公爵夫人との邂逅
マリーの身柄は、公爵家のカントリーハウスでの預かりとなった。王都から離れた、公爵家の本拠地だ。まるで宮殿のようだ、とマリーは思ったが、事実その通りだ。公爵ための宮殿。彼らは王家に連なるものだ。
旅の終わりに、マリーはこの地へやってきて、真っ先に公爵本人に面通しされた。
背筋の伸びた矍鑠とした老公爵は、マリーの顔を見るや、無造作に顎を掴んだ。ひょいひょい、と顔を傾けさせられ、体を頭の先からつま先までじっくりと見られる。
「ふん、毛色は悪くないようだ。アレによく似ている」
それだけ言って、公爵はさっさとどこかへ行ってしまった。
本当に、家畜を見る目だったな、とマリーは思い返した。足の速い馬を見定めるときに、父が同じような目で、馬を見ていたことを思い出す。
マリーはそれでも価値の高い家畜だった。丁寧に扱われ、使用人たちの手によって体の隅々まで磨き上げられる。
汚物で汚れた服は、あの後使用人の手によって破棄された。馬車は清掃され、汚れなど一つも見つけられない。
綺麗な服を与えられ、豪華な居室を用意されたが、一つも心は浮き立たなかった。
公爵邸で過ごして数日経つと、つけられた侍女から、「公爵夫人がご挨拶に参りたいと仰っております」と先触れがあった。本来であれば、マリーの方が率先して挨拶に赴かなければいけない相手だ。しかし、気が塞いで部屋から出る気になれず、鬱屈としたまま日々を過ごしていた矢先の先触れだった。
気は重いが、断ることもできない。渋々メイドに迎え入れる準備をするように指示する。
先触れから半刻の後、公爵夫人がマリーの部屋にやってきた。上品な白髪の老婦人だ。穏やかな顔つきだが、どこか諦念が浮かんでいるようにも見えた。老いによってわずかに白濁した瞳は、憐れみと同情で揺らいでいる。背筋の伸びた姿に、マリーはどこか既視感を覚えた。
マリーが立ち上がりゆっくりとこうべを垂れると、公爵夫人は、「そんなに畏まらなくていいわ」と穏やかに言った。
「ご挨拶が遅くなって申し訳ありません。お会いできて光栄です、公爵夫人」
マリーの表情を見て何を思ったのか、夫人はふと、思わずといったように呟いた。
「あの子に似ているのね」
意味がわからず、マリーが押し黙っていると、夫人はゆっくりと口を開いた。
「初めまして、レクザンスカの娘。わたくしはフランチェスカ。フランチェスカ・トゥールズベリーよ」
公爵夫人は一度言葉を切った後に、こう続けた。
「そして、旧姓はレクザンスカ。あなたの母親はわたくしの娘、そして、父親は甥にあたるの」
それを聞いて、マリーはぞっと怖気が走った。本当に、血を煮詰めているのだ。自らの予測が間違っていなかったという事実に、マリーは足元ががくがくと震え出すのを止められなかった。
「あの子には、本当はレクザンスカの家に行ってほしくはなかった。養子に出すことで、公爵家ともレクザンスカとも離れて、幸せになって欲しかった。この血のしがらみから逃れて欲しかったの。なのに、こうなってしまうのだもの。どうしてかしらね」
ほう、と老婦人は心底悲しそうに呟いた。




