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027:『日常変化』

 日常__毎日繰り返される普段の生活、常日頃。

 などと辞書には記載されている。


 日常とは一言で言ったものだが、本来日常とはそんな簡単に説明できるような言葉ではないと俺は思うのだ。

 日常という言葉の意味だけを説明するなれば、辞書に載っているそんな一言で表せられる言葉でも良いとは思うのだが、日常とは具体的には何? と訊かれれば、一言でなんて説明しきれない。

 そもそもこの世界には人の数だけ違った日常がある。人だけではなく、神だって、動物にだって、物にだって日常があるのだ。もしかしたらば、色にだって日常があるのかもしれない。

 まぁ、物や色自体には感情なんてものは存在しないのだが、だからといって日常が無いという事でもなかろう。

 例えば、人工的に作られた物ならば人に使われるという日常がある。自然界に存在する物で、人目に付かず、動物の目にすら付かない物、何者にも触れられる事のない物。そんな物であっても『何も無い』という日常があるのだ。

 更に細かく言うのならば、何も無いというのは少しばかり違う。どんな物でも雨や風、水などの自然にさらされ、少しずつでも変化はあるのだから、この世の物にとって、何も無い日常などという事は本来有り得ないのだ。


 感情が無く、自らの意思で行動をしない『物』にでも変化があるのだから、人の日常とは、毎日繰り返される普段の生活、常日頃とは、『物』に比べて遥かに信頼性に欠けている。


 毎日正確に同じ事しかしない人間なんて何処にもいないだろう。もしもそんな人がいるのなら、それはもう人間ではなくロボットか何かなのだろう。

 まぁ、毎日同じ動きしかしないロボットでも、それは毎日の動きが同じというだけで、操作する人や環境が違ったり、極端に言えば『時』が違うのだから、ロボットであろうとも完全に、完璧に同じ事を毎日繰り返しているわけではない、繰り返せないのだ。


 と、まぁ、日常という言葉に対してこんなにも喧嘩を売らなくても良かったのだが、今回俺が言いたい事は、人間の日常とは大雑把で、いいかげんなのだという事である。

 大雑把でいいかげんとは言ったが、決してそれが悪い事だとは言わない。むしろそれが良い。


 プロの料理人が作る同じ料理を毎日食べていたら、同じ味に人は飽きてしまう。

 じゃあ何で、お袋の味というのは飽きが来ないのか。

 いくら料理が不得手なお父さんお母さんであろうとも、毎日同じ献立ではないだろうから、少々分かりづらいとは思うが、ならば、【おかず】ではなく汁物、【味噌汁】ならどうだろう? 


 味噌汁ならば具材が変わる事はあっても出汁に味噌で味をとっている事は変わらない。

 では、そんな味噌汁をほぼ毎日食しているにも関わらず、プロの料理人が作る味噌汁を毎日食べれば飽きるのに対して、お袋の味には飽きが来ないのは何故なのか。


 それは、お母さんの味付けというのは、【大雑把】で【いいかげん】だから。そんな理由である。

 良い意味で大雑把、良い意味でいいかげんなのだ。

 『今日はしょっぱかった』とか『今日は薄かった』とか『今日は丁度良い』とか。

 そんな感じに、人の日常も『今日は辛かった』とか『今日はつまらなかった』とか『今日は楽しかった』とか。同じ日常でも少しずつ違った味付けなのだ。

 

 だから人は話す。だから人は記す。だから人は残す。


 自分の日常を。自分の今日の献立を。

 

 言葉にして。書き記して。大切にして。


 それが物語なんだ。


 

 俺にとっての日常、 毎日繰り返される普段の生活、常日頃とは何だろう。

 今までの、人間の頃の俺の日常ならば、先にも日記に書いた様に、ほとんど変わらない日常、普段、常日頃だったのだが。そのままの生活が続いたならば、俺は今頃日記を書いていなかったはずだ。


 俺は文字に記して、それを読み返さなくては昨日の記憶を脳内に記憶する事が出来ないのだが、そんな記憶障害であっても、人間の頃、あの頃のほとんど変わらない毎日が続いていたのならば、よっぽど大切な事でもない限り日記を書く事はなかったに違いない。

 何故かというと...


 思い出す必要がないから。


 この奇妙な体質の所為せいで俺の生活は日記に書く程に変わった出来事は無い。

 料理でいえば、新たに覚える程でもない分量、割、レシピなのだ。

 新たに覚える程でもないものを、既に書き留めている分量、割、レシピを新たに紙を減らして、ペンのインクを減らして、時間を減らして書き足す人はいないだろう。

 もしも日記を書いたとしても、日付と曜日、天気などを書いて、本文には『前日と同じ』としか書けない。


 こんな風に俺の日常、普段、常日頃とはあまりにも日常で、あまりにも普段で、あまりにも常日頃過ぎるのだ。

 度を越す程に。

 

 そんな同じ毎日の繰り返しの俺にも、ロボットの様な規則正しさの毎日の俺にも訪れた、やっとと言うべきなのかは分からないが、やっとと言う程に待ち焦がれていたのかは俺自身分からないが、そんな俺にようやく訪れたいつもとは違う出来事もまた、度を越していた。

 度を越す程に日常をかけ離れた。離れ過ぎた。

 

 まったく、俺には丁度良いというものはないのかよ。


 俺は、こんな風につらつらと、日常についてを考えながら、ボロボロで扉すらない、雨風すら凌げないであろう境内を竹箒たけぼうきで掃き、雑巾がけをしていた。


 何故俺が、こんな誰もいない神様も住み着かない境内をこんなに汗をかきながら掃除をしているのかというと、美月と景、メカ姉妹でお馴染みの(お馴染みかどうかは定かではないが)二人の妹達との話しで、何時、己己己己が帰ってきても良い様に毎日交代で掃除をしておこうとなり、今日が俺の当番という事なのだ。

 

 ボロボロの境内の雑巾がけを俺は、長い廊下を雑巾がけするかの様に一枚の雑巾を長方形の形に広げ、そこに両手を置き、お尻を突き出す様にして壁から壁へダッシュしながら拭いていったのだが、途中で掌に激しい痛みを感じ雑巾がけを一旦中断して痛みを感じた箇所を確認した。

 

 ボロボロの、己己己己いえしきが正規の開け方をしなかった事により、もはやボロボロの木の板と化してしまった扉とまではいかないが、それと同じように床もまた、床と言うよりはボロボロの板と言った方が正しいというような程にボロボロに朽ちている。

 その所為せいで床、もとい、ボロボロの板からは所々に木が剥がれとげ状に飛び出していた。

 どうやらその棘を雑巾がけの最中に掌に刺してしまったらしい。

 その棘の大きさから、それは棘と言うよりは尖った木片と言う程だった___木片は大きかった。

 掌の怪我は、人間だった頃にも経験はあるが、相当に痛いのだ。今は大丈夫だが、木片を抜いた途端に溢れ出てくるだろう血液を想像し、身震いをした後、俺は一気にそれを引き抜いた。


 ん? おかしい。出血しない。


 本来ならば出血は免れないだろう程の木片の刺さり具合に痛み。

 それなのに、出血しない。それどころか傷すらない。

 どうなってんだ? と、しばらくの間、木片が刺さった所を観察したり反対の手の指でつついたりしていたのだが、全く分からない。

 おそらくこれは、神の持つ治癒力なのだと自分を無理やり納得させ、雑巾がけに戻る。

 俺は懲りることなく、またも同じ様な拭き方をした。


 「痛っ!!」


 今度は違う。今度の痛みは棘とか木片が刺さったのではない痛み。掌でもない。

 今度の痛みは右の腕だ。

 痛みの原因というのは鋭利な刃物だった。壁に無造作に、鞘なんかにも仕舞う事なく立てかけてあった刃物。そんな刃物に気付く事なく突進した結果の痛みであった。


 刃物___それは己己己己であり、己己己己の憑代であり、かつて己己己己が鬼退治、もとい、神退治、ゴッドハントに使っていた剣。十束の剣による痛み。


 さっきの木片による痛みよりも軽いのにも関わらず、さっきの木片を刺した時には出なかった血液が傷跡から流れ出る。今度は傷口もしっかりとある。

 この剣は己己己己が神退治にも使った剣なのだから、神であろうとも切ってしまう程の力があるのかもしれないな。


 そんな傷んだ腕の傷を十分に痛んだ後、俺は己己己己を思い出し悼んだのだった。

 まぁ、己己己己は完全に死没したわけではないのだが。


 傷口からの出血は血小板の大活躍により大事にはいたらなかったが。

 その後、ふいに、何の感情もなく、何の意味もなく、ただただ寝返りをうつかの様に、自然に振り返った俺は五臓六腑に振動が走る様な衝撃を受ける事となった。

そんな風に、風が吹く程に自然に、無意識に、ふと後ろを振り返った俺の目に飛び込んできた光景は目を疑う光景。びっくりとも違う、感動とも違う、衝撃波をくらった様に後方へ尻餅をついてしまう程の衝撃を、視覚から全身へ、五臓六腑へと受けてしまう光景。


 「嘘...だろ...本当に...あんた...なのか?」


 俺の振り返った先には神使である鷄に囲まれた俺の知っている、見覚えのある、見覚えのありまくる姿があったのだ。軽く空を見上げ光を眩しそうに手で遮りながら。

そして、太陽の光をバックライトの様に浴びながらゆっくりとゆっくりとこちらへ振り返る。

始めは、太陽の光で上手く姿を確認できなかった俺だが、俺の目は、俺の耳は、その姿を、その声を知っていた。忘れる筈がないだろうが。







 「やぁ灯夜君。お久だねー へへっ」



 その男は俺のよく知る人物、もとい、神物であった。



 「お帰りなさい...己己己己。己己己己 神威」

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