表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/81

魔力でできること




翌日、陽が昇る少し前にルウィエラは目覚めた。


まだ咳は少し出るが喉の酷い痛みは思った以上に楽になっていた。背中は多少ヒリヒリするものの耐えられない程ではない。


何より頭の痛みと倦怠感が和らいで、快復とはいかないが、昨日一昨日に比べれば雲泥の差だ。ゆっくり起き上がると多少はふらつくが歩けない程ではなく、これなら井戸まで行けそうだ。


ルウィエラは左腕をみる。血の付いた布では汚かったのではと今更思うが、他になかったのだから仕方ないと変色した布をゆっくり取ると化膿はしておらず、思ったより悪化しているようには見えず、熱もかなりひいたようだった。



(まるで奇跡の水のよう)



実際にそんなものがあるかわからないが、昨日の症状より格段に楽になったので、思うのは自由だ。窓を見ると誰かがとりにきたのかわからないが、木の器はなくなっていた。



二日ぶりにまともに起き上がれたルウィエラは先ずお腹いっぱいお水が飲みたいとベッドから下りた。薄汚れて破れたワンピースを取り、離れを出た。



早朝なのでまだ外はかなり冷えていて身震いする。身を屈めて腕を摩りながら井戸へ向かい、いつもより緩めの歩調で歩いて行く。


やがて井戸が見えてきて少しだけ歩調を速める。二日ぶりの井戸はルウィエラが最後に使ったままの状態だった。



(あの時の紅い鳥はいない。)



あの夜はあまりの高熱と痛みで意識朦朧としていたので現実だったのか夢だったのか定かではないが、ルウィエラの頭の中の想像だけではできない、とても勇ましく綺麗な鳥だった。


紅い鳥との時間はルウィエラにとって初めて胸が温かくなった出来事なのでそのままの記憶を大事にしようと胸に留めておく。



桶を井戸に落としながら左腕に負担がかからないように上げていく。前回先に布を濡らそうとして結局満足いくまで飲めなかったので、ルウィエラは先ず桶に汲んだ水を両手で掬って口をつけた。



(ああ、生き返る…冷たくて…甘くないのが少しだけ残念だけど…それでもとても美味しい)



あんな甘い水はもう飲めることはないだろうなと思いながら、冷たい井戸水をコクコクと飲み続けた。満足した後は汚れたワンピースを洗い、ルウィエラの力で絞っても水は滴るので、その水で血で汚れた床を靴で擦ろうと考える。


そして茶色く変色した綿の布に水をかけてよく擦って洗い、元の白色には戻らなかったが薄い肌色まで色は落ちた。残りの水で頭と体をこする。その布を左腕に当てて、ルウィエラは離れに戻って行った。




離れに戻り、少し息は切れたがあの苦しい二日間より俄然楽になっていたルウィエラは、洗ったワンピースから滴り落ちる水を血痕の残っている床に絞り落として、擦り切れた靴でゴシゴシと擦った。


汚れがだいぶ消えた頃に頭がくらりとしたので、ベッドに横になりベッド下に隠してある魔法と魔術と錬金術の本を取り出す。久々の読書だったことと、自分でもどれかできるようになるかもしれないという期待から、ルウィエラは外が薄暗くなるまで読み続けた。






人間が魔力を使ってできることは三つあるという。



『魔法』は使い手の魔力器に備わっている魔力を扱い詠唱を唱え、火・水・雷・土・風・光・闇の現象を発生させる術だ。


基本と言われる火・水・雷・土・風の五大魔法は誰でも使用可能で、上達するとより大きな属性魔法を使えるようになるが、当然その分魔力の消費も大きい。それに個々に得手不得手というもがあるので、全部を取得できる者はそう居ない。五大上級魔法を制覇できた者は光・闇の魔法が扱えるようになるが、この二つは適性が物を言うらしい。


更にそれぞれを極めれば無詠唱で発生できるようになったり各魔法最上級の超常現象を起こすことも可能だ。




次に『魔術』というものは五大魔法を何れかをある程度極めると、それぞれの魔法の原理や法則の知識と技術を組み合わせ、研究して不可能に近い現象を創り出し発動させることができる。数は無限大で独創的な魔術を生み出し自分の名前を付ける者もいるそうだ。




『錬金術』はある物質から別の物質を使い手の魔力を使って作り出し、人間が生きていく為に役立つ物を作ることが目的の術となる。医学、薬学の発展は錬金術があってこそ成り立つものであり、こちらも数は無限大で薬などで素晴らしい物を作り上げると一財産を築けるらしい。



他には魔術の応用で魔力を体内に上手く循環して、身体能力を瞬間的に急増させる『体秘術』というものもあるらしいが、これは感覚的なものと感性が物を言い、能力が秀でていても上手く取得できないこともあるようだ。



そしてどれも使い手の能力や魔力の量や質、魔力器の大きさや感性が影響する。



一つの目安としてディサイル国では10歳を迎えた時に、神殿に赴き魔力鑑定を行うことが義務付けられている。神殿だけが取り扱える魔宝玉という珠に触れて、光る加減と現れた色によって大体の魔力器大きさと相性がいい魔法を知ることができる。


魔力器は様々な大きさ、形があると言われているが実際本人にしか認識できない。目に見えるものでなく感覚で感じるものだからだ。過去に申告制で形を調査してみた結果、大半はコップのような形をしていたりスープボウルであったり、少数では花を生ける瓶のような形だったり、壺の形のようなものなどが報告されている。


大きさを知るには先ず己の魔力を自由自在に感知して動かすところから始まる。慣れるまでは目を閉じ魔力の巡りを意識の中から発見して脳内で視認し、それを常時感知して操作できるようになると、魔力の在り方が解り自然に身に付いてきて、徐々に魔力器が認識できるようになる。




一方人外者は使用する魔法の制限はないが、種族毎の特性や資質や相性が重視されているので、全魔法を使うものは居ないと言われている。


その分特に人型をとれる人外者は魔力器が膨大の者が多く、種族の固有魔術や魔法、魔術が豊富で並外れた尋常ではない能力が発揮され、到底人間とは比べものにならない。



しかし極稀にずば抜けた能力と発想力、感性が秀でている人間が存在し人外者に匹敵する者もいたと言われている。






薄暗くなってきたので本を閉じてベッドの下に隠し、少しウトウトしながら思考に耽った。




シェリルがルウィエラに放ったものは所謂魔法というものだろう。あの年齢で使えるのであれば、ルウィエラも本で沢山学べば使えるようになるのかもしれない。



(魔力の巡りを知る…それが息をするのと同じように当たり前になって…それはいつか自分の力になって、いつも共に一緒に………一緒…)




ルウィエラは独りだ。

生まれた時から今迄までずっと。

家族という概念も知らないしこの先知ることもないのかもしれない。



でも、とルウィエラは自分の胸元に手を当てる。



この中にまだ認識はできないがあるだろう魔力は、生まれた時から共に『居る』のだ。


ルウィエラの体の中に。同じ人間という形ではないけれど、ずっと一緒に。




これからもずっと。




その存在を常に感じられて『一緒に』いられることは、なんて素敵で嬉しいことなのだろう。



ルウィエラは目を閉じて両手を胸に添えた。トクトクと心臓が脈を打って動いている。それを感じながら鼓動と共に意識の中で見えるものがないか、全神経を集中して探ってみる。


一定のリズムで打っている心臓から巡っていく血液。

体全体に循環されて流れている。

頭、首、胴体と手足。


それでは魔力はどのように動いて流れている?

血流と共に?それなら魔力器は体の中心の心臓部分辺りということになるのだろうか。


いや、そういうことではなく……体の中だけど体の中ではない……気がする。


言葉に上手くできないが、体の中に同じに在るということでなく、同じなのに同じでない…体の中を想像するのではなく、自分の意識の中の体の輪郭という形で、異なる層になるというか、それが上手くいった時に重なり合うみたいな……



「……っ!」



その時、意識の中にひたっと。


自分が意識の中で描いて想像する自分の体の中心辺りにふわりさらさらと形容し難い流れを捉えた。透明に近いのに微かに色味が含まれる数多の線の群れのような何か。


ルウィエラは少し息を切らしながらドキドキする心臓をグッと押した。そして集中力が切れてしまい、もう先程の何かは感じなくなってしまった。



「今のが…魔力?」



これが感知するということなのだろうか。


想像…印象…感覚で感触を掴むような…。もう一度と思ったけどまだ病み上がり手前でふらっときたのと、集中力が切れてしまったルウィエラは今夜はもう止めておこうと目を瞑った。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ