投げろ!必殺の魔球 後編
サヨさんの力を得て、俺たちは核融合を続ける太陽の様な軟式ボールを完成させていた。
加えて、熱に耐久出来る手袋と、直ぐに核融合を防ぐ物質を含んだキャッチャーミット。これらも1週間で完成させた。
そして、1週間後。
□■
「逃げずに来たんですね。」
あの日、花月と出会った川原には花月しかいない。時間は炎の魔球が分かりやすい夜。補導対象になる1時間ほど前。花火をやってる連中から少し離れたところ。
「あぁ。勿論。1時間程度で俺らは補導対象だ。キャッチャーは長川。主審は睦美に頼む。」
そして、俺は長川の座った前に指をさす。
「そして、その長方形の地文字がお前の立つ場所・・・バッターボックスだ。」
言わずとも分かっているという顔を見せ、バッターボックスに立つ花月。
「じゃ二人とも頼んだぞ!」
グッと俺は片足を折り、ひざを腰まで上げる。
―ちゃんと融合するのか?
ここで燃えないわけにはいかない。実験は一応重ねた。ボールの耐久も完璧。
―戸惑うな・・・。やれ!
こう見えても中学の時、野球部だった俺は投げるのは難なく出来た。ひじを引き、素早く。だが、スローモーに振りかぶっているように見える。
そして、ボールが俺の体の頂点に来た時・・・。
ボッ!
その音と共にボールが核融合(知らない人には燃え始めた)をし始めた。
「え!?」
その後はジェットコースターの様に腕を下まで振り切る。
闇夜に赤く燃えるボールは空中を裂きながら突っ走る。
「え?えぇぇぇ!?」
思わずフォームが崩れる花月。だが、修正することも出来なかった。
ブンッ!
花月の握ったバットは弱々しく空回り。
ズバンッ!シュゥゥゥウウ・・・。
どうやらうまく鎮火した様子。
「すとらいくー。」直後の睦美の棒読みの様な判定。
「わぁ!すっごい燃えたねぇ。」
「えぇ。成功ね。」
一応打たれた時のために外野にいたケイコとサヨさんも俺の元に戻ってきていた。
□■
「疑ったりしてごめん。ボールに細工してあるわけでも無くって本当に魔球だったんだね・・・。」
「いいや・・・。ボールに細工はしてある。それだけじゃない。皆のグローブにもな。ボールの中には
水素73.46%ヘリウム24.85%酸素0.77%炭素0.29%鉄0.15%ネオン0.12%その他0.11%窒素0.09%ケイ素0.07%マグネシウム0.05%硫黄0.04%と、太陽と全く同じ物質が入っている。」
勿論地球上で簡単にやってのけられるわけでも無いのだが・・・。
「ちょっと、たっちゃん。簡単に教えていいの?」
サヨさんが小声で俺に聞く。
「構わない・・・。花月もこれから科学同好会の部員としてガリレイ冷蔵庫の調査に関わってもらいたい。」
□■
翌日 科学同好会 部室。
あの後、遅い時間だったため一旦解散し、翌日には部室に全員集まることが出来た。
「この中が宇宙の様な空間になっている・・・ってわけ?」
花月が早速ガリレイ冷蔵庫を開けていた。
「あぁ。俺たちが前に行った実験が原因で、そうなったらしい。」
「もしかしたらさ、NACAはこれの存在に気づいて研究員を派遣しようとしたとか?」
確かにその線も考えた。だが、ガリレイ冷蔵庫が宇宙と同じ空間を保有していると知ったのは事故の翌日。さらにこの情報をリークしているわけが無く、結局事故の真相もイマイチ掴めていない。
「もしかしたら、あの日大須も含め名古屋は一時的に宇宙空間になったのかも。」
「まさか、だとすれば名古屋からは人が消えるわ。確かに鏡さんのお姉さんの話を聞く限りは有り得る可能性の一つだけれど、でも、だとしても職員と鏡さんのお姉さん以外に死者が出ていないことがおかしいわ。」
長川の今まで溜めていたような質問はサヨさんによってあっさりと論破された。
「でも、うまく出来た話だよね。宇宙に関連するような事故や事件?が起きた翌日にこの普通の冷蔵庫が宇宙と同じ空間を持ってるなんて判明するなんて。」
睦美が皮肉じみたようにそういう。
「あぁ。俺もそれが引っかかってる。実のところやはりNACAが何か知っているんでは無いかと思ってる。それも特定の調査班か何かが・・・。で、無ければ上層部も認めていないのに200人もの職員が他国へ行くか?」
俺も長川と同じ様に今ままで溜めてきた疑問の一つを吐き出した。
「でも、あれ以上の答えは出ない気がする。」
睦美もどうやらサヨさんに頼んでNACAのサーバーを見せてもらったらしいが、見つかりはしなかったらしい。
「あのねぇ。皆は部活動をしているのに、そんなことに首を突っ込む必要なないよぉ。」
そこで空気を癒すようにケイコが話に入ってきた。
「確かに・・・。ガリレイ冷蔵庫の話はどこにもリークしていない。オーロラだって偶発だったのかも知れない。オーロラは電磁作用を含んでいる。NACAやほかの研究機関がいずれはオーロラの真相を解明するさ。」
そういっていつの間にか行っていたミーティングは幕を閉じた。持っていくべき疑問を捨て・・・。
今回からあとがきも簡単に書きます。
Galilei・Refrigeratorという小説の作者のN森です。実は最終の構造は一切立たないまま進んでいて、非常に計画性の悪い作品となってきています。宇宙の物質を使って超能力紛いのことをやってますがそれまでを結構すっ飛ばしてたりしますがそこは今の人類にある論文沿ってやっていると思ってください。まだ、伏線もあまり落としきれていませんが、SFの雰囲気だけでも感じとってください。