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帰り道、解体工事に出くわす

作者: WAIai
掲載日:2026/07/24

「解体工事してる」


私は耳が良く、音のするほうを見る。


当たりのようで、大工さん達が屋根から壊しており、最小限の音で行動しているようだった。


「蝉のほうがうるさいかもな」

「そうだね。暑い、暑いって、聞こえるみたいだもん」


私は額に浮かんだ汗を拭うと、彼を見つめ、

「早く秋になるといいね」

「そうだな。食欲の秋、読書の秋…。色々とあるもんな」


彼は優しく言ってくれると、いきなり私の両耳を手で塞いできた。


「どうだ? 聞こえなくなったか?」

「まさか。でも嬉しい」


私は彼の手に、手を重ねると、ふうと息を吐出す。

彼には小さく聞こえるのかもしれないが、耳の良い私には、まだ大きく聞こえた。


「早く行こうか」

「うん。邪魔しても悪いし。私も頭が痛くなりたくないし」


私は惜しむように、彼の手を放すと、その手を今度は繋いで、行こうとする。


すると屋根の方角から、声が飛んでくる。


「おい、危ないから早く行け」

「は、はい」


私は聞かれていたのかと思い、びっくりして答える。


歳は30代くらいだろうか。

身体つきは彼に負けないくらいしっかりしており、力強そうだった。


ライオンと喧嘩したら、どちらが勝つだろうかと、馬鹿なことを考えるが、大工は黒猫みたいに、気配がしない人だなと私でも分かる。


しばらく2人で何も言わず、大工を眺めていると、

「早く行けって、言っているんだよ。いちゃいちゃするなら、俺達の目の届かないところでしろ。暑苦しい」

「それは失礼しました」


私はどうしていいか迷っていると、彼が前に出て答えてくれる。

私を守ろうとしてくれているのが、すぐに分かり、私も勇気を出す。


「すみませんでした。…行こう」

「ああ」


彼がうなずいたので、私達は繋いだ手を放し、彼から前に進む形となる。


解体している家は、もう誰も住んでいないのかと淋しく感じつつ、早足で行こうとする。


すると、

「おい、ちょっと待った」

大工が私と彼を呼び止め、屋根から下りてくる。


「何でしょうか?」

「お前、デカいから、力がありそうだな。大工はどうだ?」

「は?」


私は困惑したように、2人を見比べる。


確かに彼は力強くてかっこいいが、大工になる将来は聞いたことがなかった。


大工は気軽に彼の肩を組んでくる。


「それで? 彼女と結婚するのか?」

「あの…?」

「け…!!」


私と彼がびっくりして、言葉が出ないでいると、大工はあははと声を立てて笑う。


彼は眉根を寄せると、攻撃しようか考えているようだった。


私は彼が危ない目に遭わないように、心配して手を組むと、大工が言ってくる。


「何もしねえよ。ただ…いい尻しているな。安産型だ」

「え」


私の許容範囲を越え、勝手に頰が赤くなっていく。


「頑張れよ、お前」


大工はばしばしと叩くと、彼を解放する。


「気をつけて帰れよ!! いつでも彼女を守ってやれ」

「分かってます」


彼が彫像のように硬く答えると、大工はまた笑ってくる。


何なんだろう、この人、と私は目を瞬かせる。


味方なのか敵なのか、判断できない。

飄々とした人だった。


「行こう。もう用は済んだみたいだし」

「う、うん。あの、安産型って、その…」

「その話は忘れること。とにかく離れよう」


彼が強引に歩き出し、私を引っ張っていく。


すると大工が声を張り上げて、

「若い2人に幸あれ!!」

恥ずかしくないのだろうかと、私が皆の注目を浴びて下を向くと、彼に必死でついて行く。


しばらく無言で進んで行くと、ようやく静かになった。


彼ははあと息を吐出すと、安心を確認する。


「大丈夫か?」

「大丈夫なわけがないでしょう!! もう、何だったの、あの人」

「人間には色んなタイプがいるからな。悪い人ではないと思うけれど。ま、気にしないことだ」

「う、うん。忘れる」


私は頰をぴしゃりと叩くと、気をしっかりもつ。


「どこに行く? コンビニ? それとも、スーパー?」

「どうするか」


2人で相談しながら、歩いて行くのだった。


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― 新着の感想 ―
X の企画から来ました。 事件らしい事件が起きないまま、道端の数分だけで一本にしているのが印象的でした。書く側だと、こういう「何も起きない話」を持たせるのがいちばん怖い。 耳の良さという設定を最初…
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