圧倒的な差
(こいつ…隙がねぇ…でけぇ壁だ)
シェンはユドラを見るとそう思った。
目の前の男は明らかに格上とわかる。
一瞬でも油断すれば確実に殺されるだろう。
(それにしてもこの男……どこかで見たような気がするんだけどなぁ……)
「余所見をするとは余裕だな」
「いやー悪い悪い!ちょっと昔を思い出していたぜ!」
シェンは軽口を叩きながらも警戒を怠らない。
相手が何をしてくるか分からない以上慎重にならざるを得ないのだ。
「考えても仕方ないか…」
シェンは動き出すとユドラに向かって突進していく。それに対しユドラは冷静に対処する。
「遅い!」
シェンの攻撃をひらりとかわすと裏拳で反撃に出る。シェンはそれを屈んで避けると同時に蹴りを繰り出す。ユドラはその攻撃を受け流すと今度は殴りかかる。
「おっと!危ねぇ!」
「ちぃっ!」
シェンは咄嵯にしゃがむことで難を逃れた。その後も互角の攻防を繰り広げる2人。しばらく攻防を繰り広げていたが次第にシェンのスタミナ切れにより劣勢になっていく。それを見逃さずにユドラは畳み掛けていった。
「どうした?もう終わりなのか?」
「はぁ……はぁ……まだまだこれからだろ……」
シェンは荒い呼吸を整えながらも戦う姿勢を見せる。
「ふん。諦めの悪い奴だ」
「諦めの良し悪しじゃねぇんだよ……これが俺の矜持だ!」
シェンは拳に力を込めて思いっきり突き出した。それに対してユドラは防御体勢に入る。両者の拳がぶつかり合うと凄まじい衝撃波が発生した。そしてシェンの腕が折れた。それによってバランスを崩し倒れ込んでしまう。
「ぐうっ……」
「所詮この程度か……期待外れもいいところだ」
ユドラは失望したような顔で見下ろしている。
シェンは折れた右腕をだらんと下げたまま立ち上がろうとする。しかし痛みのせいでうまくいかない。それでも必死に足掻こうとする姿を見てため息をつく。
「くだらんな……その腕では何もできまい。さっさと諦めればいいものを……」
「うるせぇ……黙ってろ」
シェンは立ち上がろうとするが思うように動かず転んでしまう。
「往生際が悪いぞ」
ユドラはそう言って近づいてくると首を掴んで持ち上げた。
「ぐうぅっ……」
シェンは苦しむ様子を見せる。
「使いたくなかったんだけどな」
《遁甲全開放》
【天獣形態】
突如シェンから光があふれ出す。
そして一瞬にして姿を変化させた。
全身が金色の鱗に覆われ翼が生え尻尾が伸び爪が鋭くなり牙が伸びていた。その姿はまるで竜人のようであった。
「ほう…まだそのような力を持っていたのか」
「時間がないんでねぇ」
「出来るものならな」
ユドラは不敵な笑みを浮かべて答えた。
「言われなくても!」
《遁甲朱雀開放》
【天炎の咆哮】
シェンは大きく息を吸い込むと火炎を吐き出した。ユドラはそれを真正面から受けると身体中から蒸気が噴き出した。
「無駄だと言っているだろう」
ユドラは平然とした顔でこちらを見据えている。
「そいつはどうかな?」
シェンがそう呟くと今度は雷を纏った状態で殴りつけた。だがまたもや効かずに弾かれてしまった。
やはり通用しないようだ。
「無駄だと何度言えば分かるんだ」
ユドラは呆れたような表情をするとゆっくりと歩き始める。シェンは焦りを感じ始めると一気に攻め立てる。しかし全て防がれてしまいダメージを与えられない。
「くそっ!」
シェンは苛立ちを隠せずに叫ぶ。
「どうした?もう終わりか?」
「いやまだだ!」
シェンは両手に炎と雷を纏わせると左右交互に殴りかかる。
《遁甲青龍開放》
【天竜の奔流戟】
更に水の槍を作り出して連続で突く。
「いい加減に諦めろ!」
ユドラはシェンの腕を掴むと引き寄せ腹パンをお見舞いする。
「ぐあっ……」
シェンは苦悶の声を上げるとそのまま倒れ込んだ。
「これで終わりか……拍子抜けだな……」
ユドラはつまらなさそうにつぶやく。
「まだ……終わってねぇぞ……」
シェンは息も絶え絶えになりながらも立ち上がった。
「しぶとい奴め……」
ユドラは舌打ちをして睨みつける。シェンはゆっくりと近づいていくと右腕を高く上げ振り下ろした。
「遅い!」
ユドラは素早く身を翻すとカウンターを決める。シェンはその勢いを利用して回転しながら蹴りを繰り出す。ユドラはそれを片手で受け止める。すると足から炎が出てきた。
「ちっ!小賢しい真似を!」
「まだまだ行くぜ!」
今度は左手をかざすと風の刃を生み出した。
《遁甲白虎開放》
【天魔の裂空爪】
それを使って切り裂こうとするも簡単に避けられてしまう。
「無駄だと言っているのがわからないのか?」
ユドラは怒りの形相を浮かべると凄まじい速さで突っ込んできた。シェンは咄嵯に回避行動を取るも間に合わず直撃を受ける。
「がはぁっ……」
シェンは盛大に吐血して倒れ込む。
「さて……そろそろ死んでもらうか……」
ユドラは拳を振り上げトドメを刺そうとする。その時だった。
「アベルは討たれたか…興が覚めた。貴様にもう用はない」
「まて!」
シェンは立ち去ろうとするユドラの足を掴んだ。それを振り払おうとするも一向に離れない。それどころかどんどん締め付けていく。
「無駄だということがわからぬか…」
シェンの腕を斬り落としその場を後にしたユドラであった。
圧倒的な力の差を見せつけられた2人は悔しさと敗北感に打ちひしがれていた。
「くそ……勝てなかった……」
シェンは歯を食いしばって涙を流す。
「泣かないでください。貴方はよく戦いました」
クラウスは優しく声を掛けて励ますように言った。
その言葉を聞いてシェンは頷くのであった。
2人の敗北がさらなる高みへ上がっていくとかんじた。




