一二ノ訓
一度緩まった空気が、再び張り詰めたものに変わった。
……この秒単位でスケジュールが詰まっている人たちを集めたのだ…まさか、これだけで終わりにするなんて勿体ないことする訳がない。
「預かった領民の税で我が領土の道路の整備に投資することが決定しております。そして、もう1つ。“学園”の設立にも」
「学園…ですか?王都にあるような?」
「あれは学園とは言えません。基本的に貴族の子息子女を教育する為の施設ですもの」
そう……私は、学園を作りたいのだ!それも貴族平民でも通えるような平等そんな学校を。そして、その目的は……
私が考え込んでいると、一人が手を挙げた。
それはこの商業ギルドの副ギルド長だった。彼はこう告げるのだった。
私の前世で言うところの教育大学のようなものをエルダー公爵領の領内に設立し、領民たちにはそこで勉学や魔法について学んで欲しいというのである。
そして、そこでの成績優秀者には魔法学園に特待生として推薦する制度も作りたいと考えている。
その話を聞いた商業ギルドの面々は、皆一様に驚いた顔をした。しかし、それはすぐに真剣な眼差しへと変わるのだった。
……これはかなり乗り気になってくれたようだわ?私は内心ニヤリと笑うのであった。
「なるほど……確かにそれは素晴らしい案ですね」
「ええ、そうでしょう?」
「しかし、そうなると財政面が厳しくなるのでは?それに、その学園とやらは一体いくらほどかかるのですか?」
と質問されたので私はこう答えた。王都国内外でも、魔法学園に特待生制度なんてなかったし、そもそもそんな学校自体ない。魔法学園があるのは王都だけだもの。平民が通えるような学校ではない
「まず、この大陸で魔法学園があるのは王都だけですわ。そしてそこで特待生制度がない理由ですが……貴族のみが通う学校だからですわ」
「では、平民が通えるような学園を作ると?」
「ええ。しかし、それはあくまでも教育を行う為だけなのです。そもそも領民には色々な者がおりますもの。それぞれの適性に合った道を進んでもらうつもりですわ。手元の資料を確認してください。」
共についてきていたセバスが、皆に資料を配る。この数週間で準備していた資料だ。…おかげで最近、寝る暇すらなかったぞ。
「まず、目玉は医薬科の設立。後は官吏科・会計科、そして商業科の3つですわ」
「医薬科……ですか?それは一体どんな物なのです?」
「我が領土にある薬草や毒草などの扱い方、効能などを教える学科ですわ。……まあぶっちゃけてしまえば、薬学とそれに伴って必要な知識を教えていくだけなんですけどね。他にも商業科では領民たちが新しく商売を始める為に必要な方法などを学んで貰いますわ」
そう告げると彼らは納得した様子を見せる。
「官吏科と会計科は、将来の我が領をより豊かにするため、人材を育て上げることを目標とします。…特に会計科は皆様に関係が出てくるかと思いますよ?」
「官吏科は何となく分かりますが…会計科というのが我々に関係する理由とは?」
「資料をご覧下さい」
「これは……」
「これは、エルダー商会の帳簿の一部です」
「これが、帳簿なのですか!?」
皆が驚いたようにそれを見ていた。この世界、何と未だに複式簿記がない
「ええ。この帳簿は我が商会で使用しているものを元に、改良したものですわ」
「これが……噂に聞く複式簿記という奴ですか?」
「あら?ご存知ですのね?」
「勿論…我が家でも導入を考えておりましたからな!」
と意気揚々に語られたが、それを私は制する。だってまだ説明が終わっていないんだもの。
「……まあ、それはまた今度に致しましょう?今はこちらの話の方が先ですわよ」
「おっと、そうでしたな。して、この複式簿記とやらと我々に何の関係があるのでしょう?」
「これは……まあざっくり言えば、誰が幾ら儲けたのかを分かりやすくする為のものですわ」
「……つまり、それは商人が儲かったのか損したのかが分かるということでしょうか?」
「ええ。その通りですわ」
そう告げると彼らは納得したような顔をする。しかし、まだ話は終わらないのだ。私はさらに続けることにする。
「そして次に官吏科ですけれど……こちらは主に貴族や王族の為の人材を育てる学科ですわ」
「ふむ。しかし、それだと我々には関係ないように思うが?」
「それは違いますわ?官吏科では貴族と平民が一緒に勉強する場を設けるつもりですのよ?」
「なんだと!?そんな事が可能なのか!?」
と皆が驚愕している様子を見せる。まあ無理もあるまい……何せ今まではそういう制度がなかったのだから。けれど、これは絶対に必要なのだ!だって教育というものは全ての土台となるものなんだから!それに前世の知識を持った私なら
「まあ、可能でしょう。しかし……そうなると今までは平民の子は親の仕事を継ぐ事しか道はありませんでしたが、今後は違う道もあるということですね?」
「その通りですわ」
と私が答えると、彼らは納得したように頷いた。そして最後に私はこう告げたのである。
「最後に医薬科ですが……これは主に領民たちの健康管理をするための学科ですわ。病気や怪我の治療方法を学んで貰います」
「……それはつまり医者になる為のものでしょうか?」
「ええ。その通りですわ。しかし、この医薬科ではそれと同時に領民たちの病気や怪我の知識を学んで貰いたいのです」
「それはまた何故?」
「当たり前の事ですけれど?領民たちは自らの健康管理をする事は出来ませんもの。だからこそ!医薬を学んで貰う事で領民たちが自ら自分の身体を守る知識を身につけて欲しいのです。そうすれば今よりもっと病に罹りにくくなるでしょう?」
そう言うと皆納得したように頷くのだった。そして最後にこう告げたのである。
「まあ、この医薬科はあくまでも教養の為の学科です。そこで学んだ知識をどう活かすかは、各々が決めてくださればいいですわ」
「ふむ。なるほど……よく分かりました。では我々としてはその案をありがたく受け入れたいと思います。しかし、問題は財源ですね?」
と彼らは一斉に頭を抱えたのだった。まあ確かに資金面とか色々あるからね?それにいくら領民たちの為とは言え、無償でやる訳にもいかないだろうしね。
「そうですわね……まあそこは追々考えましょう。一応、この学園設立の計画書は商業ギルドの皆様にお渡ししておきますわね?」
というと彼らは喜んで受け取ってくれたのである。これでこの件に関してはひと段落がついただろう。……あ、いやまだあったわ!忘れてはいけない事を私は思い出し、再び彼らに向き直った。
そしてこう告げるのだ。
今回の本題であった資金支援をどうかよろしくお願いしますね?と。
そう言って笑う私に彼らは苦笑していたのだった。……しかしどうしてかな?彼らの笑顔が引き攣って見えるのは気の所為なのだろうか……。
商業ギルドでの話し合いが纏まり、私は屋敷へと戻ってきていた。
まあ、向こうで決まったことを報告する為だ。
それに今この場にいるのはセバスとクラウスだけ。他の皆は学園設立の為の準備をしているところである。
そして私は早速彼らに報告することにしたのである。
まず初めに、資金支援については問題なしだったことを伝える。すると彼らはホッとしたような顔をしていた。まあ、いきなり多額の借金を背負うかもしれないのだ。そんな心配もするよね……
まあ、それはさておき私は次に計画書について話を始めた。すると彼らの表情はまたしても引き攣ったものへと変わるのだった。……本当に何故? そんな疑問を抱きながらも私は続けることにしたのである。
そして最後にこう告げたのだ。
この計画は領民たちの為の物であり、決して私利私欲の為ではないことを理解していただきたいと。
それを聞いた彼らは納得してくれたようで頷いてくれたのである。良かった!これで一安心だわ!!
そうして話し合いを終えた私は、執務室へと戻ってきたのである。
そして最初に目にしたのは……机の上に山積みになった書類だった。それを見て思わず絶句してしまう。しかし、すぐに気を取り直してその書類に目を通していくことにしたのだ。
するとそこには驚くべきことが書かれていたのだった。なんと領民たちが自主的に様々な事業を立ち上げようとしていたらしい。それもこれも全てはエルテニア領を豊かにするためだというのだから驚きだ! それにこの事業計画書の中には私が知らないものもあったので、詳しく聞いてみることにしました。
すると皆、口々にこう言うのだ。
これは私たちからの感謝の気持ちなのだと……
だからこそこうして協力してくれているのだと。
ああ……私はなんて恵まれているのだろうか?こんなにも領民たちに愛されているだなんて! そう思ったら自然と涙が溢れてきてしまいました。それを見た皆が慌てて慰めてくれるものだから余計に涙が止まらないじゃない!! ようやく落ち着きを取り戻した私でしたが、今度は恥ずかしさで死にそうになっていましたわ。だって人前であんなに大泣きするなんて……!もう穴があったら入りたいくらいよ!!
それから少しして落ち着きを取り戻した私は改めて事業計画書を読み返してみることにしました。そこには様々な計画が書かれております。これは本当に素晴らしいものですわね!! それにしても……領民たちがここまで自主的に行動してくれるようになるなんて思いもよりませんでしたわ。これもきっとクラウスの手腕のおかげなのでしょう。彼女には感謝しないといけませんわね? そして次に彼らが立案してくれたという事業についても目を通しました。ふむふむ……なるほど!これは中々面白いですわね?特にこの冒険者ギルドとの提携というのは実に興味深いですわ!! しかし、これだけは聞いておきたいことがありますわね?それは一体どんな内容なのかを詳しく教えてもらうことにしたのです。
すると彼らは快く教えてくれましたわ。その内容とは、エルダー領の薬草や毒草の栽培についてだったのです。
そしてそれを使って新しい商品を作り出そうという試みのようでした。確かにそれはとても良い考えだと思いますわ!それにこの事業計画を見てみると、他にも色々と面白いことが書いてあるではありませんか! 例えば……新しい薬の開発や人材育成にも力を入れていくという方針だとか?これは実に楽しみです。




