第十七話
司会の試合開始の合図と同時に、エドガーが動いた。
「まずはこちらからいかせてもらうぞ! 風の矢・単一!」
エドガーの周囲で、風が細く密度を上げて収束し、リーシャに向けて放たれた。迫りくる不可視の矢。しかし狙われた当のリーシャは、一切慌てることなく落ち着いて杖を振るう。
「風の障壁・包囲」
リーシャの周囲を、風がうねるように取り囲んだ。接近した矢はその風の障壁を突破できず、飲み込まれて一体化。そしてあっさりと消失した。
(初手は風魔法、か。得意なのかしら?)
リーシャは何の感慨もなく、今の魔法を分析する。
(基本に忠実な風の矢。発動までの時間はそこそこで、威力もそれなり)
優等生らしい素直な魔法だ。リーシャは改めて杖を構え直し、攻撃に転じる。
「風の刃・二重」
リーシャの合図とともに、風の刃が上下に二枚――胸と脚を切り裂く高さに形成され、エドガーに向かって飛んだ。直撃すれば会場に設置された身体保護結界が発動し、リーシャの勝利が決まる。
とはいえこれで終わっては、さすがに張り合いがなさすぎる。そうリーシャが思っていると、予想通りエドガーもリーシャと同じ障壁を展開して風の刃を防いだ。
だが完全に止めることはできなかったのだろう。障壁が展開された一瞬後で、エドガーのローブの端にわずかな切れ込みが入る。
しかしエドガーに、特に慌てた様子は見られない。それどころか二発続けて、また先ほどと同じ風の矢を放ってきた。
当然、リーシャは自身に傷一つつけずに対処し、そして困惑する。
(まさか、何の工夫もなく|風魔法使い同士の優劣をつける《ミラーマッチをする》つもり?)
今までやりとりでわかったが、エドガーは確かに優秀だ。だが言い換えれば、その程度にすぎない。
こちらの障壁の展開が間に合わないほどの早さも、展開した障壁を貫いて来る威力も、エドガーにはない。
それでは何度繰り返したところでリーシャに勝つことなどできない。
(思い返してみれば、今まであまり風魔法を使う相手と戦ったことはなかったかもしれないわね。普通はこんなものなのかしら?)
学年首席で風属性を得意とするリーシャだ。そんなリーシャに風魔法で挑んで勝機を見出せる者の方が稀だろう。そういう意味では、戦う機会がなかったのではなく、単に対戦相手が使ってこなかっただけなのかもしれない。
(これ以上は得るものがなさそうね。先ほどは全力を尽くす約束もしたし……そろそろ終わらせましょう)
リーシャはそう決心し、杖に魔力を込めた。
「風の刃・複数!」
風の刃・複数は、風の刃を複数同時に放てる非常に使い勝手のいい魔法だ。反面、多くの魔力と高度な制御力が必要となるが、リーシャはその両方を高い水準で取得している。
今回放った刃の数は六枚。以前の演習でルミナに放ったのと同じ数。
とても先ほど程度の風の障壁で防ぎきれる魔法ではない。
リーシャが勝利を期待したそのとき、エドガーが意外にも落ち着いた様子で言う。
「ふむ、やはり風魔法では分が悪いか。ならば――土の壁・即時!」
「――なっ」
リーシャの放った風の刃は、エドガーの前からせり上がった土の壁によってすべて弾かれる。一瞬だけ魔力を込められて生成された土の壁は、目的を果たすとすぐに瓦解し、エドガーの姿が顕になった。
意外な結果に驚いたリーシャだったが、そこにエドガーの口から「何を驚いている」と言葉を浴びせられた。
「別に風魔法しか使わないと言ってはいないだろう……先ほどまでの攻防は、ただの様子見だ」
そして、エドガーが不敵に笑んだ。
「今度は僕の番だな。土の槍・飛翔!」
「くっ」
驚いていたことで反応が遅れたリーシャは、エドガーの足元から詠唱とともに勢いよく飛び出してきた土の槍を、とっさに左へ飛んで躱した。
直後、体勢を崩したリーシャの元に何発も連続して土の槍が迫る。その土の槍を、リーシャは前後左右に移動しながら避けていく。
リーシャに当たらなかった土の槍が、地面にいくつもの穴を穿つ。下と前方を交互に見ながらの移動を余儀なくされ、ひどく動きづらい。次第に焦りが出る。
(落ち着かなきゃ。この土魔法もそこそこ。さっきまでの風魔法と大差はない)
混乱する思考の中、努めて冷静に攻撃の隙を縫って、リーシャは呼吸を整えた。すると、だんだんと攻撃が見えてくる。
何度目かの回避のあと、余裕の出てきたリーシャは、反撃とばかりに風の矢を放った。十分な時間がなかったため、複数でなく単一となってしまったが、エドガーの攻撃を止めさせるには十分だった。
腕に擦過傷を作ったエドガーが、忌々しげにリーシャを睨んだ。
「ちっ、鬱陶しいな……。なら、次はこれだ―― 伝令!」
リーシャは先ほどから土の槍を打ち込まれていた癖で咄嗟に回避行動を取り、直後誤りに気づく。背筋がぞっと冷たくなった。
「えっ、あ、しまっ、風の障――」
「遅い」
慌てて障壁を展開しようとしたが、間に合わず、伝令がリーシャに届くその直前で発動。
パァン! と立て続けに三発。恐ろしいまでの快音がリーシャのすぐ近くで鳴り響いた。
救難信号として利用される圧倒的な音圧が、リーシャの鼓膜と脳を直接揺らす。
平衡感覚を失い、とても立っていられなくなったリーシャは、ついに地面に膝をついた。
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