起床-79312回目の邂逅-3
広大な敷地を僕は迷うことなく進んでいた
といっても昨日<死ぬ前>もここに来ていたので迷うことなど
あり得ないことだ。
たくさんの生徒であふれかえる道はあるきづらいが
今の僕にはこれくらいの騒音が心地よかった
歩き慣れた道を、秋空が広がる道を歩いた
やっとの思いで校舎に入り職員室に向かった。
先ほどは生徒がたくさん来る時間に来てしまったため人垣を掻き分けることになってしまったが、下足室を抜ければ職員室に向かう生徒などほとんどおらず楽に職員室に行くことができた
職員室に行くと僕の担任になる先生が待っていた
「あなたが転校生ね。私の名前は日笠 朝子よ。朝の子でトモコ」
まだ若い先生で背なんて僕の方が高かった。
自分より背の低い人をみると安心する。
僕もまだ一応成長期なのでそのうち170㎝ぐらいいくはずだ
担任になる「日笠」先生とともに教室に向かった
日笠先生とは何度か恋仲になったこともあるような仲だ
多少なりとも情はある。僕と彼女は浅からぬ仲といってもいい
だがもちろん今回の彼女と前の彼女はある意味別人だ
なぜなら彼女には僕と恋した記憶が存在していない
僕が死ぬと世界は『リセット』される
この言い方が正しいとは言えないがそう表現するしかないのだ
僕が高2からやり直すように他の人々も時間を巻き戻される
例えその人が死んでいようと<殺されようと>関係ない
僕が高2であったころの状態に世界は変貌する
まるで世界の理を曲げているようだ
そして記憶の共有はされない
テープが巻き戻されるように記憶もリセットされる
何度も繰り返したせいか、忘れられて悲しいとは思わない
「この学校は新設校だけど二年生は4クラスあるのよ」
多いんだか少ないんだかよく分からないが、
僕は2-Aに入ることになった
「みんな、おはよう!
突然ですが転校生を紹介します」
日笠先生は美人で物わかりが良いので人気がある理想的な先生だ
ハキハキとした声には好感を憶える
そんなことを考えながら黒板に名前を書きクラスメイトに向き直る
見慣れた顔、僕の中に緊張なんてなかった
「はじめまして、これから2-Aでお世話になります。
10月の微妙な時期の転校で少し、緊張していますがよろしく」
僕は暖かい拍手を受けた
こんな僕によくしてくれるみんなを
利用するのは少しばかりの良心が痛んだが、
コレも仕方のないことだ
「あなたの席はあそこよ」
一番後ろの窓際。良い席じゃないか
みんなの視線を受けながらゆっくり歩く
みんなを利用してしまうのは仕方のないことだ
そう、必要な犠牲なんだ
これは偽りのない僕の本心だった