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002:『初夜』

 俺は一日たりとも、夜を失ったあの日の事を忘れた事は無い。

 たとえ忘れていたとしても、一日の終わりに必ず思い出す。

 俺には夜が訪れないのだから、嫌でも思い出してしまう。

 まぁ、俺が承諾した事だからしょうがないのだが・・・

 それより、あの血だらけの男が言ってた『時が来たら』とは、何時その時が来るんだよ。



 俺には夜が来ない。正確には、夜を知らないと言った方がいいのだろうか?

 夜が来る前に、俺は眠りに落ちてしまう。

 ナルコレプシーという日中でもいきなり睡魔に襲われる病の事を聞いたことがあるが、俺のはこのナルコレプシーとは違うのだろう。俺のは睡魔というのではなく、強制終了の様なものだと思う。

 パーソナルコンピュータで例えると、スリープモードではなくシャットダウンといったところだろうか。

 全く意味が分からない限りだ。

 もしも寝てる時に大きな地震や火事でもあったら、俺は死んでしまうじゃあないか・・・

 まさか家族に寝てる俺を担いで逃げてくれなんて言えないし・・・

 まあ、そんな事今はどうでもいいか。

 

 でも、この体に色々と疑問は有る。

 何をしていても気づくとベットで朝を迎えている。

 宿題をしていようと、外に居ようと、気づけば朝だ。

 しかも、ちゃんとやることはやっているんだ。

 

 全くこの体は何だっていうんだよ。

 やることはやってあるから、宿題とかに関しては便利な限りではあるのだが。


 だから、俺は部活にも入らずに学校が終わったら家まで直行する。友達ともほとんど外で遊んだ事は無い。

 そもそも、友達と呼べる程親しい人はいないし、部活なんて面倒くさいから、こんな体じゃあなくとも入ってはいなかっただろうが。


 今日も家まで直進コース


 俺はこの体のお陰なのか、超が付くほど規則正しいのである。

 起床し、身支度を済まして朝食。そして登校。

 学校が終わると、学校の近くに有る文房具店の前に居る猫を眺めて(これはどうでも良い)家まで直進。

 家に着くなり入浴を先に済まし、夕食を取る。

 歯を磨き部屋に戻り、宿題に手を付けたり付けなかったり(やらなくても朝には終わっているから)後はテレビを少々見て寝る!


 どうだ! これが俺の一日だ! the普通!


 こんな規則正しい高校生なんて何処にいるだろうか。ってのは強がりで、本心はもっと遊びたい。もっと普通の学生みたいに青春がしたい。

 まあ、しょうがない事なのですよ。何度も言いますがこの私、黒峰 灯夜には夜というものが無いのですから。


 っと、今日も規則正しく一日が終わろうとしていますよ。

 では皆さんお休みなさい(zzZZ)



​ ・・・・・・ん? 何事だ? 揺れてる? 床が?


 否、揺れているのは床なんかじゃあない。


 地震の様にグラグラと、まるで頭を円を描く様に回されている風な感覚。目眩とか、立ちくらみとかとも違う。本当に頭を、脳そのものを手掴みでグルグルと回されるみたいな感覚。

 確かに揺れている。目を閉じていても目が回っている。グラグラとグルグルと。

 まるで鎖鎌の鎖の先に付けられた分銅の気持ちだ。

 『お前はこんな気持ちだったんだな』


 と、そこで俺はめを開けた。

 

 「なっ、何なんだここは?! 真暗で何も見えない・・・」


 【一寸先は闇】ということわざがあるが、俺はその諺を文字通りの意味で、今まさに味わっている。

 一寸とは、現代の単位で約三(cm)ではあるが、もはや一寸どころではない。眼球が黒く塗りつぶされたのではないかと思う程に、俺には前が見えなかった。


 「とりあえず明かりを」


 そもそも蛍光灯なんて何の為にあるのか。地下室でもあるまいし蛍光灯を部屋の天井に取り付ける意味が分からない。

 それなのに、どの部屋にも天井には蛍光灯が設置されている。

 確かに、日差しが強すぎる時にカーテンを閉め切ればそれは部屋は暗くはなるだろうが、それはレースのカーテンを閉めればいいだけだし、空が雲っていたとしても生活に支障をきたす程の暗さににも思えない。

 まあ、曇っている時には、明かりがあれば過ごしやすいのだろう。

 と、こんな益体やくたいも無い事を考えながら、久しぶりに点ける照明器具のスイッチをベッドの上から手探りで探し出し、その片切りスイッチの片方を押した。


 「え゛ぇーーー?!」


 明かりが点いた部屋で、俺は驚いた。意味が分からない。


 「誰だよお前?!」


 俺の横では、まるで小動物の様な可愛らしい少女が寝ていた。



 「おい!  お・き・ろ! お前誰だよ?! 何でこんな所で寝てんだよ?! おーい」


 「んんー? お休みなさーい」


 と、小動物――ではなく、少女は眠そうに言う。


 「お休みじゃない! 起きろよ! お・は・よ・う・ご・ざ・い・ま・す! 」

 

 「本当に何なの灯夜? 寝てんだから起こさないでよー」


 ちょっと待てよ。今こいつ、灯夜って言ったよな。

 何でこいつが俺の名前を知っているんだ?

 俺はこんな知らない。見た事もない。


 「おい! お前は何で俺の事知ってんだよ?」


 「何でって・・・灯夜どうしたの? いっつも一緒に居るじゃんか」


 この娘は何を言っているんだ。いつも一緒にいるだと?


 「待てよ! 俺がお前といつも一緒だと?! 待て待て、待ってくれ! そもそもお前は誰なんだよ?!」


 「誰って、水瀬(みなせ) 美月(みつき) だよ。どうしたの灯夜? 急に騒ぎ出してさ」


 いや、知らない。そんな娘、今の俺の記憶には存在しない。

 

 「水瀬? 美月? はぁ? 誰だよ?!」


 「灯夜酷いよ、私を忘れるなんて! 仕事も終わったし夜なんだからもう寝ようよ」


 夜だと? これが夜、なのか? こんな真暗な世界が夜だというのか。

 これが、こんなのが夜・・・

 なんて考えていたら、美月とかいう少女は「ん?」と、上半身を急にお越し、まだ寝ぼけているのか周りをキョロキョロと見回しだしたと思ったら、今度はおろおろとしだす。

 

 「やばい! どうしようどうしよう」

 

 「どうしたんだよいったい? とりあえず落ち着けよ。俺もパニック中なんだ、これ以上悪化させないでくれよ」 


 「だって・・・夜だよ。夜になったんだよ」


 こいつは何を言ってんだ?

 これが夜なのだとして、少女が隣で寝ている・・・この状況、これが所謂いわゆる【初夜】というやつなのか。 


 ん?


 そういえば。あの男のは言っていた。時が来たら少女と出会うと。


 もしも、あの男が言っていたその時っていうのが今だとしたら、じゃあこの小動物みたいな少女は・・・あいつの娘、だというのか。

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