起床-79312回目の後悔-8
なにも気づいていない彼女に
ナイフ<得物>を刺すのは簡単だった
俺がふりかざしたナイフは
寸分の狂い無く
彼女の背に深く突き刺さった
俺は直ぐにナイフを引き抜き
再び彼女の背に刺した
それを数回したあとに
何の躊躇いもなく首を刎ねた
ゴトリ、地面に落ちた首はこちらを向いていた
「 」
口は動いたがそれが空気を震わす事はなかった
その後、同じように
左腕、右腕、右足、左足と切断する
「解剖・・・いや、解体か」
淡々と表情を変えることなく一連の動作を終える
予想通りの結果にため息はでなかった
それ<人の部品>を鍵が開いていた彼女の部屋に投げ込んだ
さいごにいまだ笑みを崩さない生首の髪を掴み持ち上げた
「じゃあ79313回目にまた会いましょう」
顔を突き合わせ笑いながら言ってみたが
動き続ける口が酷く不愉快で直ぐにそれも部屋に投げた
最後に部屋の鍵を閉め置いていたナイフを拾い上げた
ナイフに血は付いて・・・いなかった
ちくりと胸が痛んだ気がしたがたぶん気のせいだ
ナイフを服にしまいこみ自室に入った
布団に仰向けに倒れ込み、波打つ心を落ち着かせる
揺れる心は良心の呵責によるものなのか
それともこの状況に対する責任感からなのかはわからなかった
でも、俺が既に道を踏み外しているのは確かだ
戦争でもない、復讐心でもない
気まぐれでもなければ衝動的にというわけでもない
俺は調べるために、確かめるためだけに
刺した
人体実験のようになにか目的があるわけでもなく
そこに生産性はなく、それでも
刺した
きっとこれは人体実験よりも質が悪いんだろう
(他人事のように考えた)
これ以上考えると自責の念に押しつぶされそうで
これが初めてでもないのに
イレギュラー<園崎 由佳>の存在に対する動揺、
「僕」の予想以上に疲労した顔に対する後悔
それだけで俺の心はこんなにも
揺れるのか
人外じみた自分に残った心<道徳>に苦笑いして
押し寄せた眠気に身を委ねた