しいのか
この世界に強引に、突然に生まれ落ちた自分の姿が水面に反射して見えた
この容姿は私によく似合っている
まるで私の心が目に見えているかの様
色のない世界でもよくわかるはっきりとした黒と白
潔い程に黒く
呆れる程に白い
「よし、気に入った」
こんなんでも私は私だ
私は私でしかない
私が私である理由が無とも私が私だと認識、自覚しているならば、それは紛れもなく私なのだ。
私が私としての歴史などは全くと言っていいほどに無いけれど
それが私だ。
それこそが私なんだと思う。
こんな時あの人ならばもう少し上手い言葉が出てくるんだろうけれど、私にはこのくらいが丁度良い。
面白い事も何も言えないけれど、それこそが私。
だって、なんたって私は生まれたて。
今さっき生まれた。
いわば、新生児の様なものなのだから。
右も左も馬手弓手も私がやるべき事も分かるけれど。
この世界での上手な世渡りの仕方など分からない。
少し面倒な気もするけれども私が私である為にやらなきゃならない事、至上命題は仕方がないから努めるとするか、、、
「今行きますよ、待っててください先輩」
手元にあった日記帳を最後の笑顔で閉じ、それ以来表情を失った。




