来た来た!
真夏の夜のあの日から、自分はコレが恐怖の大魔王だ。
外灯に虫が寄っていくのは普通。そのことには気にも留めていなかったが、そのうちの一匹がやけにテカテカしているのに気づいた。
それが何故か、外灯から離れてこちらに飛んでくる。だいぶ離れているはずの自分の方に、何故か飛んでくる。こちらに来るたびギランギランしているのがはっきり見える。なんだあの羽虫?なんであんなテカって‥‥‥‥。
正体が解る範囲に飛んで来た時には、声にならない悲鳴が─────。
「─────はっ!思い出しては駄目よっ私!!─────あっ」
自分で自分を抱きしめていたら、何故か落下が始まった。
投げた大岩はこの窪みを支えていた一部で、それを無理やり引っこ抜いた訳で。
絶妙なバランスを保っていたこの場は、自分と共に崩落した。
「あ~びっくりした」
普通の人間ならば、ただでは済まない高さの崖も、今の自分にはちょっと靴が汚れた程度で済んでしまった。「は~やれやれ」と靴についた土を払っていると。
─────カサカサカサカサ
そいつは頭部を失ってなお足が動いていた。
「─────~~~~~っっっ(声にならない悲鳴)!!!」
─────問答無用で火を放った。
ゴオオォォと燃え盛る炎の中で、足のようなものがまだ動く。
「やだ!火力が足んない!あ、風だ風!」
ザアァァァと炎を囲むように大量の風が取り囲み、渦を巻きだした。炎プラス風
「あ、火災旋風だこれ‥‥‥‥」
更に勢いを増した高温の炎の中、奴の姿はやっと原型をとどめることなく崩れ去ったと同時に炎の柱も消えた。あ~よかった~。火消えなかったらどうしようかと思ったよ。
「‥‥‥‥その妙な気配。異世界人か」
突然話しかけられてそちらを向けば、さっきの獣が力なく頭を上げていた。
だいぶあちこちやられている様子から、立ち上がることすら出来ないようだ。なにより、いまだに血がふきだしていて、痛々しくって見ていられない。
ピコっとまた画面が出現して『フェンリルっすよ!フェンリル!この大きさから長命種っすね!これぐらいだと意思疎通ができますよっ!』えらい興奮した『鑑定』が出てきた。なにコイツ、ミーハーなの?とはいえ自分もファンタジー要素にテンションがだだ上がりだ。
「会話できるんだ。ね、傷直してみてもいい?」
「できるのか‥‥‥‥?」
やった事ないけどね~、と言いながら初めての『治癒』を使ってみた。みてもいい?って言ったじゃん!
─────結果。なんと無事出来ました。
しかし、獣が寝ているところを中心にしてお花畑が出現し、なんともファンシーな光景ができあがってしまった。
そよそよそよぐお花一杯の中心に寝ころぶフェンリル‥‥‥‥。あれ?これ無事じゃない?
「なんか釈然とせんが、あそこまで負った我の傷を直してくれたからには、礼を言おう」
あ、出来たんだ。実験台にしたのは内緒だ。なんかちょっと申し訳ない気分だけど。そんな気持ちを察知したのか『ナビ』が出現する。
『アレを差し上げてみてはどうですか』
おお、そうだな。いい事言う(?)なお前!
「傷は塞がっても、流れた血とか体力はすぐに戻んないでしょ?こういう時は甘いものよね!」
さっきしまった桃を、再びアイテムボックスから取り出す。
「─────お主、それはっ」
「はい、あ~ん『元気にな~れ』」
開いた口におまじないをしながら、桃ちゃんを放り込んだ。
フェンリルが思わず口を閉じた瞬間、─────カッ!と全身が白く発光した。
─────光るんかいっ!




