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第35幕 怪物たちとの合流

 ズドン。

 腹に響く音がしたかと思うと、大広間の石壁が内側から弾け飛んだ。爆風。舞い上がった石灰の粉塵(ふんじん)が、白い霧となって視界を塞ぐ。

 川添千秋は、黒く炭化した右手の指でカメラを握りしめ、その「霧」を睨みつけた。咳き込む。喉の奥に、ジャリジャリとした砂の感触と、古い火薬の鉄錆(てつさび)臭い味が張り付く。

 粉塵の向こうから、二つの影が飛び出してきた。

「チアキ!」

 名前を呼ばれた。鼓膜(こまく)がその音波を捉える。だが、川添の聴覚野(ちょうかくや)は、それを人間の言語として処理しなかった。

 それは、ガラス板を釘で引っ掻くような高周波と、コンクリートミキサーが回るような重低音が混ざり合った、不快な物理的振動だった。

 川添は反射的にカメラを構えた。ファインダーを覗く。ひび割れたレンズの向こうに、その「影」の正体が結像(けつぞう)する。

 そこにいたのは、美しいヒロインたちではなかった。

 飯野愛恵。かつて美少女に見えたその存在は、レンズ越しには、精巧なセラミックの人形が内側から破裂し、継ぎ目から黒いオイルのような粘液(ねんえき)を垂れ流している「端末」に見えた。

 白い肌は陶器(とうき)のように無機質(むきしつ)で、関節が動くたびに、生き物のものではない湿った駆動音(くどうおん)がした。

 その隣にいるイヴェット・シュライアー。彼女はもっと酷い。全身の毛穴という毛穴から血を噴き出し、それが瞬時に蒸発して赤い霧を纏っている。

 指先からは、神経線維(しんけいせんい)が素麺のように溢れ出し、それが弓の形状を無理やり維持している。

 笑っている。顔面の筋肉が限界まで吊り上がり、眼球が充血(じゅうけつ)して真っ赤に染まったその表情は、人間の笑顔の可動域を超えており、皮膚が裂ける音が聞こえてきそうだった。

「……ッ」

 川添の右足が、無意識に半歩下がった。

 逃げろ。こいつらは「仲間」ではない。肉眼で見れば、まだ少女の皮を被っているのかもしれない。だが、この呪われたカメラは、対象の構造的欠陥を残酷なまでに暴き立てる。

 彼女たちの周囲だけ、空間の彩度(さいど)が落ち、腐った果実のような紫色に変色して揺らいでいる。高濃度の汚染源。

 二人が川添に駆け寄ってくる。抱きつこうと広げられた腕が、川添には捕食者が獲物を拘束するための万力(まんりき)に見えた。

 下がれ。大腿四頭筋(だいたいしとうきん)痙攣(けいれん)し、後退を命じる。

 だが、川添の上半身は逆の動きをしていた。

 炭化した指先が、痛みを訴える神経を無視して、シャッターボタンへと吸い寄せられる。ピントリングを回す。

 ギチギチ。

 油の切れた歯車が()れるような音が、彼の指先から伝わった。

 川添は、自分に触れようとする彼女たちの「手」――血とオイルに塗れた異界の突起物(とっきぶつ)――に、震えながら焦点を合わせた。

 息が止まる。怖い。けれど、眼球が離せない。

 その矛盾した生理反応に支配されたまま、川添は彼女たちを「被写体」として迎え入れた。

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