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魔法の名門・アーデルハイドの双子姉妹〜秀才姉は天才妹の底を知りたい〜  作者: 金石みずき
第一章:アーデルハイドの双子姉妹

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第三話

「見て見て、お姉ちゃん! ほら、すっごく綺麗でしょ!」


 星空の下、得意満面にルミナが言う。ルミナはリーシャの隣で、まるで踊っているかのように両手を広げてステップを踏んだ。


「……本当ね」


 リーシャもルミナに続いて空を見上げる。


 深い夜の海の底で静かに主張する繊細な星の輝き。


 今宵は雲がなく、月もまた姿を隠している。なるほど。これは確かに、ルミナが『星がすごく綺麗に見える』と言うだけのことはある。


「お姉ちゃん、見ててね」


 歩きながらぼうと空を見上げていたリーシャに、ルミナが杖を取り出してぼそっと告げる。


光の粒・浮遊ルミナ・グラヌラ・レヴィタンス


 ルミナの杖の先から無数の光の粒子が噴き出し、辺りを照らした。そして杖の導きに従って、空にゆっくりと浮かび上がっていく。


 無数の光がより集まって浮かんだ姿はどこか朧げで、まるで水に映した月のようだとリーシャは思った。


 自然とリーシャの足が止まる。


「それから――拡散(ディフースス)!」


 ルミナが追加で詠唱を唱える。すると光の粒子が新しい星となり、夜空一面に散らばるように広がっていく。


 先ほどまでの繊細な星模様から一転した鮮やかな光景。


 自然現象ではありえない神秘にリーシャが目を見張ると、ルミナがさらに詠唱を追加する。


「――舞踏(ダンサンティア)! 拍動(プルサンティア)!」


 ルミナの作り出した星が瞬きながらゆっくりと夜空を旋回する。


 まるで星が踊っているみたい――陳腐な言い回しだが、リーシャの胸に浮かんだ素直な感想がそれだった。


 しばらくの間言葉を忘れて見入っていたリーシャだったが、最後を締めるルミナの「――消失エヴァネスケーレ」の静かな合図とともに光が消えたところで我に返った。


「あ……」


 思わず声が漏れ、しばし呆然と立ち尽くす。


 図書館を出たときはあれほど美しいと思った星空。しかしルミナの魔法を見てしまった今は、どこか物足りなさを感じずにはいられない。


 それだけルミナの生み出した魔法に魅了されてしまったということだろう。


「ご鑑賞いただき、ありがとうございました」


 仰々しい身振りで格好つけるルミナに、リーシャは心からの拍手を送った。


「……本当に見事だったわ。光の魔法(ルミナ・マギア)、あなた得意だものね」


 ルミナの名を冠する魔法――光の魔法(ルミナ・マギア)


 普段は一時の目眩しや明かりとしてくらいしか用いられず、学院でもあまり重要視されない魔法。


 光という形態を取りながらその実、陰に潜むような控えめな存在感が、どこかこの妹の在り様と重なっているようだと思わずにはいられない。


 しかしそんなリーシャの感慨をよそに、ルミナが照れくさそうに頬を掻いた。


「えへへ。実はお姉ちゃんに喜んでもらおうと思って、隠れて練習してたんだよね。緊張したけど上手くいってよかった」


 なんてことのないように話すが、これはルミナの言葉ほど簡単なことではない。


 ルミナの魔法は最初の光の粒・浮遊ルミナ・グラヌラ・レヴィタンスで一度終わっていた。


 そこに後から効果を加えていくためには、魔法で操った糸を何度も連続して針に通すような、繊細な制御力が必要となる。もしくはその理すら凌駕するほどの強烈な想像力か。


 ルミナがどちらであれを成したのかはわからないが、いずれにせよ常人の域にはいない。


 果たして――リーシャに同じことができるだろうか。


 必要なものは、光の粒子の密度、拡散率、速度、持続時間、明滅間隔、構成強度、それから――。


 リーシャの頭の中で、先ほど見たルミナの魔法がまるで逆再生されるように、一連の〝情報〟となって組み上げられていく。


 ある程度完成形が見えたところで、では試してみようかとローブの胸元に仕舞ってある杖に手を伸ばしかけ……やめた。


 もしもできたとしたらルミナは喜ぶかもしれない。だが、それは同時にルミナの成果を奪うことに他ならない。また、できなかったとしたら、今度はルミナに余計な心労を与えかねない。


 どちらにしても、意味がないのだ。


 であれば、リーシャのやるべきことは、ただこの光景を見せてくれたルミナの気持ちに最上級の感謝を捧げることだろう。


 そう考えたリーシャは、ルミナに近づき、自身の胸へと抱き止めた。


「うわっ、ぷ……あ、あの、お姉ちゃん?」


 困惑の声を上げるルミナ。しかしリーシャは問いかけに応えることなく、そのままの体勢でルミナの頭をゆっくりと撫でる。


「ありがとう、ルミナ」

「……うん」


 初めはどうしていいかわからなかったのか、身を硬直させているだけだったルミナも、やがて力を抜いてリーシャに全身を預けた。


 そんな妹の髪の感触や体温を確かめながら、リーシャは考える。


(とはいえ……これはチャンスかもしれないわ)


 リーシャの前では決して本気を見せようとしなかったルミナ。


 そのルミナが、その実力の一端を明らかにしてくれた。


 もちろんそれを意図してのことではないだろうが、訊いてみるなら今、このタイミングしかないのかもしれない。


 そう考えたリーシャはルミナの抱擁を解いて問いかけた。


「ルミナ、訊いてもいいかしら」

「ふぇ?」


 気の抜けた声を上げるルミナ。視線こそリーシャの方を向いているが、焦点が合っているのか怪しいものだ。


 だがリーシャはそんなルミナに、まっすぐ訊ねる。


「あなたがいつも本気を隠すのは……私に気を遣っているためなの?」

お読みいただき、ありがとうございます。


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