一ノ訓
私…リーゼロッテ・B・エルダーは2度の前世の記憶を持つ転生者である。
私は1度目は動乱の幕末…2回目は普通の会社員として平穏に過ごして交通事故に遭って死んだ。
そしてハゲ散らかした神様みたいな存在にお願いされ、この世界に転生させてもらったのである。
だが、困ったことに私がいる場所は現在進行形で戦場と言えるだろう。
しかも私が立っている場所は敵陣真っ只中である。
「あ……あの……リーゼロッテ様? どうしてここに……?」
「え?」
私の目の前にいるのは私と同じくらいの年の女の子。
彼女は確か……私の専属戦闘メイドの1人だったはずだ。名前は……何だっけ?
「ここは危険です。早くお逃げください」
彼女は私を守るように立ち塞がった。
私のメイドたちはみんな忠誠心が高いので、本能的にご主人様を守ろうとしているのだろう。
まあ、私としても前世の死ぬ間際の記憶がある以上、死にたくはないが殺るしかない。
《刀剣…顕現》
「「え?」」
私が刀を取り出したのを見て、私とメイドの女の子は揃って目を丸くした。
私は困惑する専属メイドの女の子と私の周囲にいた男を斬り捨てる。
「そんな……リーゼロッテ様が斬った?」
「久しぶりの喧嘩にしては良好ね。」
私は刀身を残っている男達に向けていいな放つ。
「まぁいいか元新撰組副長……。推して参る」
《天剣一刀流 初伝》
【秘技・乱れ雪月花】
次の瞬間、私は男の首を斬っていた。非力と思われていたがなんでもなさそうね。
《スキル【天剣一刀流】を獲得しました。》
私の周囲には先ほどと同じように私を斬り殺そうとした男達がいる。
「あ……あれ?」
「何が起こったんだ……?」
どうやら彼らは私を殺したと思ったらしい。だが、それは間違いだ。
私は確かに彼らを斬った。しかしそれは死ではない。
斬ったのは意識だけ。肉体には傷一つつけていない。
「おい……何が起こったんだ?」
「俺に聞くな」
男達は混乱しているようだったが、そのうち正気に戻っていった。そして私を囲むように陣形を組む。
「ったく……手間かけさせやがって」
「だがこれでわかっただろ? 嬢ちゃんが化け物だってことが……」
「違いねぇ。とっとと殺しちまおうぜ」
男達の言葉を無視し、私は周囲を囲んでいる奴らを1人残らず斬り捨てる。
《天剣一刀流 三ノ太刀》【虚狼天翔】
《天剣一刀流 七ノ太刀》 【虚狼滅閃】
《天剣一刀流 四ノ太刀》 【虚狼刹那】
《天剣一刀流 五ノ太刀》 【虚狼乱舞】
《天剣一刀流 八ノ太刀》 【虚狼百裂】
9発の斬撃が同時に男達に放たれた。次の瞬間、私の周囲は斬り刻まれた男達で埋め尽くされる。
「あ……あがが……」
「た……すけ……」
そして男達は声にならない声を上げながら絶命した。
《天剣一刀流 虚狼》
私が得意とする天然理心流から派生した流派…天剣一刀流である。
これは刀剣を扱うことに関して私の右に出るものがいないと言わしめる一撃必殺の型である。
《虚狼天翔・双》
私が刀を鞘に納めると、私に斬られた男達が地面に倒れ伏した。刀身に付いた血を振り払い鞘にしまう。
どうやらすべて片付いたようである。
体が血まみれだった。血の匂いであの頃に戻りそうであった。
《スキル【鬼の魂】獲得しました。》
こうして私が記憶を取り戻して初日の戦いは終わったのだった……。
《天剣一刀流》 天然理心流から派生した新撰組…いや私独自の剣術である。
「リーゼロッテ様!」
「リーゼロッテ様! ご無事ですか?」
「リーゼロッテ様!!」
戦いを終え、屋敷に帰るとメイドたちが駆け寄ってきた。
まあ、みんな返り血で血まみれだけどね。
「心配をかけたようね」
「いえ……ところであの男たちは?」
「ああ……ちょっとね」
私がはぐらかすとメイドたちはそれ以上は追及してこなかった。さすが私のメイドたちだ。話が早い。
そんなことを考えていると1人の女の子が私に話しかける。確かこの子は……私に仕えているメイドの1人だったはず。
「リーゼロッテ様! 大変です! あなたのお父君であるアルフレート様が!」
「え?」
女の子の言葉に私は耳を疑った。私の父? そんな人いたっけ? と思いつつも私は彼女の後をついていく。するとそこには血だらけで矢が刺さり倒れている男性の姿があった。
「父様!」と私は慌てて駆け寄る。そして男性を抱き起こした。しかし反応がない。
「……まだ生きてる。死なせない…もう嫌なんだ家族が居なくなるのは…だから私が助ける!」
オヤジを救えなかった…源さんも総司も…みんな馬鹿な俺のために…だから今度こそは私が助けるんだ!
《確認しました。スキル『生命維持』を獲得……成功しました》
《確認しました。スキル『再生』を獲得……成功しました》
《確認しました。スキル『完全治癒』を獲得……成功しました》
私は父様を助けるため、必死に頭を回転させた。そしてある能力を獲得することに成功する。
「何としてでも助けたい……!!」
《確認しました。エクストラスキル『世界の本』を獲得……成功しました》 私は必死に父様の体を調べた。すると心臓に矢が刺さっていることが分かる。どうやら何者かに襲われたらしい。だが、それにしては死体が少ない気がしなくもないけど……とにかく今は父様を生き返らせることが優先だ!
「……待っててねお父様」
私は父様の胸に刺さった矢を引き抜くとすぐに魔法で傷を塞いだ。
そして次に父様の心臓に向けて手のひらを当てる。これは私オリジナルの魔法だ。私の魔力を心臓に送り込むのである。すると次第に心臓が動き出し、体温も戻ってきたのを感じることが出来た。これで一安心だ……と言いたいところだけどまだ気を抜くことは出来ない。
《確認しました。エクストラスキル『賢者』が発動します》
【完全治癒】
私がそう唱えると、父様の体が光り輝き始めた。どうやら成功したらしい。私はホッと胸を撫で下ろすのだった。
「リーゼロッテ様……これは一体?」とメイドの1人が聞いてくる。
「お父様は私が治しました。」
私は父様を抱きかかえながらそう答えた。するとみんな驚いていたがすぐに跪き、私に頭を垂れる。
「ありがとうございます!」と口々に感謝の言葉を述べた。
「気にしないでいいわ」と私は言うが内心ドキドキしていた。なんせ自分の能力にこんな使い方があるなんて知らなかったからだ。まあ、今は父様の命を救うことが出来たから良しとしようと思うことにしたのだった……。「父様……もう心配いりませんからゆっくり休んでください」と私は呟いた。すると父様が目を覚ます。そして私の顔を見るなり涙を流し始めた。
「……リーゼロッテ……すまない……」
「いいえ、謝らないでくださいお父様」
私は優しく微笑んだ。私がいる限り、父様を死なせはしないわ……と心の中で思いながら……。
「本当にありがとう……」と父は涙ながらに言ったのだった……。
私と父様は今、王都にいる。理由は2つだ。
1つは私が王都の魔導士官学校に入学するためだ。
私はまた武士として生きることになる。
ちなみにこの世界では16歳で成人となるので私もすでに成人である。
そしてもう1つの理由だが、私の父アルフレート・フォン・エルダー公爵が何者かに襲われたのだ。
「リーゼロッテ……本当に行くのかい?」
「はいお父様」と私は答えた。すると父は悲しそうな表情を浮かべる。
「すまない……私が不甲斐ないばかりに……」
「いいえ、お父様は何も悪くありませんわ」
と私は言った。むしろ悪いのは私の方だ。私の能力のせいでお父様が狙われたのだから……。
「では行ってまいります」
私はそう言って馬車に乗り込んだのだった。そして王都に向けて出発したのである……。