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第六話

 ジェイド教諭による事前説明が終わり、あとは準備ができた班から出発となった。


 リーシャは班員を集めて言う。


「では、役割を決めましょう。出発前ならリーダー役も変えていいみたいだけど……」


 どうしようか、とは続けられなかった。リーシャが先を言う前にミレイルとマーカスが口を挟んだ。


「僕はリーシャさんの決定に従うよ。リーダー役もこのままがいいんじゃないかな」

「そうそう。あたしたちが意見するより、よっぽど信頼できるし」

「……そう」


 予想通りの答えが返ってくるが、リーシャは微かな失望を覚えた。


(信頼と言えば聞こえはいいけれど、それはただ考えていないだけなのでは?)


 しかしリーシャがそれを口に出すことはなかった。


 出だしから悪感情を覚えられ対立してしまっては、この後が立ち行かない。頭を切り替える。


「では、チェックポイントの探査は私がやります。いいですね?」


 二人が頷いたのを見届け、リーシャが配布された魔晶石に杖を向けた。


解析(レゾルーティオ)


 リーシャは解析を使い、魔晶石に刻まれた刻印を読み取る。


 刻印には予想した通り、現在地を発信する魔法と識別子が刻まれていた。


 内容を把握したリーシャが次の魔法を使用する。


検出(ペルセプティオ)


 リーシャは検出(ペルセプティオ)を使い、同じ識別子を求めて探査の網を広げていく。


 リーシャの年齢で平均的な技量であれば、方向を絞ったり範囲を狭くしたりと、何らかの工夫をしなければならなかっただろう。


 しかしリーシャはこの〝試練の森〟全域を含んでも十分に探索し切れる自信があった。


 放たれた魔法はほどなくして狙い通り、それぞれの魔晶石の場所をリーシャに伝える。


(これが魔晶石の位置――だとすれば……)


 どうやら刻印は配布されたすべての魔晶石で同一のようだった。演習で使用するものとそうでないものを区別する程度の意図しかなかったらしい。


 地図と見比べ、相対的な位置関係を確認する。近くの反応は先ほど配られたもの。遠くのものが課題の魔晶石だ。


 地図に描かれた印と検出結果が符合し、第一班の探さなければならない魔晶石の位置が浮き彫りとなった。


「位置がわかりました」


 リーシャは杖から検出(ペルセプティオ)を発したまま、班員に声をかける。


「え、もう?」

「さすがリーシャさんだ」


 目を見張るミレイルとなぜか鷹揚に頷くマーカス。対照的な二人だが、どちらもリーシャの言うことを疑っている様子は微塵もない。


「では……行きましょうか」

「うん」

「ああ。必要なときは指示を飛ばしてくれ」


 杖すら出さず談笑混じりで、まるで散歩でもするかのように後ろから着いてくる二人に、さすがのリーシャも見かねて注意を促した。


「私が道を案内するから、あなたたちは周囲の警戒をお願いね」


 とは言いつつも、やはり自分でも警戒しておこうと心に決めたリーシャであった。




「それにしてもラッキーだったよね〜。リーシャさんと同じ班だなんて。あたし、班分けが発表されたとき『勝った!』って思ったもん」

「ハハハッ。違いない。なにせ〝完全無欠〟のリーシャ・アーデルハイドだ。リーシャさんなら、たとえ一人でも容易くこなすさ」


 リーシャは背後から聞こえてくる話に苦笑いした。いつの間にそんな呼ばれ方をされるようになったのだろうか。


「気楽でいるのはいいけど……もしも私に何があったらあなたたちが対応しなきゃいけないんだからね」

「やだな〜、もう! リーシャさんに『もしも』なんてあるわけないじゃん!」

「だな。それにリーシャさんでも対応できないことが起こったとしたら、それはもう僕たちにはどうしようもないということだからね」

「そうそう、マーカスの言う通り!」

「まあ、『もしも』そんなことが起これば、そのときは走って逃げるさ。僕たちにできることはそのくらいだからね」

「……だといいけれど」


 リーシャとしてはこの演習の趣旨を踏まえれば、一人は目標の探索、一人は周囲の警戒、一人はいつでも対処できるように備える、というのが妥当だろうと考える。


 だが第一班ではそのすべてをリーシャ一人が賄っていた。仕方がない。何度言っても杖すら出そうとしないのだから。


 リーシャは先ほどの検出(ペルセプティオ)から風の探知・広域ヴェントゥス・デテクティオ・アンプルスに魔法を切り替えて魔晶石を追っていた。


 この魔法では魔晶石の刻印こそ追えないものの、探知領域に存在するモノであれば風が通る限り把握できる。


 魔物などの警戒も合わせて行えるため単に目的のモノだけを探す検出(ペルセプティオ)を使用するより便利なのだ。


 さらに、においや音を漏らさないように、追加で風の渦・微小ヴェントゥス・ヴォルテクス・ミニムスを併用し、リーシャたちを中心に吹き込むように制御している。


 実際、教諭の警告通り、いくつかの小さな魔物の存在は確認できた。しかしリーシャは先んじて魔物にぶつかる進路を避けていた。


 いくら風魔法(ヴェントゥス・マギア)の得意なリーシャであっても、二種の魔法の常時使用はかなりの魔力を消費する。


 これにさらに攻撃魔法までとなると、ちょっと考えたくない。


(もっとも魔物を避けていること自体、二人とも気づいていなそうね)


 伝えておいた方がいいのだろうか。だが悪戯に不安を煽るのも……。と、リーシャには判断がつけられない。


 いくら優秀と言われていても、他の二人と同じ年齢の一学生なのだ。


(このまま順調にいけば、余裕を持って終えられると思うけれど)


 それでもじりじりと魔力は減り続けている。


 例え目に見える支障がなくとも、普段あるものがないと不安を覚えるものだ。


(ルミナの方は、上手くやっているかしら)


 ルミナの班の人選も、リーシャの班と似たり寄ったりだったはずだ。


 だがルミナならばきっとすべてを一人でやらずに、他の二人にも仕事を任せているのではないだろうか。


 やっぱり相談しておこうかと、ちらりと後ろの様子を伺う。


 相も変わらず警戒心を見せない二人に、リーシャはがっくりと肩を落とした。

お読みいただき、ありがとうございます。


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これからもよろしくお願いします!

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