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大地を司る人外者との絆を断ち切ってみた  作者: 蒼緋 玲


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幻獣との戯れ






―――カツ――カツン――カツカツ―――



はっと意識が覚醒する。


辺りを見渡すともう薄暗くなっていた。


音のした扉の方を見ると、握り拳くらいの隙間が開いている。

セルが出た時と同じ状態なので、あれから誰かが来た様子もなく珍しく長めに眠れていたらしい。


――カツン――カツカツ―――


ルウィエラはいつもと違う音の種類に眉を顰める。



(セルさんとジラントルさんの音でもないし……これは靴の音でもない。白もや…さんは足がないから確か音はしなかったような気がする)



そうしているうちに音は扉に近づき、生き物の気配を感じる。

少し開いた扉の向こうには、薄暗いのにぼうっと何か一つ丸く青白く光るものが低い位置から見えた。

ルウィエラが立て膝を着いているくらいの高さで、薄暗いからか他は良く見えず、光っているものしか確認ができない。


ルウィエラは目を細めながら光っている部分だけ見つめる。良く見ると様々な青系統の色が混ざったような色彩に気付く。するとその光がぱちんとなくなり、そしてすぐに光った。

その動作によりそれが瞳だとようやく認識した。



「怖っ」



思わず声に出してしまっていた。

拳ほどの隙間がそれ以上開くこともなく、全体の形すら解らず、声も出さず微動だにせず片目だけでこちらを薄暗い中から窺っている様子は不気味以外の何ものでもない。


そして瞳の示す位置と、その独特な色合いで、現在進行中で覗きをしている生き物を予想できたルウィエラは声を掛けてみた。



「もしかして幻獣さん?」



多色の青の瞳は動かない。



「背中の傷は治ったの?後付という後遺症的なものがあると知らずに勝手に治癒魔術を使ってしまったの。後で大丈夫だと聞いて安心したのだけど。」



瞳は動かない。



「ここには何をしに来たの?私に何か用でも?」



動かない。




ルウィエラは少し身体を起こしていた体勢をいそいそと元に戻して布団を被り直して再度眠ることにする。目覚めたタイミングが良くなかったのか、解術による体力低下なのかは分からないが、思っている以上にまだ眠気が強いようだ。


いつもそのまま目覚めてしまうので、こういう珍しい時は眠るに限ると扉から覗いている幻獣らしき生き物は動かないし、後でいいやと目を瞑った。







「怖っ近っ」



ぶるぶるっと毛を震わせる音で覚醒して目を開いた時、ベッドのすぐ側からルウィエラを見ていたので、かなり驚いた。幻獣たるもの気配と足音を消し、ルウィエラ如きの危機管理能力を掻い潜ること等、造作な無いのかもしれない。


とはいえもっと暗くなった部屋の中で目の前に青い光が二つ浮いていたら誰でも多少なりとも驚くだろう。喜怒哀楽がまだまだ乏しいルウィエラでも心臓がばくばく鳴り、流石に意識も覚めたので、起き上がり天井を見上げ、指先を向け魔力で暗めの灯りを灯した。


ほんのり灯るとようやくその二つ目の生き物の全貌が見えてきた。羽を抜く時はざっとしか見た記憶がなかったが、なかなかに大きい獰猛そうな肉食獣がちょこんと行儀良くお座りしてこちらを見ているというなかなかにシュールな光景だ。


他の肉食獣も実物を見たことはないが、手脚を伸ばしたら確実にルウィエラ倍近くありそうだ。

細長い尻尾と、何より本で見たことのない多色性の青い瞳と銀白の短めの毛皮に斑模様がまるで淡い虹色のように散りばめられている。


そして普通のヒョウとの一番の違いは眉間より少し上に位置する真珠色の巻き角で、その色合いは角度を変える度に違う色彩に色づいて見える不思議なものだった。



「毛並みもだけど瞳も角も一色ではないんだね。寒色なのに虹色の斑模様が調和していて―――あ、そうか。大地の幻獣さんだから色々な色を持っているということなのかな。澄んでいて色の重なりが優しくてとても綺麗。」



そう言うと、幻獣は目を丸くする。

セルとは会話か念話ができるのかもしれないから、言葉は理解できるのかなと思いながら、背中の傷を確認したくて、ルウィエラはもそもそとお座りしている幻獣の背中を見ようとベッドの上を移動する。


しかし、ルウィエラが動くと同時に幻獣もルウィエラの動く方向に何故か向き直る。

何度か試しても正面からしか見せてくれないのだ。



「背中の傷を見たいのだけど。」



その言葉に幻獣はぷいと目を逸らす。

幻獣と言うくらいだから強いのだろう。


傷ついた箇所を見られたくないのだろうかと思い、回り込みながら見るのを諦めて元の位置に戻ろうとする様子を見せると、幻獣も向きを変えようとした、瞬間にさっと戻る前の位置に戻り背中をついに覗き見れた。


小さめな人間の思った以上に素早い動きに幻獣は驚きさっと動くが、ルウィエラはもう背中を確認した後である。なんとなく妙な達成感を感じてしまった。



「傷が残っていなくて良かった。」



こんなに美しい銀色の毛並みと淡い多彩な色合いが赤黒くなっていたらと思うとぞっとしてしまう。


出し抜かれた形になった幻獣は昏い目をしながら、靭やかな身体を屈めたと思ったら軽く跳躍してルウィエラの寝ていたベッドに上がり悠然とした動作で奥に歩いていった。


獣をベッドに上がらせて良いものかと思い、つい呟いてしまった。



「ベッドの上は大丈夫なのかな。脚…汚れてないのかな。」



その言葉がもしかしたら自尊心を傷付けお気に召さなかったのかもしれない。


背後近くに回り横になったかと思うと、長い尻尾でぴしっとルウィエラの背中に当ててきたのだ。

痛くはないが、それなりに体は動いてしまう。



「もし脚が汚れていたらベッドも汚れるでしょう?」



ぽすん



「幻獣さんがどうやって身綺麗にしてるかは分からないけど、ベッドでは寝ないのでは?」



ぽすん



「毛並みとても綺麗だけど、動物特有の匂いが付いたらセルさんた―――」



ぽすっぽすん




尻尾連打攻撃に、流石にいらっときたルウィエラはその尻尾を掴もうとするが、幻獣は素早く動かして掴もうとした手は空振りに終わる。しかも顎を上げてどや顔しているのが余計に腹立たしい。


暫し二人……一人と一匹で無言の睨み合いが続く。


そして先手を打ったのはルウィエラだ。

やれやれと溜め息をつき首を振りながらベッドから立ち上がろうとすると、案の定その態度に不快指数が上がったのか、幻獣が後ろから尻尾を動かす殺気が放たれた。


瞬時にルウィエラは、がばっと後ろを振り向いて尻尾をぎゅっと掴みとった。



「―――ッギュッ!」

「私が普段どれだけ無殺意の手刀を受けていると思っているの。」



居候している家の主がどれだけの頻度で繰り出してくるのかこの幻獣は知らないのだ。

起き上がり離れようとする幻獣の尻尾の先をぎゅっと掴んで引っ張る。



「先に始めたのはそっちだからね。」



連打で地味に身体が動くことが不快であったルウィエラは、最早幻獣と言う名の稀有な獣だということは彼方に放り、ぐいぐいと尻尾を引っ張る。


身体を屈めながら抵抗続けている幻獣だが、やはり力は強く何度目かの尻尾を引き寄せに、小柄なルウィエラは逆に引っ張られるようにつんのめって、べしゃっとベッドにうつ伏せになってしまい尻尾も離れてしまう。


見上げると、またしてもどや顔でふふんとでも言いたげな幻獣の顔にルウィエラはすっと真顔になる。

そして尻尾攻撃をぽすんぽすんと再開してきたので、いらっと指数の上限が更に一段階上がった。


傷の具合とか状態がどうとか、既にどうでも良くなり、尻尾がしなりルウィエラに当たる手前で今度はこちらも怪我していた左手のしなりの確認がてら尻尾をぱしんと弾いた。


弾き返された尻尾を見た幻獣は真顔で見下すような表情のルウィエラに不快度が上がったのだろう。

それはこちらもお互い様である。


そこからは一人と一匹のしなり具合のやり合いとなった。


ぽすん。ぱしん。ぱしん。ぽすん。


打撃音のみで無言の応酬が続く。

この幻獣にはどうしても負けたくない気持ちが湧き上がるが、だんだんと息が切れるのはルウィエラの方が先だろう。


再び尻尾が到来した瞬間、今度はその尻尾をむぎゅっと強く握る。


病み上がり手前とは言え、体力切れという理由なんかで負けたくないので、合せ技を融合させることにする。尻尾は敏感なようで、ぎゃっと身体が強張り強い力で解こうと振り回す直前に、ひっくり返されないように、今度はぱっと手を放した。


そこで幻獣も止めればいいのに、その幻獣も負けたくないのか、数秒尻尾を落ち着かせてから再々度挑んでくるのだ。


ぱしん。ぽすん。ぽすん。ぽすん。むぎゅ。



「―――――何をしている。」



背後の扉から高確率で発せられる定型の言葉が耳に入ってきた。

ルウィエラは幻獣から目を逸らさず答える。



「地味な嫌がらせによる迎撃なものでしょうか。」

「何を言っている。」

「もうこの尻尾が曲者で―――」

「ジェド」



セルがそう発すると、尻尾を動かしていた幻獣がぴたっと止まった。

そして、何故こんなことをしていたのだろうかと目を丸くしている。



「ぬ。止みました。この幻獣さんのお名前はジェドさんというのですね。」

「ああ。遮蔽魔術の張った部屋でその後の経過を見ていたのだが、問題ないと分かって出てきたんだろう。何故ここに来たかは不明だが。」

「そうなんですね。後遺症のようなものが出なくて良かったです。」



そう言うと幻獣ことジェドはルウィエラを一瞥してぷいっと顔を逸らした。


尻尾による小競り合いはルウィエラも大人気なかったかなと思い、負けるか精神も降下していたので受け流した。

セルが中に入ってきて、後ろから臨時専属のルウィエラ対応の白もや二体が入ってきた。



「もう遅い時間だが、食事は摂れそうか?」

「はい。思ったより眠っていたみたいですね。ご飯と聞いた矢先からお腹がきゅるっと鳴りました。怠さは少し残っていますが、熱っぽいのはだいぶ治まりました。」

「そうか。入浴したいだろうが、大事を取って明日の方が良いかもしれんな。眷属に清拭を手伝ってもらえ。半刻程で食事を持ってくる。」

「ありがとうございます。」



セルはジェドに声を掛け部屋を出て行く。

出ていく前にジェドは暫くルウィエラの方に視線を向けるが、当人は二体の白もやにあれこれと声を掛けていたので気付かなかった。







多忙につき不定期更新となります。

落ち着いたら定期更新に戻したいと思います。

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