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魔法の名門・アーデルハイドの双子姉妹〜秀才姉は天才妹の底を知りたい〜  作者: 金石みずき
第二章:ルーンクレスト魔法学院魔法大会

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第十五話

「……っ、これはちょっと……、すごいわね……!」


 ルーンクレスト魔法学院の第一基礎訓練場に、竜巻の如き暴風が荒れ狂っていた。その中にリーシャはただ一人、脚を踏ん張って身体を支えていた。


 ――風の渦・最大ヴェントゥス・ヴォルテクス・マクシムス


 まともに制御することすら難しいこの魔法は、現在のリーシャの持ちうる中で最上級に位置するものの一つだ。


(威力と発動速度は申し分ない。けれど……)


 あまりにも範囲が広すぎる。


 魔法を使ったリーシャまで巻き込まんばかりの暴風に、まともに目も開けていられない。


 それどころか、先ほどから吹き飛ばされてきた砂や小石などが当たり、身体にいくつも細かな傷を作っている。


(戦争でもするならともかく普段使いには向かなそうね……)


 またダメだったか、とリーシャは肩を落とした。


 これまで、すでに使える風魔法の修練やより高い年次で習う難しい魔法、学術書や論文に書かれていた魔法や理論などをいくつも試してみたが、これといったものに行き当たらず、ことごとく空振りに終わってしまった。


(何か新しい魔法を探さないと。誰も知らないかもしれない――私にとって最良の魔法を)


 そうじゃないと、ルミナに本気を出させることなんてきっとできない。




 第一基礎訓練場からの帰り道。寮に戻るべく、学院の廊下を歩いていると、正面から見覚えのある顔が歩いてきた。


「あ、リーシャさん。やっほー」

「こんにちは、ミレイルさん」


 ミレイルとは野外演習をきっかけに、こうして顔を合わせれば話すようになった。以前よりも気さくさが増し、リーシャは親しみを覚えつつある。


 しかしミレイルはリーシャの返事がどこか気に食わなかったらしく、頬を膨らませてしまった。


「もー。だから『さん』なんてつけなくていいって。呼び捨てで呼んでよ」

「あなただってつけてるじゃない」

「あたしがリーシャさんにつけるのは自然だからいいの! むしろつけないなんて恐れ多いよ」

「同学年なのに何を言っているんだか……はぁ。〝ミレイル〟――これでいい?」

「うん、それがいいな」


 リーシャが呼び捨てにしたことでようやく満足したらしく、ミレイルの顔が明るく晴れた。


 そして、ずいっと一歩、リーシャの眼前まで踏み込んで来る。 


「何か悩みごと? 眉間にぎゅーって皺が寄ってるけど」

「……ええ、まあ。悩みごとと言われれば……そうなのかしら?」


 難しい問いだとリーシャは思う。


(思えばこの学院に入学してから――いえ、生まれてからずっと、悩んでいないときなんてほとんどないかもしれないわね)


 その悩みの種のほとんどは、言うまでもなくルミナだ。


 単なる兄弟姉妹でも少なからずあると思うが、双子という自身の分身とも言うべき相手を持ってしまえば、どうしても比べてしまう。


 リーシャは自分でも自覚しているが、自身については長所よりも短所の方に目がいくきらいがあった。


(でも、ルミナについてはいいところばかり目につくのが不思議ね。ルミナが私の目指す理想像というわけでもないのに)


 目標と憧れは違うということだろうか。しかし、ルミナに憧れているというのも違和感しかない。


(敢えて言うならば――焦がれている?)


 しかし、どうにもしっくりとこない。


(気持ちなんて不確かなものを、決まりきった型に押し込もうとするなんて、どだいできないことなのかもしれないわね)


 いつの間にか無言になってしまっていたらしい。


 リーシャがついそんなことを考えていると、ミレイルに「リーシャさん?」と呼ばれてしまった。落ち着いて取り繕う。


「なかなか解決が難しい問題だから」

「聞いてあげたいけれど、リーシャさんに無理ならあたしには絶対無理だ」

「そんなことない……と言いたいけれど、難しいでしょうね。そうね――〝杖選びのジレンマ〟みたいなものかしら」

「うへぇ。そりゃ無理だ」


 〝杖選びのジレンマ〟とは、魔法使いならば誰しもが最初に遭遇する難問で、生涯にわたって答えを見つけるのが難しい課題だ。杖にはどれも良さ悪さがあることから、すべてにおいて最良のものなど存在しないという当たり前のようなことを説いた言葉。


 リーシャは携行性のよさと応用範囲の広さからシンプルな短杖を使っているが、中には刻印(ルーン)を刻んだ魔晶石をはめ込んで、何らかの効果を付与した長杖を使用している者もいる。


 しかしたいていの場合、そのような装飾杖は杖自体が大きくなりがちで、かつ一芸特化のものが多い。ある程度方向性が定まってから使われることがほとんどだ。学院生のような発展途上の身の上では、むしろ少数派と言える。


「悩むのは仕方ないかもしれないけど、皺を寄せるのはダメだよ。とれなくなっちゃう」

「まだ気にする歳でもないでしょう」


 リーシャは軽い冗談だと思い、適当な調子で返した。しかしミレイルにとってはそうではなかったらしく、急に気勢を強められたので驚いてしまう。


「そんなことないよ! うちのお父様にお母様の若い頃の話を聞いたら、学院時代から剣で一本線を引いたみたいに、それはもう深く刻まれてたって言っていたもの」

「へ、へぇ。そうなの……。わかった、気をつけるわ」


 若干引き気味に答えたリーシャだったが、まだ皺を作りたくないのもまた事実。


(少し気を付けましょうか)


 そう思うと、なんとなく眉間を擦ってしまうリーシャであった。


 ミレイルが満足したように笑う。


「うんうん。リーシャさん、とっても綺麗なお顔をしているもの。皺なんてもったいないわ。お花を愛で、美しい景色を見て、楽しいお話をして、美味しいものを食べるの。そうすれば皺をつけている暇なんてあっという間になくなるわよ」

「ふふっ、参考にさせてもらうわね」


 いつの間にかミレイルの調子に乗せられている。けれど、いい気分転換になった。


(美しい景色と言えば――いつかルミナに見せてもらった光の魔法(ルミナ・マギア)。あれは本当に見事だったわね。今度、練習もかねてやってみようかしら?)


 確か……と当時見た手順をリーシャが反芻していると、ミレイルが「うん」と声を上げた。


「なんだか元気出たみたいだし、あたしはそろそろ行くね」

「気を遣わせてしまったようね。ありがとう、ミレイル」

「ううん、あたしがリーシャさんと話したかっただけだよ。じゃあ、また今度……あ! 魔法大会、応援してるから頑張ってね!」

お読みいただき、ありがとうございます。


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これからもよろしくお願いします!

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