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祖母の語る事実

「マリー、あなたもレオナルドに捕まってしまったのね」


老婦人の、祖母の目には、深い悲しみと憐憫が瞬いていた。

年老いた祖母の細い首に、物々しい首飾りが掛かっているのが嫌でも目につく。ルビー、ダイヤ、ガーネット、エメラルドにアメシスト。精緻なフィリグリーの金細工に散りばめられて、夜空の星のように輝く大粒の輝石が重苦しく存在感を主張する。細い首を窒息させそうなくらい、強烈な圧がある。

リガードネックレスだ。祖父母の世代に流行った、愛の証し。昔の戦争で細工師が減り、ここまで精巧なものを作るには、かなりの大枚を叩かなければならなかったはずだ。それが、無造作に祖母の首に巻きついている。

大きな輝石は美しく瞬いているのに、マリーの目には、重苦しい首輪にしか見えなかった。


マリーの知る大叔母にして祖母のフランチェスカは、家庭教師として、王都に住むさる子爵家に勤めていたということになっている。レクザンスカの家の娘の、よく辿る道だ。そして、一つの家でしばらく勤めた後、その家の子供達が大きくなると、似たような家に、紹介状をもらって渡っていく。それの繰り返しだ。落ち着けることはない。大叔母は、最後に大きな伯爵家の家庭教師を5年ほど勤めた後、消息を絶っている。マリーはそれを、自殺したのだと思っていた。

実際は、トゥールズベリーの家に嫁いでいる。その記録は、レクザンスカの家には残っていない。その意味を、マリーは深く噛み締めていた。


「わたくしはエドワードの後添えになるの」


祖母はそう言った。エドワードは、現在のハイライン公爵の名前だった。


「先の妻であるエヴァさまは、出産の後の肥立が悪くてね。一人息子のアイザックを産んですぐに儚くなられてしまったの」


切ない声色で、祖母が言う。遠くを見るような目つきに、追懐をしているのだと知れる。もしかしたら、その先妻だというエヴァ夫人は知己だったのかも知れない。


「エドワードがなぜわたくしを選んだのか、いまだによくわからないの。何度か顔を合わせたことはあったけれど……。あの人は口の回るたちではないから。ある日突然、お世話になっていたお家から、何も知らされずにここに連れてこられてしまって、それきりよ。きっと、大事にはされているのでしょうけれど、あの人は自分の尺度でしか、人やものを大切にしないから」


マリーはなんと言葉をかけたらいいのかわからず、口を開いて、しかし何も言えずにまた押し黙った。

そんなマリーの様子を見て、祖母は、困ったように微笑んだ。


「急にそんなことを言われても困ってしまうわね、ごめんなさいね。年寄りは、話し相手が欲しくてたまらなくなってしまうものなの。でも、あなたもきっと、レオナルドに急に連れてこられて、びっくりしたのではないかしら」


マリーはフランチェスカの言葉に頷いた。


「そうですね……、急に何もかもが変わってしまったように感じています。わたしは何も変わらないのに、今まで見ていたものが根本から変わってしまったかのようです」


揺れて震えるマリーの言葉に、フランチェスカは暫時、言葉を探してからゆっくりと話し始めた。


「レクザンスカの家のことは、わたくしもこちらにきて、初めて知ったの。わたくしたちの祖先は、よほど強く公爵家の恨みを買ったようね。……わたくしたちには、もうどうしようもないことなのが歯痒いけれど……」


マリーは、祖母の老いて痩せた手を取り、切り裂くような悲痛な声で問うた。


「レオナルドはわたしに、なにをしろと言うのでしょう。ただ、必死にやっていただけです。父も、兄も、父祖の過ちの清算に必死でした。わたしも、その一部をせめて贖おうとしました。それがいけなかったのですか……?」

「贖えない罪はないわ、でも、相手が待ってくれるかどうかは、わたくしたちではどうしようもないの。いまはただ、相手の慈悲に縋ることしかできない……。もし、心が折れそうなら、わたくしを頼ってもらえると嬉しいわ。血のつながった、孫娘なんですもの」


マリーはほとほとと涙をこぼして、フランチェスカの胸元に抱きついた。乾いて痩せた手が、マリーの頭をゆっくりと撫でる。仄かな暖かさだけが、マリーの心に寄り添ってくれる。血の繋がりだけではない、些細な気遣いと優しさが、マリーに染みて、涙として溢れていく。

老婦人に抱きついて、マリーは子供の頃のように、みっともなく泣いた。


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