針が閉じる前に
12月24日。ときけば、今日が何の日かみなさんわかるであろう。
そう。クリスマスイブである。
どんなに遠く離れていても愛してる人がいるならば、その日はずっと隣に居たい。そんな日。
午後6時30分。会社のデスクに一人、パソコンとにらめっこをしている人がいた。
彼の名前は向井祐樹。彼にも愛する人がいる。しかしなかなかあうことができない。なぜなら彼の恋人、藤野鈴はここ東京から離れた仙台に住んでいるからだ。
祐樹が上京してきたのは6年前、ちょうど20歳のときである。鈴の後押しもあって上京、今はこうして毎日パソコンと闘う日々が続いている。
会いたい。鈴に。
祐樹のそんな思いが彼を動かす。
「今ならまだ間に合う」
と彼はパソコンを閉じ会社を出た。
外はいつの間にか雪が降っていた。
「雪か……久々だな」
彼は会社の前でタクシーを拾った。
「お客さん。どちらまで?」
「東京駅まで」
祐樹がそう告げると、タクシーは祐樹をのせ走り出した。
ここから東京駅まで30分。それから東北新幹線でおおよそ2時間30分。
間に合う。
そんな思いが彼の心を熱くする。鈴にはもうどれくらい会ってないだろう。毎年この季節に会いに行こうと思うのだが、仕事が忙しく会うことができなかった。そのたびに鈴を悲しませてしまったに違いない。
と運転手が
「あちゃ〜」
と声をもらした。祐樹は
「どうしたんですか?」
と尋ねた。
「いやね、渋滞にあっちゃったんですよ」
運転手は苦笑いをしながらいう。
「どのくらいかかるんですか?」
「そうだねぇ。ここらへんは長いときもあるからだいたい2時間ぐらいかかるかもしれない」
「そんなにですか?」
祐樹は驚くとともに焦り始めていた。
今年も鈴を悲しませてしまう。
と。
「なんとか速くいけないですかね?」
「どうして?」
「会いたい人がいるんです。どうしても……」
「……そうかい。分かった。ならしっかりと捕まっててくれ。少々危ないことをするから」
そういうと車は突然バックしながら路肩に乗り上げ、そこから左に曲がり細い路地へと入った。そのあと一方通行を逆走し商店街に出る。
スピードメーターを見ると110キロ。
これはあまりにも危ない。
エンジン音に声がかき消されないように
「どうしてそんなにしてくれるんですか?」
と聞いた。すると
「君がわたしの乗せる最後の客だからだよ」
とこちらには見向きもせずにいった。つづけて
「最後だからこそお客様を目的地に迅速に安全に送る。そのあとに捕まったっていい思い出さ」
ともいう。
そうこうしているうちにタクシーは商店街をぬけ街に出た。
目の前には東京駅が。
「料金はいらん。電車に乗るんだろ?それに使ってやってくれ。さぁ降りた降りた」
祐樹をおろすとタクシーは何事も無かったかのように闇に消えていった。
祐樹はタクシーの運転手さんの優しさに泣きそうになったがここはぐっとこらえ全力疾走で仙台行きの新幹線に乗った。東京駅を出てしばらくして時計を見ようとして気がついた。祐樹は時計と携帯電話を会社に置き忘れてしまっていた。新幹線に乗ってしまった以上、とりにかえるわけにはいかない。祐樹はそのまま真っ暗な外を眺めていた。
しばらく暗闇を走りつづけ
「次は仙台」
というアナウンスが聞こえると祐樹は安堵の表情を浮かべた。
新幹線を降りると仙台は大雪だった。それでも会いたい。祐樹は鈴のすむマンションへ向かった。があまりの大雪と積雪のため、思うように進めない。
普段なら歩いて30分のところなのだが30分では到底着きそうもなかった。
それでも祐樹は倒れそうになりながらも大雪の暗闇の中、ゆっくりと急いで鈴のいるマンションへ歩いてゆく。しばらく進むと鈴のすむマンションが見えた。もう少しと自分を励ましながら祐樹は歩くスピードを速める。
そしてようやく304号室、鈴の部屋の前まできた。
「ピンポーン」
インターホンを押す。
「はーい」
鈴の声を聞いたとたん祐樹は泣きそうになった。でもぐっとこらえた。ガチャとドアが開く。祐樹の姿を見て鈴が笑顔を見せる。
「サンタクロースかと思った」
鈴は祐樹のコートと頭にどっさりと乗った雪を見ていった。
「サンタクロースはみんな寝てから来るもんだ」
「じゃあ寝よかな?」
鈴はいたずらな笑顔を浮かべながら言った。
「おいおい……」
祐樹は呆れながらいう。続けて
「今何時?」
と聞いた。鈴は
「11時58分」
と時計を見ながら言った。祐樹は
「よかった。針が閉じる前に会えて」
といって鈴を抱きしめてキスをした。
鈴は顔を赤くしながら
「これってクリスマスプレゼント?」
と聞いた。祐樹は
「あぁ。あともう一つプレゼントがある」
といって取り出したのは、青い小さな箱だった。
「え?これってもしかして……」
「鈴、俺と結婚してくれないか?」
鈴ははにかみながら
「うん。ありがとう。私は幸せ。3つもクリスマスプレゼントもらえるなんて」
といった
二人は見つめ合って、笑顔を交わしたあと、もう一度抱きしめあった。
この瞬間時計の針はぴったりと閉じた。
まるで抱きしめあった二人のように………
Fin
針が閉じる前にを読んでいただき誠にありがとうございました。さてどうでしたか?楽しめましたか?みなさん12月24日はどうか愛する人の隣にいてあげてください。恋人にとってそれはどれだけうれしいことか……