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魔法の名門・アーデルハイドの双子姉妹〜秀才姉は天才妹の底を知りたい〜  作者: 金石みずき
第一章:アーデルハイドの双子姉妹

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第十二話

 本日の日程は野外演習のみで終わりだった。


 リーシャとルミナは寮の部屋に着くなり、揃ってベッドに倒れ込んだ。


「あー……つかれたねー……」

「本当ね……」


 ルミナが吐き出した言葉に、リーシャも同意した。


(魔力切れ寸前までいったのなんて……一体いつ以来かしらね)


 記憶を遡ってみるが、リーシャは本当に思い出せなかった。普段から鍛錬はしているが、魔力を使い果たすまで追い込むなんて辛いだけであまり意味がない。


 なにせ魔力の使用量と貯蔵量の相関は未だ証明されていないのだ。


(明日までに戻るかしら)


 身体の芯に疲れが重さとなってまとわりついているような感覚が、何に対しても億劫な気持ちにさせる。


 さすがのリーシャも今日ばかりは自主的な訓練や勉強をする気にはなれなかった。


 たまにはそういう日もあっていいかもしれない。何より今日は学びの多い日だった。反省点を自分の中で消化することもまた大切だろう。また同じ過ちを繰り返してはたまらない。


「お姉ちゃん」

「ん?」


 枕に顔を押し付けて目を閉じながらそんなことを考えていると、ルミナの声が聞こえた。


 リーシャが引きずるように身体を起こすと、ルミナも同じように身体を起こしてベッドに座っていた。


「あそこに先生がいたこと……本当はお姉ちゃんも気づいてたんでしょ?」


 ルミナが確信に満ちたように言う。


(あそこっていうと、第一班から第三班までが集合したところのことよね)


 リーシャはそう判断し、ゆるゆると首を振った。


「いいえ。気づいていなかったわ」

「え? うそ」


 驚いたように、ルミナは目を見張った。しきりに何度もまばたきを繰り返し、とても信じられないといった様子だ。


 そんなルミナに、リーシャは「当然でしょう」と告げる。


「だってあのときの私は、探知魔法(デテクティオ・マギア)を使っていなかったもの」


 その答えにルミナは思いっきり眉間に皺を寄せた。完全に訝しんでいるようだ。


「お姉ちゃんが? 魔物のいる環境で? 探知魔法(デテクティオ・マギア)を使っていなかった? そんなことあるわけないじゃん」


 ルミナはそう言い切った。


 無理もない。


『魔物と遭遇する危険性のある場所で探知魔法(デテクティオ・マギア)を切ってはいけない。』


 これはアーデルハイドの家で幼い頃から繰り返し言い聞かせられ続けていた教えだ。考えるまでもなく身に沁みついていて、もはや習慣と言っていい。


(信用してくれているのは嬉しいけれど)


 だが、それでもリーシャは探知魔法(デテクティオ・マギア)を切っていた。それは――


「本当よ。だってあそこには、ルミナがいたじゃない」

「……え?」


 今度こそ完全に予想外の返答だったようだ。


 ルミナは口をぽかんと空けたままで停止した。


 そんなルミナにリーシャは告げる。


「私の魔力は残り少なかった。だから帰りのために温存しなければならなかったの。ルミナなら、あの状況で探知魔法(デテクティオ・マギア)を切るはずがない。そう信じていたから任せたの」

「お姉ちゃん……」


 どう反応していいか迷っている様子のルミナに、リーシャはクスッと笑って見せた。


「ふふっ。意外? そんなにおかしいかしら?」


(ルミナは私のことを決して完璧じゃないと知っているはずなのにね)


 とはいえ、リーシャにはそのルミナの信用が少しだけ誇らしく思えた。だってそれは、これまでずっとリーシャが〝リーシャ〟をやれていたという証左に他ならないのだから。


 ジェイド教諭もリーシャが探知魔法(デテクティオ・マギア)を使っていないことがわかっていたのだろう。だからこそ『今のあなたはすでにそれを理解しているようですがね』というセリフが出てきたのだろうとリーシャは考える。


(先入観って不思議ね。ルミナの方が私のことをよく知っているのに、だからこそ見誤ってしまうなんて)


 未だ返事をしないルミナに、リーシャが問う。


「怒った?」

「……ううん、全然。とても信じられなくて、でもちょっと嬉しい」


 喜びを抑えきれないのか、はにかむようにルミナがそう言う。


 そんなルミナがあまりにも可愛くて、リーシャは重い身体を忘れて自分のベッドを降りる。そのままルミナのベッドまで向かい、隣に腰掛けた。


「今日は、本当にありがとう。助かったわ。何度お礼を言っても足りないくらい」

「……うん。お姉ちゃんが無事でよかった」


 リーシャはルミナを強く抱きしめた。するとルミナからも同じように抱擁が返ってくる。そうしていると、自然と身体の芯がじんと痺れ、まとわりついていた疲れが解けていくように感じた。


 しばらくの間二人はそうしていたが、やがてゆっくりと身体を離す。


 そしてリーシャはルミナの顔を至近距離から見つめると――突然くすくすと笑い出した。


「お姉ちゃん?」


 どうしたの、とルミナは小首を傾げる。


 そんなルミナにリーシャは謝りながら伝える。


「ごめんなさい、ちょっと思い出してしまって。ふふっ。それにしてもあのときの長広舌、先生がいたと知っていてよく振るえたわね」


 するとルミナも思い出したらしい。ルミナの顔がじわじわと赤く染まり、唇を尖らせてそっぽを向く。


「……だって本気でムカついてたし」


 そしてすぐに不安そうな顔で上目遣いにリーシャを見る。


「迷惑……だった?」

「ううん、嬉しい」


 リーシャはにこりと微笑み、ルミナの手をとった。


「ありがとう、ルミナ」


 改めてリーシャは礼を言い、ふと思いつく。


「そうだ、久しぶりに……今日は一緒に寝ましょうか。少し狭いけれど――うわっ」


 いいわよね、と言う前にルミナが勢い飛びついてきて、言葉が途中で止まる。


「いいの!? やったぁ! じゃあ早速――」

「だめよ。着替えて、ご飯を食べて、お風呂に入って、それから」

「えー……」

「大丈夫。今夜はルミナが眠ってしまうまで、ちゃんと付き合うから」

「絶対? 約束だよ?」

「はいはい。約束」


 二人は指を絡めて約束を交わした。


 その晩、ルミナの尽きることのない話に相槌を打ち続けたリーシャが本当に約束を守れたかどうかは……リーシャ本人ですら知るところではない。

お読みいただき、ありがとうございます。


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