表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

政略結婚、断固拒否。

初投稿です。少しでもお楽しみいただけたら幸いです。

ある王国の第2妃に、待望の王子が生まれた。


王の子はそれまで正妃の生んだ姫1人のみ。しかも姫は今年で10歳になり、つまるところ王子は10年ぶりに、ほとんど皆が諦めかけていた時に誕生した世継ぎだった。

王子は生後すぐに立太子し、王家の宝として大切に大切に育てられた。


そうして育った王太子は、見た目は父王譲りの銀の髪に青い目をした天使のような美少年ながら、さながら悪魔のごとき傍若無人っぷりであった。


「殿下、好き嫌いしてはなりませぬぞ」

「うるさい! ではそなたが食べればよかろう!」

「め、めっそうもありません! 殿下のお食事に手を付けるなど……」

「ぼくの命令がきけないのか! ほら、口を開けろ!」

「お、お許しをー!」


今日も王城には教育係の悲鳴が轟いている。



***



今日は王太子の8歳の生誕祭だ。城にぞくぞくと貴族が祝辞を述べに来る。


「殿下、お誕生日誠におめでとうございます。こちら、我が領で採れる最高品質のダイヤモンドをあしらったブローチにございます」

「ふむ、いらぬ。宝石ならばその首かざりがほしい! ぼくの目の色だ!」

「こ、こちらは妻のために特別に作らせたものでして……」

「トクベツならなおのこと、それがよい! 私は王太子だぞ!」


王太子は通常運転だが、田舎の貴族はそれに慣れておらず、ただただ困り果ててしまう。遠くから父王が助け舟を出しにやってきた。


「なんの騒ぎだ」

「父上! 伯爵が、細君が身につけておいでの見事な首飾りを私に献上すると申しておりまして。見ればブルーダイヤにアレキサンドライト、サファイア……希少な宝石を惜しげもなくあしらっているではありませんか。いくらなんでもここまで高価な品は受け取れぬと問答しておりました」

「なるほど。伯爵、王太子のために心を砕いてくれたのだな。大儀である」


口調も姿勢もがらりと変わった王太子に驚きつつも、突然の王の登場に震えて何も言えず、恰幅のよい伯爵は噴き出す汗を拭いながら答える。


「い、いえ陛下。臣下として当然のことでございます」

「父上、受け取れと仰せですか」

「王太子よ、君主たるもの、臣下の真心を無碍(むげ)にするものではない。真心を尽くす者はいずれ大きな成果を挙げるだろう。その時に十分に報いてやればよいのだ」

「なるほど、私が未熟でした。伯爵、そなたの心遣い痛み入るぞ」

「……もったいないお言葉です……」


思わぬ方向に話が進み、伯爵夫妻は涙目だ。しかし、王と王太子の会話に割って入ることも、訂正することもできるわけがない。これでもかと宝石が盛られた首飾りを王太子の侍従が持つトレイに乗せ、すごすごと下がっていった。


伯爵が去った後、国王が王子に短く小言を言った。

「無茶をしおって」

「父上の手を煩わせてしまったのだけは反省しております」

「ふふ、まあいい。少しついてきなさい」


国王は王太子のふわふわの銀髪をひと撫ですると、くるりと体の向きを変えて歩き出した。王太子は素直に後を追う。



案内された先は中庭だった。祝宴会場から窓を隔てて少し離れているので喧騒は遠い。庭の奥にある静かな東屋に、国で最も旧い貴族家門である東の公爵と、そのひとり娘が待っていた。


東の公爵は国王の再従弟かつ親友なので、王太子も何度か顔を合わせたことがあるが、娘を見るのは初めてだ。確か王太子より2つばかり年下だったか。金の巻き毛に赤い目をした人形のような少女だ。公爵の後ろに控えるように佇んでいる。


「王太子、お前も8歳になったからな、婚約をまとめることにした」

「ご紹介致します。娘のローズマリーです。さ、ご挨拶を」


公爵に促されて令嬢が一歩前に出る。そして流れるように礼をとって言った。


「お初にお目にかかります。東の公爵が嫡女、ローズマリーにございます」

「……アレクサンダーだ。よろしく」


王太子も笑顔を張り付けて挨拶を返す。公女も綺麗な笑顔である。


婚約すると正式に聞いたのは双方今が初めてだが、互いの存在は6年前、公女が生まれてすぐから認識していた。身分的にも、派閥的にも、年齢的にも、互いにとって政略結婚の相手に最もふさわしいのがわかっていたからだ。

だから今も若干驚きつつも、「ついにこの日が来たか」という感想を抱くのみで、少なくとも王太子には反抗するつもりはなかった。


「それでは、少し2人で話してみなさい」


――父王と東の公爵に対しては。


子ども2人だけ残された東屋で、向き合った体勢のまま沈黙が流れる。おずおずと静寂を破ったのは公女の方だった。


「殿下は――」

「チビ」


話しかけてこようとした公女に釘を刺すかのように、王太子は冷たい声色で暴言を吐いてやった。


「はい?」

「威厳ある東の公爵の娘にしてはずいぶんと貧相だな」

「ええっと……」

「俺の顔に泥を塗らないようにせいぜい励めよ」


矢継ぎ早に言いたいことをぶつける。


王太子として生まれたのだから、政略結婚するのは当たり前だし受け入れている。

だが、それが個人としての望みではないこと、親愛を求められても困ることは示しておかねばなるまい。さぞ箱入り育ちでプライドの高いだろう公女が、初対面の小僧にここまでコケにされてどのような反応をするのかも見てみたかった。


ひと呼吸おいた後、すっ、と公女が再び完璧な淑女の礼をとる衣擦れの音。


「かしこまりました」


王太子に向けられた表情は柔らかな微笑みのままであった。


思わず王太子は面食らう。いかに教育を受けていても、6歳の少女がここまで涼やかに笑えるものか? そこまでして王太子妃の座が欲しい強欲さ故か。まさか嫌味すらわからぬ愚鈍か。


「ずいぶんと立派な猫を被っているのだな。その仮面の下で一体何を考えているのやら。信用ならん奴だ」


これ以上歩み寄るつもりはない、そう態度で示して王太子は1人パーティー会場へと戻っていった。


これで公女にとって王太子の第一印象は完璧に最悪なはずだ。こんな粗雑な男と添い遂げねばならないのか、と悲嘆に暮れているだろう。王家からの縁談を断るわけにはいかないにしても、きっと公爵に泣きついて交流会の頻度くらいは減らしてもらうだろう。面倒事が減って何よりだ。


そう思っていたのに。



***



「今年の茶葉は良い出来でございますね」

「……」


月日が経ち、それぞれ18歳と16歳となった王太子と公女は今日も王城のサロンで向かい合って座っていた。


王太子は大人になってさすがに臣下に目に見えた嫌がらせをすることはなくなったが、パワハラ気質は健在で、冷酷とか傲慢とかいう陰口を叩かれている。

公女はというと、王太子妃教育に熱心に取り組み、「王国一のレディ」の呼び声高い品行方正な淑女に育った。


そりが合うはずもない2人だが、月に2回、互いの多忙なスケジュールの合間を縫って交流を続けていた。


婚約を維持するだけなら、3カ月に1回も交流すれば十分だ。それなのに公女はわざわざ毎月毎月会いに来て、帰り際には公女の方から次回の約束を取り付けて帰る。


婚約して1年程でさすがにわかった。公女は王太子妃の座にしがみついているわけではない。

単に空気が読めないだけだ。


箱入りに育つとこうなるのか……。王太子は箱入り加減では人のことを言えないが、怒りや不信を通り越して呆れるばかりだった。


本日は今月2回目、通算256回目の交流(デート)中である。にも関わらず、王太子は不機嫌を隠そうともしない。でも公女は臆せず穏やかに話しかける。


「私、いよいよ次の春には王宮入りして、王妃殿下より直々に国母たるあり方をご教示頂けることになりました。まだまだ至らない点があるかとは存じますが、殿下におかれましても、一層のご指導をどうぞよろしくお願い致しますね」

「お前……婚約を破棄するなら今のうちだぞ」


公女があまりにも自然に政略結婚を受け入れているのが面白くなかったから、意地悪くつついてみる。


「まあ。王家と公爵家の10年来の婚約が反故になることなど、そうそうあり得ないと存じますが……」

「相変わらず可愛げのない正論だな。だがお前がよくても俺は気に食わんのだ」

「殿下は私がお嫌いですか?」

「今度は市井の女子供のような愚かなことを聞くものだ。ならば逆に聞くが、お前は俺が好きとでもいうつもりか?」

「はい」

「……は?」

「お慕いしております」


言いながら公女の頬がぽっと染まる。指先を紅い両頬に添えて、少し眉を下げた困ったような顔で目を伏せる。


「む、無理をするな」

初めて見る表情に戸惑ってなかなか悪態が出てこず、王太子はやっとのことで絞り出した。

「お前の言う通り、俺達の感情などこの婚約に何ら障るものではないのだ。白々しい嘘など興冷めなだけだ」


「心からの言葉でございますのに……」

伏し目がちな瞳は僅かに潤んでいるように見える。


(泣かせ……っ!? いや見間違いだ!)


身分とかそういったものは抜きにして、年下の女子を泣かせるのは居心地が悪すぎる。王太子は内心でとても焦って、咳払いで間をつないでから、いかにも傲慢ぶって言葉を継ぐ。


「ろくに贈り物をしたことも愛の言葉を囁いたこともない俺のどこを慕えると言うのだ。臣下から俺の素行とて聞き及んでいるだろう? 身分の低い者へは傍若無人、高位の者へはへつらうと。まあ、俺が高位と認めるとなると、王族や公爵といったところに限られるわけだが」

「殿下はご家族を愛しておいでなのですよね」

「ゴフッ」


飲み込みかけた紅茶が変なところに入った。


「それに、真に忠実な臣下のことは大切になさっているようにお見受けします。殿下が厳しい要求をなさるのは、税で私腹を肥やしている疑いがあったり、謀反を企てている疑いがあったりする貴族に対してだけでいらっしゃいますよね?」

「ゲホッゲホゲホッ」


今度は完全に咽た。酸素不足の青い顔で尋ねる。


「いつ、気づいた……?」

「最初からです」

「なぜわかった……?」

「殿下を見ていたからですわ」


そう、全ては公女の言う通りだった。


残さず食えと皿を押しつけてくる教育係は、気弱なくせに権力に弱く、貴族派の高位貴族に王太子の毒殺を命じられていた。とはいえまだ迷いがあるようだったから、日々自分の食事を一部食べるように命じ、お前の企てはわかっていると示して辞めさせた。


ギラギラした宝石をあちこちにつけた伯爵夫妻は横領の常習犯で、あそこの領民はその日のパンにも困窮していた。際立って豪華な夫人のあの首飾りを買うために、また何人の民が飢えたことか。あの首飾りを糸口に横領の証拠を掴み、伯爵の位を追ったのだ。


元来態度が大きい上、そういった行動の理由をいちいち説明しなかったら、冷酷王太子だの傲慢王子だのといった二つ名がついてきた。


ところが一方、とても恵まれた家族関係が作り上げた本来の彼の性格は、実は真っすぐで甘えん坊である。


父王は教育面では厳しく尊敬の対象だが、普段はとても優しく子煩悩だった。


母上、つまり王妃殿下は幼い自分を正妃の養子とすることで王太子の地位に就けてくれた恩人だ。普通は妾の子など虐めるのが定石だが、王妃と実母である第2妃はもともと主人と侍女の関係で、しかも姉妹のように仲が良かった。いや、過去形ではない。2人は今でも連携して公務に当たり、捻出した余暇で一緒に趣味の刺繍だの詩歌だのに興じている。

だから王太子は、「愛に飢えた王国の後継者」ではなく「お母さんが2人いる末っ子王子様」としてすくすく育った。


姉である王女は、王妃と第2妃の血と教育を確実に継いで、底抜けに気立てが良い。王女が隣国に嫁入りすると決まった時には、王と王太子は寂しさのあまり三日三晩さめざめと泣いて、妃達に呆れられたものだ。

まったく王族らしからぬ温かい家庭だと思う。



家族は懸命に自分を守ってくれたが、それでも大国の王太子である以上暗殺の危険は常にあったし、大人の汚い裏表も否応なしに見てきた。


結果として悟った。この世で真に信用できるのは、自分を理解して愛してくれるのは家族のみ。幼い王太子が身につけた生存戦略であった。


東の公爵のことは父の評価の高さ故に信頼していたが、その娘を初対面で無条件に信じることはできなかった。

そもそも王太子と王政派筆頭家門の婚約など、貴族派にとって目障り極まりないものであり、むやみに親しくしたり隙を見せたりしたら公女まで暗殺の対象になってしまうのだ。


にもかかわらず、公女は呑気な微笑みを浮かべてのこのこと王太子に会いに来る。王太子はその能天気さを憎らしくさえ思っていた。


しかし。


「見ていただけで何がわかる」

「わかっていないことの方がきっと多いでしょう。でも、御身が毒の危険に曝されされていらっしゃるのにお顔色ひとつ変えない殿下のお心の強さですとか、道化を演じてでも国内の歪みを正される高潔さですとか、父君母君や王女殿下に対する深いご信頼ですとかは、私ごときにも十分拝察できましたわ! 殿下のお覚悟を拝見して、私も自らの役目に命を捧げねばと襟を正したものでございます」

「……!」


あまりの見抜かれっぷりに、にっこりと微笑む公女を直視できず、片手で顔を覆って下を向く。

つまりあれだ。

10年間、世間知らずの箱入り娘だと侮っていたこいつは実はすべて見抜いていて、受け入れていることさえ悟られず、黙って隣で微笑んでいたわけだ。


「お前の目には俺はさぞ滑稽に映っていただろうな」

「滑稽など、とんでもございません! 次代の国王陛下がかように優れた方であること、一臣民として期待に胸が震える思いが致します。そして、将来の夫となる方が愛情深くいらっしゃることを喜ばない女はおりません」

「む……」


公女の声音に取り繕ったような響きはなかった。むしろ、王太子妃教育の賜物で普段は抑圧されているトーンが、珍しく上がっているような。


顔を上げて公女の表情を確認すると、まだ少し頬が上気して、瞳はキラキラと輝いて、前のめりで王太子の良いところを嬉々と語っている。


王太子とて、幼い頃から人々の嘘に触れてきたからわかる。

(この瞳は、嘘ではない……!)


嘘ではないということは、つまり。


「そのような御姿を目で追ううちに、私は畏れ多くも殿下をお慕いするようになったのでございます」


この少女は自分に恋をしているということだ。

なんてことだ。

青かった顔に一気に血が集まるのがわかった。



***



衝撃の交流会から2週間後。

今日は257回目の交流会の日である。間もなく公女が王城入りする時刻なので、自室の鏡の前で服装を最終チェックする。


情けないことに前回はどうやって解散にしたのかも覚えていない。


政略結婚を唯々諾々と受け入れているだけのつまらない女だと思っていた婚約者が、実は誰より自分の本質をわかってくれていて、その上で本気で恋心を抱いてくれている。その衝撃たるや18年の人生で初めてのもので、この2週間、何をしていても公女の顔が浮かんでは消えを繰り返していた。


浮かぶ顔は、夢中で自分への気持ちを語った時のあの顔。思えばこの10年ろくに見たこともなかったが、あのキラキラした眼は綺麗だったし、ピンクの頬はすべすべで触ってみたいと思った。


(俺は何を考えている!!)


ゴン、鏡にひとつ頭突きを決めて煩悩を振り払う。

何を臆することがある。付き合いの長い婚約者、何があっても覆らない政略結婚の相手と茶を飲むだけだ。


そう思ってサロンに来た王太子だが、覚悟していたよりも大きな動揺に見舞われた。


(この女、こんなに可愛……違う。こんなにも整った顔立ちだったか?)


今まで欠片も意識したことのなかった婚約者の美貌に目が離せない。品良くアップスタイルにされた金の髪は陽の光を反射して輝いており、眩い美しさの中で顔周りのくるくると巻いた後れ毛が優しげな印象を与えている。ルビーの瞳は、それを縁取るふさふさの睫毛の効果でよりぱっちりと。口紅は控えめな色で抜けるような白い肌に良くなじみ、見るからにぷるぷると瑞々しい。


「どうかされましたか?」

「い、いや、なんでもない。あー、今日の茶菓子はなかなか美味いな」

「! そうでございますね! 私、実はこちらのジャムを乗せて焼きこんだクッキーが好物なのでございます」


王太子は適当に言ったのみだが、これまで普通の世間話だのを王太子から振ったことすらなかったので、公女はそれだけで嬉しそうに破顔した。


考えてみればみるほど健気ではないか。王太子は心臓が絞られるような、喉の奥がむず痒いような、初めての感覚に見舞われた。人目を気にしなければ胸を押さえてうずくまっていただろう。



——認めよう。俺は公女を愛しいと思い始めている。


彼女は自分の本心を見抜き、それを以て本心で自分を好いてくれたのだ。伴侶としてこれ以上の信頼はない。

それに、嬉しいと思ってしまった。可愛いと思ってしまったのだ。難しい理屈は抜きで。


下を向いたまま小さく呟く。


「公女でよかった」

「は、殿下、今なんと仰いましたか? 少々お声が遠く——」

「婚約したのがあなたでよかったと言った」


公女が息を呑むのがわかった。表情を確認したいが、如何せん今は王太子自身が公女に見せられる顔をしていない。


「……身に余る幸せに存じます」


ふわりと花びらが舞うような、いつもよりも甘やかな声で公女が礼を述べた。その言葉が終わった頃にようやく表情筋が言う事を聞き始め、王太子は急いで顔を上げたが、公女はもういつもの微笑みに戻っていた。


(——見逃したか)


自分の言葉は、彼女にどう届いただろう。喜んでくれただろうか。それとも恥ずかしがったか。まさか今さらと呆れただろうか。そんなわけない、あの声色は、何より彼女の人柄はそんなものじゃない。わかっている。それでももっと彼女のいろいろな表情が見たい。


幸いなことに、王太子と公女は謂わば国が保証した押しも押されもせぬ仲だ。それこそ公女の反応なんて関係なく、再来年には公女は王太子のものになる。政略結婚の相手として。


そんなのはまっぴらだ。


俺が初めて惚れた女性なのだ。口さがない貴族どもに、愛なき妃などと呼ばせてたまるものか。稀代の寵妃として歴史に名を刻ませてやろう。


王太子は、いやアレクサンダーは決意した。



***



「愛を伝えるってどうすればいいんだ……?」


王城内の自室、王太子の部屋にしては装飾の少ない調度品に囲まれて、アレクサンダーはひとりうなだれていた。


決意を固めた交流会から早3ヶ月。既に6回の交流を新たに重ねた。

今までの交流会は「何の興味もない、信用ならない女と茶を飲む会」だったわけだが、決意の日からは愛しい恋人との逢瀬である。


「いや、恋人と言っていいものなのか……?」


公女改めローズマリーはアレクサンダーが好き。

アレクサンダーはローズマリーが好き。

2人は将来結婚する約束をして、定期的にデートをしている。


普通の恋愛というものをしたことがないアレクサンダーの知識での話だが、一般にこういった条件を満たしているのは恋人と言っていいと思うし、恋人と思いたい。


実のところアレクサンダーは頑張った。デートのたびにまず髪型と服装をよく似合っていると褒め、反応を可愛いと褒め、話題選びが楽しいと褒めた。会話がふと途切れるたびに、会いに来てくれて嬉しいことを正面から眼を見て伝えた。


交流会がお開きになる時にはもちろん手を取って馬車までエスコートしているし、馬車の中には、感謝の言葉を綴ったメッセージカードに花束、小さな菓子を手配してある。別れ際には頬にキスも忘れない。これらはむしろ自分へのご褒美である。


夜会があれば自分の衣装と揃いで新しいドレスを贈ったし、何もなくとも王太子妃用の宝石をローズマリーに似合うようにリメイクして渡すこともあった。


このように10年間を取り戻すかのように大切にしているつもりなのだが、ローズマリーの態度は一貫して東の公女としての作法に則るのみだ。


「まあ、殿下。私のためにこのような……とても嬉しゅう存じます」

上品にそう答え、淑やかに微笑んで完璧な淑女の礼をとる。


喜んでくれているとは思う。だが、初めて想いを伝えてくれた時ほどの動揺が、初めて心を伝えた時のような甘さが、乗っていない。

届いていない、気がする。


「ローズマリーは、たぶん、俺をまだ信じられないんだ。もし俺が彼女の立場だったら……」


10年間も世間話すら無視していた相手が、急にまめになり甘やかしてくるようになったとしたら、喜びよりも怒りが勝つだろう。

ローズマリーは自分を好いてくれているらしいから、怒りまでは行かなくとも、戸惑いが大きいのは想像に難くない。


「やはり、最も足りないのは言葉か……」


わかっている。ローズマリーの心はプレゼントでは動かないことくらい。10年の月日を埋めるものは花やドレスや宝石ではないことくらい。


わかっている。きっと一番喜んでくれるのは『愛している』のたった一言だということは。


しかし、その一言はアレクサンダーにとってはあまりに重く、いざローズマリーを前にすると、舌にのしかかってどうしてもうまく発音できないのだ。安易に好き嫌いを紡いではいけないという王太子教育のせい、だけではない。


その言葉への返事が淑女の礼であることが、怖い。


10年も彼女を信じなかった自分が、たった6度の逢瀬で信じてくれなどとは虫が良い話だと頭ではわかっていても、生まれて初めてただのアレクサンダーとして贈ったその言葉が、東の公女によって事務的に処理されてしまうのにはきっと耐えられない。


結局アレクサンダーにできるのは、彼女の信用を得られるまで、その自信を持てるまで、行動で示すことだけだ。


「愛を囁くのはその後でよい。なにしろ俺たちは、これからずっと一緒なのだから」



***



その日は264回目の交流会にして7回目の逢瀬の日だった。

アレクサンダーはいつものお茶を啜りながら、緩む頬をティーカップで隠していた。


「殿下、お茶のお代わりはいかがでしょうか」

「ああ、ローズマリー手ずからくれるのか? ありがとう」


ここ数回の交流会中は侍女も下がらせ、サロンの入り口に護衛を置くのみとしている。可愛い婚約者と2人きりになりたいアレクサンダーの心を知ってか知らずか、ローズマリーは文句ひとつなくその状況を受け入れ、細やかにカップ内の水位に気を配ってくれる。ローズマリーが注いでくれたお茶は普段の茶の比ではないほど美味だ。


「ローズマリー、以前ベリーのジャムを使ったクッキーが好きと言っていただろう」

「まあ、覚えていてくださったのですね。とても光栄ですが、少々お恥ずかしいですわ」

「なぜ?」

「だって、かなり庶民的なお菓子でございましょう? 申し上げてから、子供っぽかったかしらと反省していたのです」

「はは、素朴な趣味だっていいじゃないか。俺は甘いものはあまり好まないが、ローズマリーが好きというから例のクッキーだけは食べてみたのだ」

「えっ、殿下お1人で?」

「ああ。うまかったよ」

「それでは、結婚したら毎晩ご一緒に楽しめますわね」

「ぐふっ」


不意打ちの無邪気な一言に、アレクサンダーは思わず咳き込む。


「あ、呆れられましたか……? すみません、実は私、毎晩1枚ずつあれと紅茶を楽しむのが習慣でございまして……お、お忘れください」

「ははは、話せば話すほどそなたは可愛らしいものだな。もっと早くこうしていればよかった。喜んで相伴に預かろう」

「殿下ったら、うふふ」


少しずつ雑談ができるようになってきたことに、アレクサンダーはとても喜んだ。おそらくローズマリーもこの時間を楽しんでくれている。父たちが、国が望んだからではなく、この穏やかな時間を積み重ねるために結婚したい。2人の願いはきっと徐々に重なっている。



しかし次の瞬間、部屋をノックする音に穏やかな空間が侵された。この公式交流会は基本的に邪魔が許されない。それにもかかわらず無遠慮に割って入ってくる者がいるとすれば。


「陛下の御用でしょうか」

「そうだろうな。それも緊急の。仕方ない、入ってくれ」


転がり込んできたのはやはり国王の侍従であった。


「お楽しみのところ大変失礼致します。しかしながら、火急の要件につき、王太子殿下ならびに東の公女様、お揃いで参上されるよう国王陛下のお達しです」

「! わかった。案内を」


アレクサンダーはローズマリーの手をとり、侍従について足早に王の間に向かう。

嫌な予感がする。



***



「2人とも、呼び立ててすまないな」

王の間には、王、王妃、第2妃と東の公爵が揃って待っていた。


「いえ。お待たせして申し訳ありません」

「早速で悪いが話がある。かけてくれるか」

東の公爵の隣の空席にローズマリーを座らせてから、アレクサンダーも王の隣に陣取る。


王がおもむろに切り出した。


「——神の子が現れた」

「!」

「おそらく美と愛の女神の祝福だ。16歳の平民の女だ。よりにもよって、西の公爵領の」


全員息を呑むのがわかった。


この国には極稀に、あえて数字で表すとすれば100年に1人ほど、神から祝福を与えられる人間がいる。

祝福を得た者は、神の力の一端を自由に使用できるという恩恵に預かれる。生命の神の祝福ならどんな病もたちどころに治すし、戦の神の祝福なら尋常ならざる戦果をあげてみせる。

いずれにせよ国に大きな恩恵をもたらすこと違いない、そして何より敵国の手に渡してはならない存在だ。国は彼らを「神の子」と呼んで、王家で保護してきた。


——王族の伴侶として。


「まさか……何故そんな者に……」

「王妃の嘆きは最もであるが、神々がなぜ人間に祝福を与えるのかなど、それこそ人智を超えた問題だ。考えても詮無いこと。それよりも、これからのことを考えねばなるまい。遅くとも来週中には議会に(はか)ることになるからな……」


アレクサンダーがローズマリーを見やると、不安気な顔で俯いていた。東の公爵も青い顔で項垂れている。国王も王妃も第2妃も皆同じだ。ここにいる面々は、アレクサンダーとローズマリーの絶対的な味方なのだから。幼い日からずっと、2人の幸せを願って守り育ててきた人々なのだから。


沈んだ空気の中、国王が重々しく口を開いた。


「この年頃の女子であれば、アレクサンダーの妃に迎えざるを得ん。おそらく今頃は西の公爵が養女にしているだろう」

「っ、父上」

「許せ」


王族に嫁ぐには、いかに神の子といえど平民の身分では不釣り合いが過ぎる。だから、慣例的に出身地の領主が養父となって身分を保障する。必然的に領主は王妃の父となれるので、領主たちは嬉々として賤しい血の者でも家門に迎え入れるのだった。


今回はその領主が西の公爵だった。


西の公爵は、国内で2番目に旧い公爵家である。たしか10代ほど前の王弟が賜った位だったか。半端に豊かな領地を与えられたためか、それともその王弟が単に野心家だったのか。隙あらば王家に返り咲こうとしていたらしく、以来子々孫々、腹の底で王位簒奪(さんだつ)を夢見ている一族だ。だから王家の傍系のくせに貴族派の筆頭を務めており、王政の廃止を求めている。


アレクサンダーが幼いみぎりに何度か暗殺の危機に晒されたのは、だいたい西の公爵の企みによるものだった。短気で大雑把な性格が災いして全てがあえなく失敗に終わったわけだが、有り余る財力を使って尻尾だけは掴ませなかった。


そんな男の手元に、正妃の座を保証される神の子を渡してしまったのは、王家と王政派にとってはこの上ない痛手だった。


「……娘をどう致しますか」

東の公爵が苦虫を噛み潰したような顔で問う。いつも冷静な公爵だが、今回ばかりは悔しさを隠しきれていなかった。


「王家としては、婚約破棄ではなく第2妃におさまってもらいたい。が、無理強いはせぬ。公爵と公女の気持ちを優先してくれ」

「陛下……」


王妃や王太子妃の座は、何の教育も受けていない平民がおさまれるものではない。ローズマリーですら何年も何年も血の滲むような努力を重ねてきた。神の子が正妃となったところで公務が立ち行かなくなるのは確実であり、それを補える能力を持つのは今の国内にはローズマリーただ1人である。


また、もし神の子のみを妃とした場合、彼女との間に世継ぎを設けざるを得ない。すると西の公爵はいずれ王と王太子の首を本気で獲りに来るだろう。王位継承者を幼い自分の孫だけにしてしまえば、実質この国を手に入れたことになるのだから。


また、西の公爵は他の妃が王子を産めばその実家を政治的に潰して廃嫡を狙うだろう。それに対抗できる家門があるとすれば東の公爵のみである。


だから王家は第2妃としてローズマリーを欲する。それがどれだけ彼女の尊厳を傷つけ、彼女の命を危険に晒すか知りながら。


王と東の公爵は、それぞれ痛いほど理解していた。

公爵が父親として怒りに震えながらも、王を支える重臣としてこの提案に頷くつもりであること。

王が自らの無力さに絶望しながらも、長年の友に示せる精一杯の誠実さが「無理強いしない」という曖昧な一言であること。


「ローズマリーは、どうしたい?」


公爵は王の気持ちを汲み取って、娘に意思を尋ねた。

これは、10年間の努力をドブに捨てて売れ残っている格下の貴族に嫁ぐのか、妾に落とされたという烙印と暗殺の危機に耐えながらぽっと出の正妃の尻拭いをして暮らすのか、という問いである。


残酷極まりない問い。それを愛しいローズマリーにぶつけているのは、公爵であり王であり、アレクサンダーである。


(何が稀代の寵妃にしてやるだ。情けない······!)


本当のアレクサンダーは、ローズマリーと手に手を取って駆け落ちしたい。または、まだ会ったこともない神の子とやらをこの手で始末してきたっていい。


でも、アレクサンダーの中の王太子がそれを許さない。ローズマリーのことは何より大切だが、王も国も民もアレクサンダーにとっては慈しむべき対象だった。見捨てて逃げることはできない。それが彼の矜持だった。


瞬間、ローズマリーと目が合った。いつもよりルビーの瞳が揺れている。そんな目をさせた自分が本当に不甲斐ない。


皆が見守る中、ローズマリーはアレクサンダーだけを見て言った。


「殿下は、それでも私を望んでくださいますか」


きっと自分の瞳も揺れているだろう。でも、この問いにだけは真っ直ぐ答えなければ。アレクサンダーも、ローズマリーだけを見て応えた。


「当たり前だ。俺はローズマリーだけを心から望む」


ふ、とローズマリーの口元が緩む。彼女はこの場の誰より立場の危うい当事者なのに、誰よりも優雅な笑みを浮かべ、凛と立ち上がって完璧な淑女の礼をとった。


「かしこまりました」


いつぞやの顔合わせでも返された礼。笑顔の下で何を考えているのか読み取れなかった言葉。


今ならわかる。


あの日から何も変わっていない。ローズマリーはあの日からずっと、気高くアレクサンダーの隣に立つことを決めていたのだ。意地の悪い八つ当たりをぶつけた幼い日のアレクサンダーも、未だたった一言の愛すら渡せていない臆病者のアレクサンダーも、すべて受け入れて。


「本当にいいのか、ローズマリー嬢」

「はい、陛下。私は王太子妃に、殿下の妻になるべく生きて参りました。どうかこれからも殿下をお支えするお許しを」

「私も、王政派筆頭として、父親として、お願い申し上げます」

「······恩に着る」


ローズマリーは、王の言葉が終わるのを待ってゆっくりと礼を解く。顔を上げたローズマリーとアレクサンダーの視線がぶつかった。


一瞬の目配せの中に溢れるルビーの輝き。もう一切揺れないそれは、彼女の中に後悔や迷いがないことを証明していた。


(ありがとう、ローズマリー)


君の覚悟も矜持も、確かに受け取った。



***



議会は明暗別れた空気で幕を開けた。


王と王太子が座る中央の壇上を挟んで左、貴族派は皆浮足立っているし、右の王政派は沈みきっている。王政派の最前列、東の公爵の隣に、今日ばかりはローズマリーも同席を許され、迷いのない眼差しで前を見据えて座っていた。


「まずは神の子のお披露目を」


議長の掛け声に、西の公爵がでっぷり太った体をるんるんと揺らしながら歩み出る。いつも王家や東の公爵に対しては不遜かつ攻撃的なくせに、今日ばかりは気持ち悪いほどの笑顔だ。


「ご紹介致します。美と愛の女神の祝福を受けし我が娘でございます」

「はじめまして。アンナです。よろしくお願いします」


神の子とやらが挨拶をする。何とも不格好な礼だ。着ているドレスは公爵家の格に相応しい一級品なのに、力んだ手で裾を摘みすぎて足首が露わになってしまっているし、体幹もふらふらしている。台詞も発音も、練習はしたのだろうが下町訛りがかなり強い。


だが、恐らく皆の第一印象は、「魅力的な女性だ」に落ち着くだろう。礼儀作法などまるで問題にならないほど、美しい顔立ちに均整のとれた身体つきをしている。やや赤みがかった栗色の髪にこげ茶の瞳は平民らしいありふれた物だが、その地味な色味さえも色気を際立たせる。さすが美と愛の女神が祝福を与え給うたものだ、輝くばかりの美しさとはこのことだ、と感嘆の声が何処からともなく聞こえてきた。


「発見してすぐに保護のため私の養子に迎えました。しかし一介の公爵の身では保護にも至らぬ点があります故、一刻も早く王家にお預けしたく」


恭しく、かつ白々しく西の公爵が述べた。

早く王太子妃に立てろ、さもなくばこちらは神の力を好きに使ってやるぞ。そういう脅しだ。下卑た笑みを浮かべながら西の公爵が続ける。


「ささ、まずは殿下、娘をお近くにお呼び寄せくださいませ。殿下は長年の子守に辟易なさっておいででしょうから、きっとお悦び頂けると思いますよ」

「良い。俺がそちらへ行こう」


ローズマリーに対してもアレクサンダーに対しても不敬極まりない発言だが、この場で主導権を握るのは公爵である。神の子とはそれだけの効力を持つ切り札なのだ。


それでもローズマリーすらまだ座ったことがない王族席に神の子を呼ぶのだけは絶対に嫌だったアレクサンダーは、自らが壇上から下りてアンナの前に立った。


間近で見ると、なるほど確かに美しい。だが心に響く美しさではない。輝くばかりの美しさなのは認めるが、ローズマリーの瞳はもっとキラキラしている。


「······」

特にかけるべき言葉を思いつかずアレクサンダーが黙りこくっていると、西の公爵がアンナをつついた。


「さあアンナ、やりなさい。念入りにな」

「はぁい」

「!? 何を——」


アレクサンダーが言い終わるより先に、アンナはおもむろに目を閉じ、祈るように両手を組んだ。ぶわ、と光の鱗粉が舞う。


鱗粉は瞬く間に議事堂全体を満たした。


「う、美しい······」

「このような完璧な女性がこの世にいたとは」

「く、悔しいが我らが王国一のレディもここまでではない」

「派閥は違うが、彼女を王妃に据えるならばこの国は安泰ではないか?」

「そうだ、彼女こそ国母に相応しい」


途端に、貴族派のみならず王政派からもアンナを賞賛する声が挙がりだした。


「皆、惑わされるな! 静粛に!」

「しかし東の公爵閣下、彼女ほどの女性を拒む理由がございますでしょうか?」

「ぐ、いや、しかし······っ」


東の公爵さえもアンナを否定する言葉は出せず言い淀む。名君と名高い国王すら、神の子の心を得るためならば自らの王冠すら捧げてもいいという衝動を抑えるので精いっぱいだった。


これが美と愛の女神の力。人々を魅了し、自らに跪かせるまでのすさまじい引力。人間如きでは決して抗えない強い力だ。


西の公爵が満足そうに頷いて言った。


「ようし、さすがは儂の娘だ。この能力ならばこの国どころか世界に君臨することができよう」

「私、世界征服なんかに興味ないわ」

「何を寝ぼけたことを言っておる! その手に世界を握れるのだぞ、神の力とはそういう······」

「義父さん、うるさいです」


西の公爵周りは密度が低かった鱗粉が一斉に集束し、繭状になって公爵を包む。一際光ってから繭は解け、中から出てきた公爵はすっかり覇気をなくしていた。


「アンナ、私が悪かった。お前の力はお前の幸せのためだけに使うべきだ。さあ、望みを言いなさい」

「わかってくれて嬉しいわ。それなら、早く私を王子様のお嫁さんにしてくださいな」


アンナは無邪気に語りだした。


「下町で働いていた時、遠くから王子様見たことがあるの。あんまりかっこよくてびっくりしちゃった。あの人だあれって八百屋のおじさんに聞いたら、王子様だって教えてくれたわ。おじさん言ってたわ。アンナはとっても可愛いから王子様とお似合いだって。王子様もアンナに会ったらひと目で気に入って結婚を申し込むだろうって。私、それ、すごくいいなって思ったの。毎日あんなに素敵な男の人から愛されて、あくせく働かなくても綺麗なドレスを着ておいしいものを食べられるんでしょう?」


見た目よりも幼い口調で、子供じみた願いを語り続けるアンナ。国王もいる国の中枢にあまりにも似つかわしくない光景だが、止める者はいない。アンナの声はどんな名楽器の音色よりも甘美に議事堂に響き渡る。


「でも、王子様は私に気づかず帰っちゃった。だから私、女神様にお願いしたの。私を王子様にふさわしいお姫様にしてくださいって。そしたら不思議な力をもらって、本当に公爵家のお姫様になれたの。女神様のお導きだもの、きっと私達は運命の恋人同士なんだわ。王子様、私、ここまで来ましたよ。お嫁さんにしてくれますよね?」


無邪気に、だからこそ不躾にアレクサンダーに絡みつく視線。呼応するように光の鱗粉が舞い上がる。


「お聞きになりましたか、陛下、殿下! 神の子をお受け入れくださいますな?」


アンナの言葉を受け、西の公爵が壇上の国王をせっついた。一呼吸の沈黙の後、国王が力なく応えた。


「……王太子アレクサンダーと神の子の婚約をみとめよう」


わああっ

貴族派から歓声が上がる。王政派からの落胆は、聞こえない。


「アンナ、よかったな! さあ、他に望みは?」

「いいえ、私は贅沢は言わないわ。王子様と結ばれるのは美しく心優しい娘って決まってるもの」

「なんと!心根まで美しいとは……あまりに健気で泣けてくるわ。さぞ民にも愛されるだろう」

「ええ、私、きっと皆に愛されるお妃様になってみせわ」


アンナはご満悦の表情で、祈るように組んだ両手を右頬に当ててうっとりと首を傾ける。随分と夢見がちな少女だ。アンナ自身は本気で自分なら良き王太子妃、王妃になれると信じている。

しかし、現実はそこまで甘くない。神の力のみに頼った統治を行えば、それを失った時に待っているのは国家の崩壊だ。アンナの魅力に侵された国王にも、そう判断するだけの理性は残っていた。


「公務に関しては、神の子ひとりですべてこなすのは難しいであろうから、考えがある」

「考えって?」

「東の公爵令嬢、ローズマリー嬢が第2妃として王太子をともに支えてくれる」


「えっ、そんなの嫌!!!!」

やはりそう来たかと西の公爵が舌打ちをするより早く、アンナが叫んだ。


「だって私がお姫様でしょ? どんな絵本だって、貧しいけれど美しく心優しい娘が、王子様に見初められて運命の結婚をするのよ? 最初から王子様に妾がいるなんてありえない!」

「! そうだな、アンナ、我が娘よ。お前の純情を踏みにじる者などここにはおらんよ。ねえ陛下?」

「む、むぅ……。しかし…… 」

「陛下、ならば東の公女を王太子妃付きの筆頭侍女として迎えるのはいかがですか」


もはや国王も西の公爵も敵対する派閥筆頭同士ではなく、等しくアンナの下僕である。この議事堂の中では、アンナ以外の人間は等しく無価値であり、ローズマリーなどという有象無象の尊厳を考える者などいなかった。



「っふざけるな! ローズマリーを貴様らの駒として使うなど許さぬ!」



ただ1人、アレクサンダーを除いては。


「えっ······!?」

女神の力が効いていないのかとアンナは焦るが、そうではない。アレクサンダーとて人間だ。神の力を至近距離で浴びて何でもないはずはない。


でも、耐えた。視線の先にローズマリーを捉えたから。確かに目の前の女性は神々しいまでに美しく、今すぐ無条件に跪いてしまいたくなる。でも、数歩先に座っている婚約者は、それよりもっと輝いて見えた。流されそうになる意識の中、その光を頼りに辛うじて踏み留まった。


「新たな婚約を結ぶことについては、父上のご意向とあらば否やはございません。しかしそれは国のため、王太子として呑むまでです。1人の男アレクサンダーとして欲するのはローズマリーのみ。彼女は私の隣に、妃として立ってもらいます」


アレクサンダーは高らかに宣言した。本当は、もはや反抗など無駄なのはわかっている。例えアレクサンダーだけ抗い続けても、神の力を使われたら世界中がアンナの味方だ。世界の流れを変えられるほど、ただの王太子は強くない。神の力の前には王位など無力だ。


でも、1度だけでも、1人だけでも噛みつかなければ気が済まなかった。自分の心を、父の心を、皆の心を捻じ曲げんとする力に大人しく膝を折りたくなかった。

唯々諾々と政略結婚を受け入れるのは嫌だった。


ローズマリーを守りたかった。



「王太子殿下といえど聞き捨てなりません!」

「義父さん、私が直接話します。そうしたらきっとわかってもらえるわ」

憤る西の公爵を制してアンナが前に出る。


「王子様、私のこと気に入りませんか? そんなわけないですよね。無駄な抵抗はやめて、素直に受け入れて······」


アンナがするりと擦り寄る。滑り込むようにアレクサンダーの胸板に頬を寄せる。密着した身体の柔らかさが伝わる。甘い香りとともに光の鱗粉が濃くなる。


「ぐ······」


あたまがくらくらする。おれはこのおんなを、あい、して……ちがう、このことばを、おくる、べきは……ああ、はきけが……。



「そこまでになさいませ」



もやついた空気を切り裂くような、凛とした声が響いた。


「ローズマリー……」


言う事を聞かない意識の中、ローズマリーを再び見つけたアレクサンダーは、救いを求めて彼女の名を呼んだ。


「殿下、どうかここは私にお任せください」

ローズマリーはいつもの完璧な礼をして、静々と中央に歩を進める。


待ってくれ、こんな危険な場所に君を送り出すわけにはいかない。俺は君の覚悟に甘えるばかりで、本当の気持ちすら伝えられていないのに。


ローズマリーを止めたいのに、神の力に逆らうことの負荷か、酷い船酔いのように吐き気が止まらない。ついに地面に片膝をついてうずくまるアレクサンダーの数歩先で、ローズマリーはアンナに対峙した。


「お二人はまだ正式な婚約式も交わしておられない間柄。殿下は王太子殿下であらせられ、あなたは一介の公爵令嬢です。お許しなく玉体に触れるのは不敬です」

「えっ、何? 誰?」


美と愛の女神の力の前には、性別も年齢も関係ない。ローズマリーだってとっくにアンナに心酔しているはずだ。それなのに否定するようなことを言われ、アンナは困惑した。


「東の公爵が嫡女、ローズマリーと申します。あなたが触れておられる王太子殿下の婚約者でもあります。どうぞお見知りおきを」


王家に次ぐ序列である東の公爵家の者であり、この国の女性としては2人の妃と両公爵夫人に次いで5番目に高い身分であり、現状では唯一正式にアレクサンダーに並び立てる女としての、誇りを持った一言だった。


「……ふうん。でも残念、王子様は私を見つけちゃったから、あなたは諦めてね。ほら、こうしたらどう?」


アンナはそう言ってすぐにまた短く祈りを捧げる。ローズマリーの周囲の鱗粉がさらに濃く、(もや)の繭となって襲い掛かる。

「これでさすがに——」


瞬間、ローズマリーを隠していた(もや)が霧散した。ローズマリーは変わらずアンナを真っ直ぐに見据えていた。一切の曇りのない2つのルビーの輝きが、(もや)を切り裂いてアンナを照らす


「やはり皆様のご様子はこの鱗粉のせいなのですね。女神より賜りし愛の力を、罪なき人々の心を捻じ曲げるために使うとは何事です。恥をお知りなさい!」


この女、やっぱり効いてない……!

アンナは焦った。

女神の天啓を得て以来、アンナが望むことはこの力が何でも叶えてくれた。なのにここ一番という今、王太子とローズマリー、2人も歯向かう者が現れたのだ。


しかもアンナでも直感的にわかった。このローズマリーとかいう女は手強い恋敵だ。


「あのね、私は女神さまのお墨付きをもらったのよ? 王子様にふさわしいのは私だって、王様も言ってたわ」

「確かに神の力を持つあなたは殿下の妃になるでしょう。それでも私も妃になります。殿下をお支えする者同士、私にはあなたの行き過ぎた行動を諫める義務があります」

「待って、あなたそれで納得してるの? 本当に愛してるっていうなら独り占めしたいものでしょう」


信じられないと目をむくアンナに、ローズマリーは事も無げに言う。

「もとより王太子殿下は妃1人のものではありません。殿下には守るべき存在が他にいくらでもあるのですから。王太子妃になると決めた時から覚悟はしております」

「そう思ってるなら、あなたは妃じゃなくてもいいじゃない。側近としてでも王子様の助けになることはできるでしょう」

「いいえ、私は妃にならねばなりません。殿下の隣に立ち、殿下ご自身をお守りするのです」

「あんたを妾にするって言ってた男よ?」

「見せかけの序列など何番目でも構いません」

「今に王子様は私だけを愛するようになるわ」

「あり得ません。殿下は私に愛をくださいます」

「なぜそう言い切れるの!」

「殿下がそう仰ったからです。今も私を望んでくださっているからです」


ローズマリーは、澄み渡ったルビーの瞳でまっすぐにアンナを正面見据え、胸を張り、静かにしかしよく通る声で答えていく。

惚けていた周囲の貴族たちにもその声は届いた。ゆっくりと、確実に、鱗粉の(もや)が晴れていく。


ローズマリーの気高さにアンナは恐怖すら覚えた。自然と数歩後退る。

ローズマリーは手を緩めない。


「殿下は私を愛してくださっています。私も殿下を愛しています。だから、殿下のお言葉を信じます」

「そんなのあなたの思い込みよ! だって、女神様言ってたもの。誰もが私を愛するようになるって。だから私、この国で一番愛される女の人に、お姫様になろうと……」

「それはとても王太子妃になろうとする方のお言葉とは思えません。王太子妃たるもの、国母たるもの、本来愛は与えられるものではありません。与えるものです。畏れ多くも殿下は私にも愛を注いでくださいました。その太陽のごときお心に報いるために、頂いた愛を何倍にも、何百倍にもして殿下をお支えし民を守ることが、王太子妃の役目です。それがわからないあなたに、黙って殿下の隣を譲ることはできません!」

「なっ……」



「ローズマリー!」


ふらふらと後退っていたアンナがついに貴族派席にぶつかって膝から崩れ落ち、ローズマリーが言い切ったと同時に、アレクサンダーは彼女を強く抱きしめた。


いつの間にか部屋全体を覆っていた鱗粉はかなり薄くなっている。正気とは言えなかった国王も、公爵も、貴族たちにも、もうアンナだけを見ている愚か者はいなかった。


「で、殿下?」

「ありがとう、ローズマリー、ありがとう。肝心な時に前に立たせて、守れなくてごめん」

「いいえ、殿下。私は殿下の陰で守っていただくために在るわけではございません。私こそ貴方様を守る存在でありたいのです」


アレクサンダーの腕にすっぽり収まるローズマリーの肩はとても細くて、手は少し震えていた。いかに気高く気丈に振舞っていても、若干16歳の少女が一人で神の力と相対するには、どれほどの勇気が必要だっただろう。


「すまない、……ありがとう」

「はい」

「俺の気持ち、伝わっていたんだな」

「はい」


そっと体を離して互いに顔を見合わせる。


「愛しているよ」

「存じておりましたわ」

「いつから?」

「ずっとです」

「どうしてわかった?」

「私が殿下を見ていたからですわ。殿下を愛しているからですわ」



いかに王太子とその正式な婚約者とはいえ、およそ議会の中央で繰り広げるべき会話ではない。でも、苦言を呈するものはいなかった。王も東の公爵も魅入っていた。ローズマリーの瞳に。溢れんばかりの幸せの輝きに。


「ねえ、なんで、なんなのよ。こっちを見てよ、王子様!」

「! 殿下!」


へたりこんだままアンナが叫ぶ。手を重ねて女神に祈りを捧げる。それを見たローズマリーは咄嗟にアレクサンダーの前に出る。


「こんなはずないですよね、女神さま、あなたの祝福を受けた自分より愛される女がいるなんて、そんなはず――」



その時、光が満ちた。

ギラギラの鱗粉ではない。全てを等しく照らす満月のような、静かで荘厳な光だった。


アンナは自らの体を照らす月光に慄く。


「何、これ……。今までこんなの、見たことない……」


アンナの鱗粉は、月の光に飲み込まれてついに消え去ってしまった。

それとともに、人々の思考を支配していた偏愛が消え、皆久方ぶりの自分を取り戻し、議会中が安堵と驚きにざわめきだす。


そして、誰からともなく、気づき始める。


「この光、まるで母の腕に抱かれているかのようだ……」

「いや、最愛のわが子を抱えているような気分ではないか?」

「このような気持ちになるのはいつぶりか……」

「この光の正体は、……王国一のレディ?」

「まさか、神の祝福を……?」


アンナの祈りのような強制力はない。でも、体の内から滲み出る、郷愁のような愛おしさ。折しも美と愛の女神の力に触れたばかりだからこそ、皆すぐに理解した。これも美と愛の女神の力だ。



東の公女ローズマリー、王国一のレディが、神の祝福を得た。



「――君が、選ばれたんだな」

「そのようです」

「神の子になったんだな」

「それならば、——殿下のお隣を、誰にも渡さずにすみますか」


震える声でローズマリーが問うた。同時に瞳から大粒の涙が溢れる。一対のルビーが、頼りなく潤んで尚一層の光を放つ。頬を伝い地に落ち行く雫たちすら、まるで月の欠片だ。


アレクサンダーはこれを知っている。慕っていると告げてくれた時の、あの煌めき。

王も公爵も、貴族派の面々もこれに救われたことがある。虚飾の鱗粉を浄化した、皆に等しく降り注ぐ光。


元を辿れば同じもの。ローズマリーの愛だった。


それはきっと、ずっと前から彼女に与えられていた女神の寿ぎ。あまりに柔らかで、しなやかで、ローズマリー自身も、愛を向けられたアレクサンダーも気づいていなかった。


「当然だ。——すまない、俺が無力なばかりに恐ろしい思いをさせてしまった。なのに君は諦めず、俺には埋められなかった溝を飛び越えてみせてくれたんだな」

「殿下は無力などではございません。私に、かの方に立ち向かう力を下さいました。殿下から頂いた力で殿下のお力になりますこと、それこそが王太子妃の役目、私の望みでございます」

「っ、ありがとう。ローズマリー」


アレクサンダーは、一旦言葉を区切って周囲を険しく見渡す。

無力な自分は一度この手を放しそうになってしまったが、彼女は自ら力を得て食らいついてきてくれたのだ。ここから先は、アレクサンダーの仕事だ。ローズマリーを蔑ろにすることなど、ローズマリー以外の女を妃に迎えることなど、もう絶対に認めない。


「私がアンナ譲を妃に迎えることはない」

「いやっ、しかし、アンナとのご婚約について陛下の勅旨がございましょう!」


西の公爵が噛み付くが、当のアンナは手を祈りの形に組んだままぶつぶつと何かを呟いており、しかし光のかけらも生じず、俯いてへたり込んでいた。神の祝福を真に与えられたのがどちらであるかは、誰の目にも明らかであった。


「西の公爵、そなたの義娘はもはや神の子ではない。私の正妃に迎えるには能わぬ」

「約束が違います! これまで王室をお支えした私に免じてアンナを妃に——」

「黙れ、見苦しいぞ。そなたは神の力を濫用して王位を脅かした反逆者である」

「へ、陛下! 反逆などと滅相もない! 神の力があれほどのものとは私とて思わなかったのです。アンナも知らずに使ったのみで」

「王族貴族が揃う場で、事前の許可なく神の力を発動することそのものが反逆に等しい暴挙だ。それに、神の子は一度のみならず王太子個人を狙ったな? 力を知らなかったなどという言い訳は通らぬ。——連れて行け」

「くっ、離せ、この······! おのれ、この儂にこの仕打ち、許しませぬぞ! 王国に呪いあれ!」


呪詛を吐きながらがなり立てる西の公爵と、呆然とするアンナが、揃って衛兵に引き立たれていった。



静かになった議事堂に、アレクサンダーが再び問いかけた。

「——神の子ローズマリーを王太子妃に迎える。他に、異存のある者は?」

1拍置いて、言葉の代わりに拍手が返ってきた。最初は疎らだった拍手も、次第に轟音となり、王政派も貴族派も揃ってアレクサンダーとローズマリーを祝福した。



アレクサンダーはローズマリーに向き直って言った。

「愛している、ローズマリー。これからも私の隣を歩んでくれるか。ただ1人の伴侶として」



「かしこまりました」


ローズマリーは幸せの微笑みを浮かべ、流れる所作で礼をした。


ローズマリーの瞳がよりいっそうの輝きを放つ。そのあまりの美しさに皆一様に息を呑み、いつしか拍手も忘れ、そこここに滲む慈愛を静かに噛み締めた。


向き合う2人は、王太子と東の公女である。未来の王と神の子である。そして何より、アレクサンダーとローズマリーだ。


2人は立場も役割もひっくるめて互いを愛し、互いの傍にいる道を選び取った。

きっと未来の歴史家は、ローズマリーをこう呼ぶだろう。


国王と女神にこよなく愛された、稀代の寵妃と。



***



むかしむかしあるところに、お姫さまがいました。

ある日、お姫さまは王子さまに出会いました。

けれど王子さまはさびしそうな眼をして、近よるなと言いました。

お姫さまはその眼が気になってしまいました。

遠くから王子さまを見つめるうち、お姫さまは王子さまのやさしさに気づきました。

お姫さまはすっかり王子さまを好きになりました。

王子さまと仲良くなりたいな。お姫さまはお空に向かって祈りました。


その祈りをお空の上で女神さまが聞いていました。

真剣な祈りは聞いていて心地よいものです。

女神さまは、お姫さまをほんの少しだけ助けてあげることにしました。

ひかえめすぎるお姫さまが、少しだけ大胆になれるように。

女神さまにこっそり背中を押されたお姫さまは、王子さまに寄り添いつづけ、いつしかお姫さまの真心は、王子さまの心を溶かしました。

ふたりを困難がおそった時も、お姫さまは王子さまの手を決して放しませんでした。

たしかな愛がそこにはありました。


お姫さまの愛の美しさに、女神さまはいたく感激し、お姫さまに力をかしてあげました。

かくしてふたりは困難をしりぞけ、さらにつよく手を繋ぎなおしたのでした。


よく晴れた春の日、ふたりはみんなに祝福されて結ばれました。

そして、末永く幸せに暮らしましたとさ。


めでたし、めでたし。

お読みいただきありがとうございました。

ご評価やブックマークを頂戴できますと執筆の励みになります。

今後またどこかでお目にかかれますことを祈って。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ