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魔法の名門・アーデルハイドの双子姉妹〜秀才姉は天才妹の底を知りたい〜  作者: 金石みずき
第二章:ルーンクレスト魔法学院魔法大会

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第十九話

 自身の控室にもどったリーシャは、備え付けの椅子に深々と腰かけ、天井を仰ぎ見て目を瞑った。


(思いがけず苦戦してしまったわね)


 実際、エドガーは強かった。


 結局、基本四属性をすべて使ってみせた。どれも練度に差は見られず、日々の研鑽が窺えた。一つ一つはそれほどでもないが、なにせ組み合わせが膨大だ。相手によって戦法を変えられるというのは、有利に働く場面も多いだろう。


(練度の問題も、それだけ多属性の魔法に訓練時間を割いているからよね。もし一属性に特化していたら、かなり強力な使い手だったかもしれないわ)


 その結果、今のエドガーとどちらが強くなるかということは、リーシャの知るところではないが。


(とはいえ勝利は勝利。魔力もほとんど残っているし、これなら明日の試合に差し支えはなさそうね)


 このくらいなら明日には問題なく全快しているだろう。決勝でのルミナとの試合には、できる限り万全の状態で望みたい。エドガーには悪いが、防御に多くの魔力を割かなくてよかったことは幸いだった。


(暇ね……)


 第一回戦の全試合が終了するまでの間、選手は全員控室で待機となっている。


 これは試合まで相手を知らせないためと、試合の終わった者が次の相手の試合を見られないようにするため――いずれも事前に対策を立てられなくするための措置だった。でなければ、出場機会の早い選手ほど第一回戦で不利となり、準決勝以降では逆に有利ということになってしまう。


(でも学校の行事なのだし、少しくらい見せてくれても……。ただここでじっとしていなさいなんてまるで拷問だわ)


 次の相手も気になるが、何よりの気がかりはルミナだ。ちゃんと勝ち上がってくれるだろうか。


(別に勝利を疑っているわけじゃないけれど、こればかりはね。ああ、早くすべての試合が終わらないかしら)


 リーシャは椅子から立ったり座ったり歩き回ったり、終始落ち着かないまま解放されるときを待った。




 第一回戦の試合がすべて終了して、明日の諸注意事項などを聞き終えたリーシャは、一足早く寮の自室に戻ってきた。鞄を置いて制服を脱いだところで、どたばたと慌ただしい足音が近づいてくる。


 足音が自室の前で急停止したかと思うと、大きな音を立てて扉が開かれた。


「お姉ちゃん準決勝進出おめでとう! 次の試合も頑張ってね! というか大丈夫!? 今日膝をついちゃったって聞いたけど怪我してない!? 服脱いでるけど包帯とかいる!? 巻くなら任せて! というか見せて! それとももし疲れてたらマッサージでもしようか!? 魔力が切れてたらすぐに寝よう! 添い寝もするし子守唄も歌うよ! あ、そうだ。この前香りのいいお茶を買ったんだよね。今から淹れるから飲んでリラックスしようか多分お姉ちゃんも気に入ると思うし。それとそれと――」

「いいから落ち着きなさい。ただ着替えようとしていたというだけで、私は大丈夫だから」

「それならよかった! あ、知ってる!? わたしも勝ったよ!」

「ええ。結果だけ見させてもらったわ。おめでとう」

「えへへ。これで二人とも三年連続で準決勝以上進出確定だね! それでお姉ちゃんの次の相手だけど実はわたしその子のこと少し知ってて――」

「あら、そうなの。でも私も知っているから大丈夫よ。前に一度、試合を見たことがあるもの」

「あ、そうなんだ。なら大丈夫だね。じゃあさ、今日のお姉ちゃんの試合の相手のことでちょっと訊きたいことがあるんだけど――」

「だから落ち着きなさいって」

「あいたっ」


 延々と話し続けるルミナの脳天に、とうとうリーシャは手刀を落とした。ルミナは涙目になって少し腰をかがめ、上目遣いにリーシャを見上げてくる。


「あなたも疲れているでしょう。まずは着替える。そしてご飯を食べて、お風呂に入って、話すのはそれからでも遅くないわ」

「えー」

「今に寮のみんなが大挙して帰ってくるわよ。いろいろと混雑する前に終わらせたいわ」

「……はぁい」


 不満そうだったがリーシャの意見に納得してくれたのか、ルミナは言うことを聞いてくれた。


 準備を終えて食堂に行くともうすでに人が集まってきていたため、手早く済ませてお風呂に直行。疲れを癒す間もなく戻ってきたのは、自室を出てから一時間後のことだった。


 その間、寮内のいたるところで知り合いに声をかけられまくり、今日のことを称えられ明日の応援の言葉を受け取り続けたのは言うまでもない。


 二人は部屋に備え付けてあるソファで横並びになってぐったりとする。


「なんだかどっと疲れたわね……」

「うん……。もう、ちょっと眠い……」


 試合よりも精神をすり減らした気がする。それに元々精神的な疲れもあったのだろう。


 リーシャは自分の試合のあともルミナの試合のことをずっと気にしていたし、ルミナにいたってはリーシャの試合結果がわからないばかりか、最後まで自分の試合が控えていたのだ。落ち着いて疲れが一気に出ても仕方のないことだろう。


「話すのはまた明日の朝にして、今日はもう寝ちゃいましょうか。あなたももう限界でしょう?」

「……うん。ごめん、そうみたい。お姉ちゃんとお話しするの、楽しみにしてたんだけどなぁ」

「私もよ。話したいことや訊きたいことが、いっぱいあったから。でも、明日に響かせるわけにはいかないわ」

「……うん、そうだね」


 しゅんと小さくなるルミナを見ていると、リーシャの心の中に罪悪感のようなものが芽生える。リーシャは「仕方ないわね」とルミナの頭を撫でた。


「今日は久しぶりに一緒のベッドで寝ましょうか。申し訳ないけれど、それで我慢してくれないかしら」

「……くっついてもいい?」

「ええ。かまわないわよ」

「――わかった! なら寝よう! 今すぐに!」

「……ルミナ? あなた、いきなり妙に元気になってない?」


 一足先にベッドに飛び込み「さあさあ早く」と隣を叩くルミナ。そんな姿に苦笑しながら、リーシャもベッドに潜り込んだ。そのままリーシャは強引にルミナの胸元へと顔を埋めさせられ、妙に早い鼓動と体温に包まれながら、やがて眠りに落ちていったのだった。

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