第二十二話
「どうやって対応してくるかなって思ったけど、まさかあんな手を使ってくるとは思わなかったよ」
「やっぱり実力を隠していたんじゃない」
「……今はそういう話、してないよね?」
だいたいそれならお姉ちゃんも隠してたじゃん、と少し不貞腐れたようなルミナの呟きが耳に届いた。
だがそれも一瞬のこと。すぐにルミナの表情が元の楽しげなものに切り替わる。
「さっきも言ったけど、わたしはいつも全力でやってるよ。今もそうだし、これまでもそう」
嘘おっしゃい、とリーシャが反論しようとするが、その前にルミナが「ただ――」と続けた。
「ただ?」
「お姉ちゃんの全力がわたしの全力ってこと!」
「……そういうことね」
リーシャは納得して頷いた。やはりリーシャの直感は間違っていなかった。
ルミナは意図的に力を抑えていた。ルミナの全力とはリーシャに合わせた全力のことであり、その範囲で最善を尽くしていたということなのだろう。
だけど、もちろんそれでは足りない。
「その先を見せてはくれないの?」
リーシャが問いかけた。
「……引き出してみなよ」
対するルミナの表情が、まるで挑発するようなものに変化する。目が細められ、頬がつり上がった。
「お姉ちゃんならできるはずだよ――自信、あるんでしょ?」
ルミナが杖をリーシャに向けてくる。
リーシャもまた、ルミナに杖を向けた。
「……当然っ」
この言葉が、試合再開の合図となった。
「風の矢・複数――連続!」
リーシャの周囲に一〇にも上る複数の風の矢が生成され、ルミナに向かって放たれる。それだけでは終わらず、さらにその工程が何度も繰り返されていく。
それはさながら風の矢の雨となって、ルミナを襲った。
「水の渦・包囲」
ルミナが水の渦を自分の周囲に展開し、身を守ろうとする。
先ほどまでなら止められた攻撃だが、今のリーシャには追加の手段がある。
「――貫通」
新しく生み出された風の矢に、貫通力を上げるための回転が加わる。風の矢が空気を切り裂くような音を上げて、ルミナに向かって放たれようとする。
しかしルミナも、ただ闇雲に水の渦を出したわけではなかったらしい。
「水の爆発・連続!」
複数、連続、貫通と、追加効果を与えるたび、リーシャの風の矢の発生はわずかずつだが遅延していった。
本来であればその隙を連続が埋められたのだが、水の渦によって数秒の空白時間が発生した。
そこを狙い撃ちにされ、リーシャの周囲に連続して飛来した水の塊が、爆発、飛散する。
生成されようとしていた風の矢は当然耐えきれず消失し、再生成しようとしてまた消失。連鎖により、リーシャは風の矢・複数――連続を破棄せざるを得なくなった。
そして水の爆発が巻き込む対象は、風の矢ばかりではない。当然、すぐ近くのリーシャも同じこと。
試合開始以降、初めてリーシャが防御に回った。
「くっ……風の障壁・包囲! |風の加速・強力《ヴェントゥス・アクセラティオ・フォルティス》!」
リーシャは自分の周囲に風の障壁を展開。同時に風で補助しながら後ろに飛んで距離を取り、その場から脱した。
「まだまだいくよっ!」
ルミナが駆け出し、そんなリーシャを追いかけてくる。
「水の鞭・六重!」
「六――っ!? ……ヴ、風の刃・六重!!」
三本でも厄介な水の鞭が六本も!? と驚愕するリーシャだったが、ただ黙って食らってやるわけにはいかない。いつもと同等の威力であれば、一発食らっただけで身体保護結界が発動してしまうかもしれない。
ルミナの水の鞭には、そのくらいの威力がある。
リーシャのすぐ近くまで迫っていた一本目の水の鞭が、風の刃によって切断される。
「あはは! 楽しいね、お姉ちゃん!」
「どこがよ!」
二本目も同様に対処できたが、三本目でとうとう外してしまう。そのまま身体に当たってしまうかと思いきや、かろうじて間に合った四枚目の風の刃によって切断。
「――ト、三重!!」
リーシャは一本ずつ対処することを諦め、追加の詠唱によってさらに三枚の風の刃を追加。合計五枚の風の刃を撒き散らすことで、なんとか残る三本の水の鞭も一掃できた。
「はぁっ、はぁっ、はぁ……っ」
高度な魔法を連発したことで、肩で息をするリーシャ。額の汗を拭って呼吸を整えるまでの間、ルミナは少し距離を取ってリーシャを見ていた。
相変わらず挑発的な笑みはそのままで、リーシャには「こんなものか」と言っているように思えてならなかった。
「……これで全力?」
リーシャが問いを投げかけると、ルミナは表情を崩さず答える。
「どうだろうね」
何よりも雄弁な答えだった。やはりまだルミナは底を見せていない。
「ふ――……っ」
リーシャは深呼吸して、心臓を落ち着かせる。
バクバクと早い鼓動は、疲労か高揚感か。
おそらく両方だ。
「やっぱり私の目は間違っていなかった」
――覚悟を見せよう。
「諦めるの?」
「いえ……」
ルミナの問いに、リーシャは首を振る。
そして決絶とした覚悟で告げる。
「私も本気を出すわ」
そう言って、リーシャは戦闘の余波で崩れた一塊の瓦礫に向かって唱えた。
「土の粒・微小」
リーシャの指した瓦礫がさらさらと崩れ、砂へと変わっていく。
できあがった一山の砂に目を向けたルミナの表情が、困惑したように歪んだ。
「これが本気……?」
意図がまったくわからないといったふうな疑問を孕んだ声。
しかしリーシャは否定する。
「いいえ。――見ていなさい」
そしてリーシャは唱えた。
それは誰も知らない魔法だった。
「砂よ風のように舞え――砂塵魔法」
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