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038:『静寂の騒然』



時間が過ぎた。



実際にはそれ程時間は経っていないのだとは思うが、俺の体感では10年位の時は経ったのではないかと思う位に長い時間だった。

体験だった。


今となっては、その体感でいうと10年位の時間の出来事も遥か遠くの水平線の様にぼんやりとしか思い出せない。

楽しかったような、辛かったような、悲しかったような、幸せだったような・・・


いや、おそらくその全ての感情を体感の10年で体験したのだと思う。


しかし不思議な体験だったな。

こんなリアルな夢もあるもんなんだな。


と、周りを見渡した。


・・・・・・


一体ここは何処なのだろうか。


俺は夢を見ていたんだとは思うのだが、眠りに付いた記憶が全くない。


一見するとここは自宅の俺の部屋なのだが何かが違う

全然落ち着けない


例えるならば、友達の家で昼食をご馳走になっている時に友達がトイレか何かで退席し、友達のお母さんと2人きりにされた時のような感覚、モヤモヤのような、心細そさにも似たようななんとも言い表しにくい感覚。


でもまあ、別段自宅と変わった所もなく、ここは確かに俺の家なのだが俺のいるべきところではないような感覚すら感じてしまう。



「父さーん!」


「母さーん!」


「志乃芽―!」


「志乃花―!」


と、まあ確かに俺の家なのだからこんな大声で家族を呼ぶのも俺の勝手だろう。


なんだよ誰もいないじゃあないか。

買い物にでも出かけたのかな。



ふと、壁の日めくりカレンダーが目に入った。


今日は6月20日か・・・


ん?


何かがおかしい

確かに6月20日だ

6月20日には6月20日なのだが、これは俺の知っている6月20日じゃあなかった


それは、全く知らない6月20日––初めての6月20日––未体験の6月20日だったのだ


俺の知っている6月20日から2年後の6月20日だった。


これじゃあ、俺は2年間も眠っていたのだろうか。


恐ろしさと不安から身体が震える


身体を震わせ、冷汗をかきながら家中を歩き回り、最後の部屋の扉を開けたのだが案の定誰も居ない

誰もいないのは想像がつくほど家は静まり返っていたから誰も居ない事自体には心構えができていた。


だが、どんどん不安が増してくる

何かの事件なのか、神隠し?

いな、俺が神隠しにあった側?

それともただ出かけているだけなのか?


たまらなくなった俺は誰でもいいから人に会いたいと思い、気が付いたらサンダルで外を走っていた。

片方のサンダルは何処かで落としたらしい

右足の裏がズキズキ痛むのがかえって俺の意識を保っていた。


しばらく走っていると気が付いた事があった。


いったい何時間走り回っていたのだろうか、辺りはすっかり暗くなり夜になっていたのだ。


道の街灯が次々と薄暗く光り始めていく


流石にこれ程人に会えないと頭がおかしくなってきたようで、俺は道のど真ん中で空を見上げて横たわって騒いでいた。


「ヴァーーー!」「ヴェーーー!」


声にならない声で騒いで喉に血のような味が広がり出した頃、急に目の前が視界不良になる。


視界不良と言っても本当に視界が不良だった。


視界が不良により視界不良だったのだ。


「そんなに騒いで頭大丈夫でしょうか」


天を仰いで横たわって異常に騒いでいる俺を覗き込む様にして1人の不良少女が無表情で話かけてくる。


言葉使いだけはいい不良なのかな


言葉使いもいいのか悪いのか分からないような内容ではあるけれども・・・


「貴方は遂に頭がおかしくなったのですね」


やっぱり言葉使い云々の話は無かった事にしよう。


何で俺がこの少女を不良だと判断したのかというと、少女は私立上神しりつじょうしん高校の女子制服を着ていて俺の知っている私立上神高校の女子のスカートならば膝上3cm位の長さが標準なのだ。

一方この娘のスカートの丈は地面に付くのではないのかという程に長かったから

俺の思う女番長スケバン像にぴったりとハマったからという勝手な判断だった。


「君は・・・」


と言いかけた所で不良少女は、「はぁ」と溜息をついた後、渋々と口を開いた。


「またですか? 本当に貴方という方は何でこうも忘れっぽいのかなぁ 灯夜先輩」


「灯夜先輩? 灯夜とは俺の事なのか?」


「本当にどうしようもないですね 私のことだけでも十分なのに、ましてや自分すら忘れてしまうなんて」


少女は吸い込まれてしまう程の真黒い瞳と腰まである髪の毛

つい吐いた息を吸い込むのを忘れてしまう程の美しい瞳と髪の毛

それに負けない位の主張をする白い肌

なんかもうこの娘を見ているだけで恐怖さえ覚えてしまう


少女は覗き込んでいた上半身を髪を翻しながら起こしたと思ったら、今度は白くてすらっとした足に履いていたローファーを左足だけ脱ぎその足を俺の顔面に乗せこう言ったのだった。


「貴方は・・・灯夜先輩は本当にバカです」


「どんだけお人好しなんですか」


「何をしたのかちゃんと分かっているんですか」


全然分かっていない。


俺は誰なのか、この娘は誰なのか、この綺麗な足で踏まれている幸福な––もとい、不思議な状況は何なのか


俺は何も知らない


少女は例の如く無表情で続ける


「そんな愚かなバカの先輩にはこの姿がよく似合いますよ本当に」


「でも、会えてよかった・・・」


そう言った少女の今までずっと、何をいう時も、俺の顔に足を乗せた時だって一切崩さなかった表情が一瞬変わったのが顔面に乗せられた少女の足の横から見えた気がした。


「あ、あの、そろそろこの足を退けてくれないかな」


「絶対嫌です!!」


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