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一踏ん張りした勇者

作者: 怠惰

「さぁ、殺せ」

目の前に転がっているのは討伐対象である魔王。この魔王が生きている限り、俺たち人間側は魔族や魔物に毎日脅えなきゃいけない。

「どうした……なぜ殺さん?」

「いやサックリ殺したいんだけどさ、難しいんだわ」

「意味がわからん」

「ここまでボロボロにしといてなんだけどさ、なんでいきなり子供の姿になったのさ?」

魔王との激戦。一進一退の激しい戦いの中、この魔王どんどんと小さくなっていきやがったのだ。そして最終的に無力になって簡単に殺せてしまう現状。

「ふっ、勇者。お前の勝ちには変わらないだろ? さぁ一思いにやれ」

「やりにくい。本当にその姿は勇者として以前に人としてやりにくい」

わかっているよ?俺勇者だもん。魔王倒して人間の皆さんに、安心と平和な世界をお届けするのが使命ですもん。でもこれ殺して帰還したらもちろん俺の冒険譚話をするわけじゃん?最後に子供の魔王を殺しましたって、語り継がれるのは勇者としてもどうなのよ?

「どうしようかな、この状況」

「甘いな勇者! このまま時間が経てば力が戻り我はお前を襲うぞ!」

「いや、負けたじゃん。さっき負けたばかりじゃん。それでこの状態なんだからさ、同じ事を繰り返して終わりだよ。少しは考えてから発言しろよ」

「……殺せ」

「だから勇者が見た目子供を殺しましたとか印象最悪でしょう! 嫌だから!」

「なら、どうするのだ?」

「そしたら、一回俺国に帰るから。それで国王にこの事説明してどうにかならないか話すわ」

「話したところで殺して来いと言われるだけだろう?」

「だから、問題はそっちの魔族や魔物が人間にちょっかいかけるのがアウトなんだって。そこで、俺が戻って来るまでに魔王は魔族と魔物に人間を襲わないように命令してくれない?」

「なぜ我がそんな事を」

「負けたから」

「し、しかしだな知能の低い奴はそんな命令なぞ……」

「そういう奴らは見張れば良くね?」

「労力など色々と大変なんだが」

「もうさ、そっちは敗者なんだから言う事聞いてというか、聞け。死ぬよりマシだろ」

「わかった、頑張る」

「じゃあ、俺も帰るからしっかりやれよ」

こうして俺はどうやって国王を説得するか考えながら、帰還することになった。

ちなみにその間、魔族や魔物に襲われる事は無かった。魔王やればできるじゃん。


「この度の魔王討伐ご苦労であった、勇者よ」

「王よ、申し訳ございません。魔王は未だに健在です」

「どう言う事だ?」

俺は最初から説明をした。そして、その後の魔王への人間への被害を出させないようにする約束話もした。

「なるほどな」

「はい。ですので恐れ入りますが、王から討伐取り消しのお言葉を頂きたいのと、これからのあちらへとの不可侵条約するために一筆書いて頂けたら、もう一度向かおうかと」

「勇者よ」

「はい」

「信用できるのか?」

「それは契約もしますし、なにより私が居ますから」

「それで民に被害が出た時、どう責任を取る?」

「いや、そういった政治的問題に関しましては王同士で取り決めをしたほうが……」

「この馬鹿者が!」

広間にとてつもなく大きな声が響く。なにかやらかしただろうか?

「信用もできないのに大切な民を危険に晒していろと? ふざけるなよ勇者! さらには何かあった時には責任すら取らないだと? それでよくも貴様は条約などとほざいたな!」

あ、なるほど。確かに丸投げにしすぎているな俺。これは怒られるわ。

「今度こそ、魔王の討伐をして来い」

「少しお待ちください」

「なんだ? まだほざくか?」

「改めて話させていただきたい。魔王と戦い私は勝ちました。その後魔王は潔く命を差し出しました。躊躇なくです、かなり純粋な性格でしょう。そして義理堅い奴にも思えました。理由は私が魔族や魔物に人間を襲わせるなと一方的に勝者の言葉として言って、帰還中一度もその影も形すら見なかったのです。これはしっかりと約束を守っている、信用に値するのではないかと」

「欺く準備をしているだけかもしれんぞ? もしその場合はどうする?」

「勇者としての責務。今度は魔を全て滅して、いかなる処罰をこの身にお受けします」

「死も覚悟しているか?」

「はい」

「その身を全て差し出しての、信頼なのだな?」

「はい」

「ならば、この余からも信頼のチャンスを与えよう」

「ありがとうございます」

こうして俺は国王様から一筆書いてもらった契約書を持ち、また魔王の所へ向かった。


数十年後。

「もうすぐ寿命だって聞いたから会いに来たぞ勇者」

「お前は良いな、何歳まで生きるんだ」

「まぁ、魔王だしな」

「俺の役目ももうお終いか」

「結局我は一度もお前に勝てなかったな。そしてこのまま死なれるなら、これからも統治を頑張らないといけないのか」

「ふっふっふ。俺が命張って築いたこの世の中を壊すんじゃねぇぞ?」

「いや、我の力抜けた状態を殺せないからだろ。見栄張ったからじゃんかよ」

「わかってねぇな、カッコつけて国王に約束貰ったんだ。お前がヘマしたら俺の命賭けてたんだぜ?」

「はいはい、流石勇者様カッコいいカッコいい」

「おい」

「なんだ?」

「これからも頑張ってくれよ?」

「ああ、ゆっくり休め勇者」

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