投げろ!必殺の魔球 前編
結局ミーティングの結果でガリレイ冷蔵庫はここにある。あれ以来睦美は機嫌が悪い。俺もあまり気分が良くなくて仕方なく川原へと出向いていた。
川原では草野球をやっている様子。聞こえる感じでは高校生の集まりばかりらしい。
「あれ?女の子がいるな。」
男子ばかりの中でも際立って上手なプレイをやっている女の子が目に入ってきた。
暫く野球を眺めているともう解散らしい。時計を見るとなるほど既に5時半。かれこれ1時間はここにいたようだ。
「あなた、ずっと見てたね。」
帰ろうと立つと、先ほどの野球少女が俺に近づいてきてそう話しかけてくる。
「あぁ。差別に感じるかも知れないが、女の子が野球やっているのを見るのは初めてなもんでね。」
「そっか。あ、私は花月亜美。高校1年。」
気づいた様に自己紹介をする花月。
「ん?俺は谷岡忠明だ。高校2年。」
「じゃあ先輩ってことですね。」
ぱっと見では1歳差というのは分かりづらく、突然彼女も敬語になった。
「そういえば、何で花月は野球を始めたんだ?」
「あー。一言で言えば憧れですかね?」
憧れの言葉で浮かぶのは選手だが、現在の野球選手に女性はいない。
「分かりにくいかな。憧れているのは、漫画。笑っちゃうかもしれないけど、漫画で魔球をザァーって投げる姿がすっごく格好良くってさ。それで野球、やってみようかなって。」
―そういうことか。
「笑いはしないさ。あれだけのプレイが出来たんだ魔球も投げれるさ。」
「そんなわけないじゃん。一個上だからって面白いこと言い過ぎ。そんなの幻想だよ。」
「幻想じゃないっ!!!諦めるなよ!その夢。」
俺はつい熱くなっていたことに気がついた。
「そんなに言うなら投げれるの?魔球。」
「当然だ!炎の球をずばっと投げてやる。」
この言葉にはおおむね後悔しか入っていない。だが、やろうと思えば出来る。
ガリレイ冷蔵庫は”あれ”作れるからな。
「じゃあ1週間後見せてやる。」
□■
科学同好会 部室
「サヨさーん・・。」
「って?あれ?」
そこにいたのは睦美と長川のみ。
「サヨさんならなんか思いつめた表情でYesにバイトしに行ったよ?」
―あぁ。まだバイトも辞めて無かったな。
「長川も睦美も行くか?Yes。」
「あら。良いわね。コーヒー飲みたかったの。この前の勝手な意見の謝罪として奢ってねコーヒー。」
「なっ!?」
□■
喫茶店 Yes。
「あら。たっちゃん。」
何やらトーンの低いサヨさんが現れた。
「ケイコは?」
この場にいないケイコのことを聞くサヨさん。
「ケイコなら今日は部活です。あ、そこで折り入ってお願いがありまして・・・。」
□■
俺はそこで、花月との話をした。
「馬鹿ね。何でそんなこと言っちゃうかな?」
睦美が開口一番腹の立つことを言い放つ。
「うるさい。」
「そもそも、酸素も無い宇宙にそんな物質は無いでしょ?」
確かにそうだ。酸素も無い、宇宙空間に一生燃え続ける物質などあるのか?
「一生燃えなくても何億と燃えるものならあるじゃん。太陽が。」
「「あ!」」
そこで黙っていたサヨさんが話す。
「いいえ。太陽は燃えているのでは無く、核融合を起こしてるだけよ?でも、不可能では無いわ。少なくとも一投の風程度で。」
太陽と同じものを作る・・・。これまた神様にでもなったような気分だった。
その方面で一応満場一致を見せ、魔球を作ることは決定した。