002 収監者 ―とらわれびと―
淡々と、続く。
残酷な描写はないけど、残酷な作品。
収監者
捕まった。
まさかこんなに早く『手』を打たれるとは思わなかった。
高校時代の友人と偶然出会い、軽く昼食を摂りながら雑談した。
キワモノ雑誌の契約記者をやってると言ったら面白がって、自分の勤め先の話をしてくれた。
これから勤務だという彼と別れ、根城にたどり着いてテレビをつけたら……
彼が、『事故死』していた。
嫌な予感を覚え、荷物をまとめて逃げようとした時、玄関の方からガス漏れのような音がして気が遠くなり……
気付いたら『ここ』に転がされていた。素っ裸で。
三メートルほどの高さの天井に蛍光灯。ご丁寧に金網付き。監視カメラも付いてるようだ。
広さは一畳半ってところだろうか? 狭い長方形の部屋だ。家具は無い。天井と壁と床、それだけの部屋。扉も(どうやってここに入れられたんだ?)窓も無い。
その全面に体育競技に用いる衝撃吸収マットのようなものを貼り付けてあるだけ。床の片隅には多分便器なんだろう。長方形の穴がある。そんな部屋。
どこかからガス漏れのような音がした。
げ、これってまた麻酔……ガ………スか……よ………
………………
……気づいたらブロック状の食品(カ◯リ◯メ◯ト?)の紙包みと何も描かれていない飲料の五〇〇ミリリットル入り紙パックが床に置かれていた。
食品を包んでいた紙には『使用後は紙パック共細かく引き裂いた後、便器に流すこと』と、日本語だけでなくハングル、中国語、英語、独語、フランス語、アラビア語で書かれていた。
ブロック状の食品を一かじり……味がない。
紙パックを開けて中身を一口飲んでみる……味がない。
まさか……このまま、テレビもラジオもネットも、情報も刺激もない狭い部屋に何時間も何日も何ヶ月……何年も! 閉じ込めようってのか?
思わず叫んだ。
「降参! 降参する! 何でも言うことを聞く! だから、ここから出してくれ!」
* * *
……それからは、あんたも知っての通り、あんたの同僚として私設刑務所で勤務してるって訳だ。
丁度一人事故死して人手が足りなかったってのもあるし、な。
ま、前の契約記者よりは給料も待遇も良くなったし、ね。
それに……どんなに酷い待遇受けたとしても、あの部屋で一生過ごすよりは遥かにマシ。と言うより二度と入りたくないよ。
世の中には知ってはいけないことがある。それに触れた者は……死ぬか、仲間に入るか、どちらかしかないんだ。
あんたも気を付けるんだな。この職場下手に漏らすと二の舞になるぞ。彼の、な。
じゃ、交代だ、これから八時間、よろしくな。
* * *
もしもし……あ、所長。はい、しっかり釘は刺しておきました。後は彼次第です。
……ですね……彼も私のように『長いものには巻かれろ』って考えであれば……はい。
それでは、引き続き監視します。
では。
さて、次の登場人物は……秘密です。