私より -プロローグ-
シェークスピアの後を継いだイギリスの劇作家、ジョン・フレッチャーは言った。
ー恋と戦争においては、あらゆる戦術が許されるー
本編『私より』説明書き
この物語は、主人公《相澤 雅》が、ずっと片想いをしていた
幼馴染みで先輩の《在原 祥平》を追いかけて同じ高校に入り、
そこで出会った人にさまざまなことを教えてもらい、
祥平の彼女になる為、一生懸命女を磨く、雅の成長を描いたノンフィクションのような物語である。
*
≫蘇る“記憶”
今日もスタジオにいつものショートベースが鳴り響く。
「じゃあー…ツルッと一回やってみようか。」
SPD(Sound producer director)の加藤さんの指示で全員動く。
私は現役女子高生にして、プロのガールズロックバンドのリーダーを務めている。
でも一応、JKロックバンドとしてデビューしたから当然なんだけど。
メンバー4人。こんな感じ。
・相澤 雅
ベース&メインボーカル
・佐倉 唯
ドラム
・早嶺 菜那
ベースギター&ツインボーカル
・西島 遥奈
エレキギター&コーラス(ハモリ)
私達4人は、同じ中学校のいわゆる仲良しグループだった。
高校ももちろん一緒で、休みの日もこうして練習に明け暮れていた。
私と菜那はサッカー部のマネージャーをしていて、
菜那は、サッカー部1年のエース《高宮 光輝》と付き合っている。
私はというと…未だ幼馴染みの先輩に片想い中。
かれこれ、好きになって5年くらいは経っている。
「あーっ…歌うとストレス発散できるわ。」
菜那が親父臭いことを言いながら、口に水を含んだ。
「…ねっ」
相槌を打つ私に、唯は思い出したように言った。
「…ね、雅は在原先輩に告んないの?」
「ーーブッ!」
菜那が吹いた。
「んー…そんな勇気も自信もないし。」
「それは間違いだよ、雅。」
遥奈が首を突っ込んだ。
「自信なんていらないし、それに自信なんて勇気のデザートみたいなもんでしょ。」
例えが怪しすぎる。
「じゃあその勇気は?」
「前菜」
そういうことじゃなくって。
てか、そうだとしたらメインは何だよ。
「う〜ん…勇気?」
自分で言っといて困っちゃうんだ…。
「勇気は自信からだと思うよ」
後ろから声がした。
MIP(musical instrument producer)の高橋ちゃん。
「盗っ人野郎」
遥奈が言葉を蹴散らした。
「又聞きだもーん。」
対抗する30を超えたいい大人。
「結局、どっちが先なんですか?」
私が問うと、高橋ちゃんはニッコリ笑って。
「それを見つけるのは相ちゃんでしょ。」とだけ言った。
3人も勝手に納得して、それっきり今日はこの話はしなかった。
気分屋な奴等め。
その後の練習にもあまり気合いが入らなかった。
もう、頭の中ゴッチャゴッチャ!
肩、叩かれた。
「雅?そんなんじゃベースが泣いちゃうよ?」
加藤さんだ。
私は少しの休憩を貰った。
「疲れたー…。」
私は椅子に座ると、マネージャーが用意してくれたお茶を飲んだ。
すると、私のリュックが小さく震えた。
ーーー…?
ポケットの辺りが光っている。
あ、携帯…。
画面には、《在原 祥平》と出ている。
[今、練習中?]という短文メール。
それでも今の私にとっては支えになる。
私は[そうだよ(^o^)、何で?]とだけ打ち、またひと口お茶を飲んだ。
玄関の棚に置きっぱなしの造花の様に、返信を待つ私の姿を見て、菜那が言った。
「先輩から?」
「うん。」
唯は、恥ずかしそうに笑って小さくガッツポーズをしてきた。
そしてタイミング良く、手の中にあった携帯が震えた。
[じゃあ、終わったら家来ない?]
何でだろう…。
でも別にいっか。
[行く!(^ω^*) じゃあ終わったらメールするね]
勝手に舞い上がる私を見て高橋ちゃんは、ね?言ったでしょ、とウインクしてきた。
でも、確か祥平の部屋って超汚かった気がする…。
あの祥平が掃除する訳ないし。
そんなことを考えていると、マネージャーに呼ばれた。
「えーっと、再来月にZeppツアーをやってくれと、スポンサーに言われまして、
メンバー全員の都合が当たる日で良いそうなんで…」
「あたし、29以外!」
「まあ、ほとんど…」
「空いてます、多分!」
みんな口々に言う。
私は、急いでスケジュール帳を開いた。
「6月…たぶん空いてます。」
ツアーかあ…。2度目だけど緊張するな。
「じゃあ、計画を立てる時間も含めて…20、22日から24,25,27,28,30くらいで!」
私はすぐにスケジュール帳に書き入れる。
「それじゃあ、色々決まりましたらまたご連絡致します。今日は片付けして各自解散で!」
マネージャーの一声でみんな片付け始める。
私は、ベースのケースとリュックを担ぎ、挨拶をして一目散にスタジオを出た。
そして、駅で祥平にメールを打った。
[終わったよ\(^o^)/ あと15分くらい]
またすぐに返信が返ってくる。
[了解]
さすがに短い気もするけど…。
まあこれ以外に内容も無いしね。
私は電車にそそくさと乗って携帯をポケットにしまった。
この時はまだ、祥平の部屋がどうなっているか、
祥平の部屋で何の話をされるのかなんて考えてもみなかった。
~これから私達の物語が、今、始まる~