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魔法の名門・アーデルハイドの双子姉妹〜秀才姉は天才妹の底を知りたい〜  作者: 金石みずき
第二章:ルーンクレスト魔法学院魔法大会

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第二十一話

 試合開始の合図とともに、リーシャは杖を振るった。


(まずはこちらのペースに引き込む! 様子見なんてしない――初手から全力!)


風の矢・連続ヴェントゥス・サジッタ・コンティヌウス!」


 連射速度だけを意識した速攻。狙いはやや甘くなるが、こちらの本気度が伝わればそれでいい。


 ルミナはぎょっとしたように目を見開いて、杖を振るった。


「っ、水の渦・包囲アクア・ヴォルテクス・キルクムダンス!」


 ルミナを取り囲むように水の渦が巻き起こる。風の矢は渦の包囲を抜けられず、流れに取り込まれて次々に消失していく。


 だがリーシャはそれを予想し、すでに次の魔法の準備に入っていた。


風の槍・最大ヴェントゥス・ランケア・マクシムス!」


 一回戦でエドガーに使った組み合わせだ。あのときと違うのは、今回の水の渦には亀裂が入っていないということ。しかし元々、水の強度はそれほど高くない。


 風の槍が水の渦と接触した途端、大きな水しぶきを上げて渦がはじけ飛ぶ。そのまま当たるかと思われた風の槍を、ルミナは渦の回転方向と反対側へと身体を逸らして避けた。


 しかし周囲にまとわれた風の余波で、服の一部が小さく破れ、わずかに肌が露出してしまう。


「お姉ちゃん……っ!」

「どうしたの? あなたの実力はこんなもの? 風の(ヴェントゥス)……」

「~~~っ! 水の渦・包囲アクア・ヴォルテクス・キルクムダンス!」

「――槌・強力マレウス・フォルティス!」


 リーシャの攻撃を感知し、ルミナは咄嗟に水の渦を再展開したのだろう。しかしリーシャはそんなもの関係がないと言わんばかりに、水の渦を横から風の槌で打ち付けた。


 これまでの点や線の攻撃でなく面の攻撃は、水の渦を巻きこみながらルミナを横殴りに吹き飛ばす。


 たまらず悲鳴をあげながら舞台を転がっていくルミナ。だがリーシャの猛攻は止まらない。


 ルミナを追いかけながら、さらなる追撃の魔法を展開する。


「もう一発! 風の槌・強力ヴェントゥス・マレウス・フォルティス!」


 倒れたルミナに上から振り下ろす一撃。まともに接触すればこれで終わりだろう。だが、ルミナがこんな簡単に終わるはずがないと、リーシャは()()していた。


「いい、かげんに……っ、しろー!! 水の鞭・三重アクア・フラゲッルム・トリプレクス!!!」


 ルミナの怒りの声とともに、ヒュッと短い音が三度鳴り、水の鞭が放たれた。一本は頭上の風の槌を破壊しに。そして残る二本でリーシャを狙ってくる。


 以前見せられた、魔狼を倒し木々を深く抉った一撃だ。当たってしまえば、リーシャもただでは済まないだろう。


 しかしリーシャは冷静に魔法を紡ぐ。


「……それでいいのよ。風の刃・二重ヴェントゥス・ラミナ・ドゥプレクス


 亜音速に迫る水の鞭は、通常であれば目にすることなど出来ない。


 だが今のリーシャには、極限までの集中と併用する風の探知・精密ヴェントゥス・デテクティオ・プラエキススにより、その挙動がはっきりと()()()()()


 リーシャから放たれた二枚の風の刃は、高速で振るわれる水の鞭を正確に根元で切断した。先端部はただの水の塊となって離散し、短く残された根元部分だけが振るわれて空を切る。


 ルミナは信じられないものを見たかのように目を丸くし、ごくりと喉を鳴らした。水か汗かわからない液体が頬を伝い、顎から流れて地面に吸い込まれて消える。


 試合開始以降やっとできた空白に、二人の攻防を固唾を呑んで見守っていた聴衆が、大歓声を上げた。


「お姉ちゃん……ちょっと強すぎない?」


 ルミナが引き攣った笑みで言う。


「少しは本気をだす気になった?」


 リーシャはルミナを挑発するように精一杯、不敵に笑みを浮かべてみせる。


 するとルミナの笑みが獰猛さを持った。


「何を誤解してるか知らないけど」


 こめかみを引き攣らせ、杖の先端をリーシャの方向へと突きつける。


「わ・た・し・は~~~いつでも本気だよっ!! 水の波・激烈アクア・ウンダ・ヴェヘメンス!」


 先ほどまでとは雲泥の差をつけた圧倒的な水量。波というよりもはや壁といっていい。質量という原始の武器が、リーシャを押し流そうと迫る。


「……やればできるじゃない。風の槍・広域ヴェントゥス・ランケア・アンプルス!」


 水の波に穴を穿つべく、リーシャが風の槍を放った。しかしそこでリーシャの顔色が変わる。


「っ、風の槍・広域ヴェントゥス・ランケア・アンプルス! 風の槍・広域ヴェントゥス・ランケア・アンプルス! 風の槍・広域ヴェントゥス・ランケア・アンプルス!」


 風の槍はわずかに水の波を押し戻すものの、すぐに消失してしまう。リーシャは風の槍・広域ヴェントゥス・ランケア・アンプルスを連発して防ごうとするが、水の波は止まらない。


「~~~っ、こうなったら……風の槍・広域ヴェントゥス・ランケア・アンプルス!」


 リーシャの魔法により風の槍が作られていく。ここまでであれば先ほどまでと同じ。だが――


「――最大マクシムス!!!」


 大会始まって以来最大に注がれた魔力が、風の槍を、太く、最大限に強化する。


 二重の修飾詠唱によって支えられた風の槍は、水の波に当たっても負けることはない。そのまま水の流れを裂くように、リーシャの左右へと分断した。


 リーシャとルミナはその場から一歩も動かず対峙する。


 にらみ合いの末、先に口を開いたのはルミナだった。


「お姉ちゃん、今のって……」

「そう。以前にあなたに見せてもらった光の演舞――真似させてもらったわ」


 それを聞いてしばらく黙り込んでいたルミナだったが、やがてぽつりと漏らす。


「…………やっぱりお姉ちゃんはすごいや」


 その顔には、どこか楽しげな笑みが浮かんでいるように見えた。

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