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魔法の名門・アーデルハイドの双子姉妹〜秀才姉は天才妹の底を知りたい〜  作者: 金石みずき
第二章:ルーンクレスト魔法学院魔法大会

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第二十三話

 リーシャが杖を動かすと、砂が浮き上がった。砂はゆっくりとリーシャの周囲を旋回するように漂う。


 その光景を見たルミナが呆然と呟いた。


「何……これ……風で砂を操って――?」


 そこまで言ったルミナが、ハッとしたように目を見開いた。


「ち、違う! これは砂が風になってるんだ! まさか……融合魔法!?」


 ルミナが叫ぶと、にわかに会場がざわついた。何かとささやきあう観衆の声が耳に届く。


 それを聞いたリーシャは、ゆっくりと、だが大きく首を横に振った。


「半分だけ正解ね。前半はあっているけれど、後半は間違いよ」

「間違い……?」

「あなたも知っての通り、多属性魔法の同時使用は波動特性の干渉により無効化される。だから融合魔法は実用できない。私も何度となく試したけれど、とうとうできなかったわ」

「だよね……」


 リーシャの説明に、ルミナは頷いた。当然だろう。今リーシャの話したことは、魔法使いにとって定説とされていることだ。


「じゃあ、これは――」

「さっきも言ったけれど、融合魔法を使うことは無理だった。でも、私はどうしても風魔法の弱点を――質量のなさを克服したかった。でも、水魔法だとあなたに勝てない」


 リーシャは思い出すように話す。


「思いついたのは、あなたの光の演舞を思い出したことがきっかけだったわ」

「わたしの?」

「ええ。あれで粒子の操作に着目したの。私は土魔法をそれほど上手く扱えない。でも砂粒ならいけるんじゃないかって思った。ちょうど少し前に、小石を飛ばしちゃって擦り傷を作ったこともあったしね」


 第一訓練場で風の渦・最大ヴェントゥス・ヴォルテクス・マクシムスを使用したときのことだ。まさかあのときはあれがヒントになるなんて思ってもいなかった。


「砂粒を極小化し、空気の粒子みたいに操れないかって思ったの。ほら、風魔法って究極的には空気の操作でしょう? だからあとは、砂を空気の粒子として定義する……認識だけの問題だったのよね」


 そう言いながら、リーシャは訓練の日々を思い出して苦笑してしまう。


(実際には……思い込むだけでできるほど簡単ではなかったけれど、わざわざここで語る必要はないわよね)


 実際にやってみると、空気と砂では制御の難易度が大きく違った。なかなかに骨の折れる工程だったが、未来が見えてくると楽しさもあったことは否定できない。


「これは風魔法の長所はそのままに、弱点を克服した私だけの魔法。ただ砂を飛ばしているだけだと思ったら痛い目を見るわよ」


 リーシャは顔を引き締め、杖を構える。


 ルミナもまた慌てて戦闘態勢をとったのを確認してから、リーシャは言った。


「お喋りはこのくらいにしましょう――砂塵の鞭ハレナ・プルウェレンタ・フラゲッルム!」


 ルミナが慌てて後ろに飛びいた。


 砂塵の鞭は元にルミナがいた場所の地面に叩きつけられる。すると鈍い破砕音が鳴り、地面がえぐり取られた。


「え!?」


 砂塵の鞭はえぐり取った地面を即座に分解。砂粒大まで小さく削ると、そのままそれを取り込んだ。わずかだが大きさを増し、リーシャの元へと戻る。


 一連の流れを見たルミナは顔を引き攣らせた。


「ちょっとそれ、反則じゃない?」

「すごいでしょう」

「すごいっていうか……ズルい! でも、強いと言っても所詮は砂でしょ? 水が付いたらどうするのかな? ――水の矢・連続アクア・サジッタ・コンティヌウス!」


 ルミナから水の矢が連続して放たれた。


 しかしリーシャは慌てることなく杖を振るう。


砂塵の盾ハレナ・プルウェレンタ・スクトゥム


 砂塵がリーシャを守るように盾となり、水の矢にぶつかる。ぶつかった部分は泥となって地面に落ち、そのまま動かなくなった。


 とはいえ、剥がれ落ちたのは一部のみであり、ほとんどの部分は健在だ。


 それを見て、ルミナは鼻を鳴らす。


「少ししか落ちなかったかー。でも、大質量なら全然違うよね? なら……水の波・激烈アクア・ウンダ・ヴェヘメンス!」


 大きな水の波がリーシャに向かって押し寄せる。だが、リーシャは動かない。なおも余裕を持って杖を振る。


砂塵の壁ハレナ・プルウェンタ・ムルス


 水の波と砂塵の壁が衝突する。砂塵の壁をすべて飲み込まんとするほどの水量だったが、中まで浸透し切る前に一部残った砂塵が近くの地面を解体し、供給を絶やさない。


 しばしの拮抗状態を経て、水の波がすべて収まったとき、そこには大きな泥の塊と、相変わらずリーシャの周辺にまとわりつく砂塵があった。


 ルミナの放った水魔法は完全に防がれ、そして砂塵も際限なく供給される。一種の膠着状態と言えた。


 だが、ルミナはその結果を見て、そして次にリーシャへと視線を移し、笑みを浮かべた。


「お姉ちゃん、息切れてる」


 指摘された通り、リーシャの息は上がっていた。傍目からでも身体を上下にゆすっているのがわかるほどだ。


「そりゃそうだよね。こんなすごい魔法をずーっと使い続けてるんだから。確かに威力も応用性も申し分ないけど……そのうちお姉ちゃんの魔力が尽きちゃうんじゃないの?」

「……その通りよ」


 リーシャはルミナの言葉を肯定する。だが、笑みは絶やさなかった。


 そんなリーシャの姿に、ルミナは首を傾げた。


「それなのに、なんでそんな顔してるの?」

「……すぐにわかるわよ」

「ふーん……、じゃあ試させてもらうよ。水の矢・連続アクア・サジッタ・コンティヌウス!」


 先ほどの再現のように、リーシャは砂塵で次々に放たれる水の矢を受け止め続ける。その間もリーシャの魔力は減り続け、息がどんどんあがっていく。


 だが表情を変えようとしないリーシャ。ルミナは矢を放ち続けながらも眉を顰めた。


「だからなんでそんな顔を――――って、まさか!?」


 ルミナが何かに気が付いたように魔法を止めた。そして、驚愕した顔でリーシャを見てくる。


「お姉ちゃん、まさかこれを狙って……?」

「はぁっ、はぁっ……ええ。普通に勝てるのが一番だけど、それが難しいならこれしかないと思った」


 リーシャは答え合わせをする。


「資源の奪い合いね。この一帯の水分と私の魔力――尽きるのはどちらが先かしら?」

お読みいただき、ありがとうございます。


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