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大地を司る人外者との絆を断ち切ってみた  作者: 蒼緋 玲


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襲撃される不思議な生き物






「お婆、これを渡しておきますね。」



そう言ってルウィエラはキックリに薔薇色のカードを渡した。



「なんだい――――これは、通信カードかい?でも色が違うね。」

「はい。先日お婆から戴いたカードの一枚です。あれから色々弄ってみたのですが、両方の通信ができるようになりました。」

「ん?両方?」



そう返しながらキックリは手を添えカードを鑑定しているようだ。そして暫くすると、はっとしたようにこちらを見る。



「なんだいこの魔力の織は。私とルウィエラ専用みたいなものかい?」

「カードその物の根本を変えるのはやはり難しくて。でも音声機能を筆記に移動させることはなんとかできたので。」



そう言ってルウィエラも自分専用の紫のカードを見せた。



「カードの変色はともかく、音声と筆記のどちらでも可能ということかい?でも移動させたってことは片方は機能が失くなるんじゃないかい。」

「距離や範囲そのものを自由に動かすことは中の構造が精密すぎて無理だったので、使用者の魔力を元になんとなく組み換えた感じでしょうか。もう片方には合わさった機能を復元、みたいな。なんとなく。」

「出たよ、なんとなく。」

「言葉は難しいですね。」

「いや、あんたの魔力動作の精巧さが何よりも難解だがね。」



そう言いながらキックリは呆れた表情で鑑定し続けている。



「お婆の魔力はこの家のあちこちに飛んでいるのでささっと集めてカードに勝手に仕込んで登録しました。」

「私の魔力は埃扱いか。―――――なるほど、カード自体は私とルウィエラだけに使えるということか。」

「ですね。取り敢えず、魔力を登録した私とお婆であれば場所、距離関係なく通信ができると思います。魔力登録なので本人にしか使えません。登録自体が増やせるかはまだこれから試してみようかと。双方ちゃんと反応するか試してみましょう。」



カードそのものは魔力登録した本人にしか使えないので、ルウィエラはささっと離れて、筆記から試してみる。その後二階に上がって音声も確認して無事両方とも問題なく作動した。



「相変わらずの閃き方だねぇ。なんとなくは理解できても魔力の組み合わせと動きが私には意味がわからんよ。これで人数を増やせるなら楽になるね。」

「そうですね。わざわざ二枚持たずに済みますし、内容でどちらか選択できますしね。今のところ相手は限られますが、範囲を気にしなくて良いので。今日の採取中にでも早速入れてみます。」

「ああ。えらい物を貰ったねぇ。あんたが作り方を誰かに教えて相手がそれを量産できるなら商品特許でも取れるんじゃないかい?大富豪も夢じゃないよ。」

「説明するのが何とも言葉にし難いですし、周りに騒がれて自分のやりたいように動けなくなったら嫌なのでしません。ちまちま貯めて心の中でにやにやしながら小金持ち風が性分に合っていますね。何より面倒くさいです。」

「出たよ、面倒くさい。」

「弟子は師匠を見ながらすくすく育ちますからそれは似てきますよね。」

「弟子なら師匠の一番良い部分を似るもんだ。」



キックリは肩を諫めているが、彼女も騒がれるのは好きではない。

とはいえ、お金にはがめついし、値切り上等で本当に弁が立つのでなかなか出し抜くことが難しいが、誰かを謀ったり、騙したり、お金の為に相手を窮地に陥れることはしない。

―――その代わり悪党に対する残虐さはルウィエラですら震えが止まらない。



今日のお昼ご飯はキックリも今日はシダレ国に行くので、特製のマヨネーズをたっぷり入れた卵サンドイッチを一緒に作ってくれた。キックリの卵サンドイッチの味付けの黄金比は未だに真似できない。


急遽好きなサンドイッチを食べれることになったルウィエラはほくほくしながら準備をして家を出た。


今日はグエタの森で最近周っていない方に行こうと決めていて、歩きながら時折体術を練習しながら半刻と少しで辿り着いた。


この辺りは魔草類は少ないが、運が良ければ三色苔や小粒だが貴重な魔石が見つかることがある。

特に昨日雨だったので雨上がりは確率が上がることもあるのだ。


遠くで聞こえる鳥の囀りや小さな生き物が行き交う気配を感じながら、ルウィエラはある程度定めていた場所を注視しながらあちこち周っていく。


昼に差し掛かるまでに集めたのは少しの魔草と、大小様々な木に覆われて少し掻き分けた奥の木の葉の裏に出来ていた雫から出来た水属性の魔晶石とその木の根元の真ん中部分が抉れていて、生き物が住んでいたであろう朽ち果てた石の積み重ねの一部が鉱石化されていた土と闇属性の魔鉱石が採取できた。



(良質なものは採れたけど、前半にしては少なめかな。自然の恵みだからこそ運も一つの要素なのだろう。)



そう思いながら一旦一休みして、キックリ特製の卵サンドイッチを頬張る。

ゆで卵を細かくしたものに、少しのピクルスと玉葱のみじん切りとマヨネーズと塩胡椒、卵の邪魔にならない程度に薄くスライスしたサラミと葉物がたっぷりで毎度ながら絶品である。



キックリにカードで【ごちそうさまでした、次回は是非王道のハムチーズ希望】と書き、水分もしっかり摂ってから、後半に突入しようとした時のことだった。





ぐおん、と今まで感じたことのない強大な魔力の織を感知した。

肌がざっと粟立ち、びりびりと体全体に感じてルウィエラは目を瞠る。



「何……守りの結界?防壁?それとは別に―――攻撃の禍々しさもっ―――っ!」



今度はばりばりというけたたましい轟音が鳴り響き、思わず耳を覆った。



「え、グエタの森でこれは――――違う、これはエト湖の方…!」



グエタの森では起こる筈のない悪意も含まれる大きな魔力のぶつかり合いのようなものに、ここから少し離れたエト湖方面から感じることに気付いたルウィエラは短い転移を使いながら近づいた。



「―――あれ?」



感知した筈のエト湖を目の前に、そこには澄んだ色合いをした湖の水面がそよそよと凪いでいる。周りの木々も風に微かに揺れている程度で、一見すると普段通りの穏やかな景色だ。


しかし先程聞こえた鳥や生き物の気配は無くなっている。間違いなくこの魔力の織に反応して逃げたのだろう。そして肌に感じるざわざわとした大きな魔力の感知はまだ感じる。


どういうことだろうと一歩進んだその時、ぶわっと突風のように何かに包まれて引き寄せられる衝撃を受け、思わず目を瞑る。




「―――――っ―――え、ここは…」



衝撃が収まり、いつの間にか座り込んでしまっていたルウィエラが目を開けると、そこは先程いたエト湖ではなく、どんよりと霧がかっていて、まるで生き物すら居ない滅び去った森のような場所に居た。


でも生き物はいないのだが、動く物が視界に入ってきた。


森を覆うように様々な色と大きさの羽がまるで生きているかのように舞っていて、枯れた木々の残骸がそこかしこに散らばっている。


上を見ると今迄に見たこともないてっぺんが見えない位の高さの枯れた木々が聳え立ち、陽の光すら感じず、霧のような靄がそれを助長していて、薄暗くルウィエラの全く知らない場所だった。



(なんで―――……一歩進んだ瞬間に何処かに転移させられたってこと?)



感知すらできなかった一瞬の出来事に、ルウィエラはぞわっと鳥肌が立つ。

先ずは立ち上がらなければと地面に手を着いた矢先、先ほどのぐおんと強大な魔力を感知した直後、ばりばりばりと今度はもっと近くで聞こえた地響きのような爆音に、またもや耳を塞いで音がした方向を見る。


すると音がしたすぐ近くの後方の木にどごんと何かがぶつかった鈍い音がした。


そこには白に近い銀色の斑模様の大きなヒョウのような肉食獣が横たわっていたが、即座に体勢を立て直していて立ち上がっていた。



(ヒョウ…みたいな?―――この生き物は…)



直接見たことはないが、そこに居る勇ましい姿をしているヒョウのような体格をしたその生き物は、水色や青色、紺色の数種類を混ぜたような瞳をしていて、斑模様は銀色ではなく、それぞれがまるで虹色のような様々な色で彩られていた。


色合いもだが、ヒョウだと断言できなかったのは、その眉間より少し上に生えた真珠色のような一本の巻角があったからだ。



その生き物は少し近くにルウィエラが居るのを目もくれずに、目元を少し歪ませて身体を捻り、何やら背中部分にある何かを取ろうとしているように見えた。


ルウィエラがその生き物の背中を視線で追うと、何か小指ほどの赤黒い羽のようなものが背中に刺さっていた。

ヒョウのような生き物は、前脚でも、身体を捻って口元でも、何とか背に向けるが届かずにいると、その赤黒い羽がぼうっと光り始めた。


その瞬間その生き物は「グアウゥゥゥゥ…!」と呻き始めのたうち回り始めた。


赤黒い羽を見るとその羽が様々な色に瞬時に変わっていくのをルウィエラは凝視した。



「何……―――っ!まさか魔力を!?」



それはその生き物の斑模様の色合いと同じ色を示しているようで、もしかしたらその生き物の魔力を吸い取っているのではないかと思ったのだ。

のたうち回る生き物からルウィエラが感知したのは、強大だったが防御のような魔力の織だった。


そして禍々しい魔力を感じる先にあったのは、あの小さな羽の方だった。



(羽…羽を抜かないと駄目だ!)



直感で助けなきゃと感じ取ったルウィエラは、咄嗟に暴れ回るヒョウのような生き物に短時間の不動の魔術を展開する。


上手く効いたようで、転げ回っていた生き物はうつ伏せになって蹲り、未だに唸り続けている。



「羽!羽を抜くから動かず我慢してて!」



そう言うのと同時に生き物の傍に駆け寄り、「抜くから襲わないでね」と耳元近くで声を掛け、禍々しい赤黒さと奪っている魔力の色に変化し続けている羽をルウィエラは掴んだ。

その刹那のことであった。




「い―――痛ぅっ…!」




掴んだ時は柔らかかった羽がルウィエラが生き物から抜こうとした瞬間、羽全体がまるで棘のように全体が硬く鋭くなり、掴んだ手の平に無数に突き刺さった。思わず手放してしまいそうになるのを耐える。



そして直後に生き物から羽は抜けたので、直ぐに刺さっていた生き物の傷口に治癒魔術を施し、全体に何重もの防壁魔術を展開したすぐ後のことだった。




「!!!っっ―――ぐっうぅぅぅ……!」




その羽を掴んで刺されたルウィエラの手の平の傷口から禍々しい魔力が入り込み、ルウィエラの魔力器内を荒らし回ってきたのだ。


それは魔吸収のようなずずずと引き摺り出されるような、すとんと血の気が失せる感覚と違い、魔力器内に入り込み魔力を食い荒らすというものに近く、ぐわんぐわんとルウィエラの中で暴れ魔力を食い尽くすようで堪らず蹲る。



(なに、これ……傷口から無数の手が伸びて魔力器を食い荒らされているよう…―――――!)



あっという間に上部の魔力が根こそぎ食われていく感覚に、ルウィエラは全身が震え冷や汗が浮き上がり、耐え難い苦痛を感じながら、羽から手を放さず、なんとか意識を覚醒させる。



(も…もうこれ以上持って―――いかれて堪るか!)



魔力器中間部に入ってきた禍々しい魔力に対抗するべく、下部との狭い空間に魔力束を押し込んで蓋をして、中間部に残る魔力で迎え撃つ。

ルウィエラの手の中で鋭い棘を継続させ振動している赤黒い羽を逃さずにしっかりと激痛と共に握りしめた。



縦横無尽に蠢く魔力の悍ましい痛みに耐えながら、ルウィエラは目を瞑り自分の魔力に集中した。


禍々しい魔力がまるで無数の羽が舞い踊るかのように飛び交い、魔力を奪っていく中、魔力を総動員させて外周りからかつて無い程のフルスピードで覆っていき、包囲して真ん中に集めるように駆使する。


ルウィエラの魔力に誘導されるように食い散らかしながらも中心に集まってきた羽型魔力を残っている魔力の中から光っている透明がかった魔力で囲みその外側を他の魔力で更に覆っていく。



(ぐっ……い…今まで散々抑え難い痛みに耐えてきた私が――この、程度で―――負けるわけがないでしょうが!!)



中間部に残っているありったけの魔力で一気にその禍々しい魔力をぎゅっと握り潰すように圧縮させる。隙から抜け出そうとする悍ましい魔力を意地でも逃さないように魔力も神経を摩耗させながら集中していると段々とその中の魔力が弱まってきた。



そして殆ど魔力器から殆ど消したと同時に少し力が緩んだ手の平から羽がするっと抜け出してはらはらと飛んで行く。



「っ――――さ…させるかーー!!」



魔力器を荒らす羽の様な魔力を一つ残らず潰えさせ、殆ど残ってない魔力をかき集めてルウィエラは飛び立とうとしていた赤黒い羽を渾身の力で捕縛魔術を展開させた。


羽は捕縛魔術空間で暴れたが、ルウィエラは絶対に逃さんと手を伸ばし掴んで、もう片方の震える手で有事用に強化してある状態保存の瓶を開け中にぐっと押し込んで蓋をした。


なかなかに腹が立ったので、更に少し厚めの保存袋にも入れてやって即座にペンダント収納に仕舞った。



「……転…んでも、ただで起き上が―――るわけないで、しょうが―――」



いつの間にか周囲を飛び交う数多の羽は消え去っており、ルウィエラは力尽きて横転した。


何とかなったと、あの憎たらしい魔力と対峙して駆逐し、中間部の残りも使い切ってしまったルウィエラは、もう下部との間にある魔力束を解して魔力を出すことも、魔力回復薬を取り出す力も残って無かった。


意識が遠のく寸前ふと思い出した。



(あ、しまった。不動魔術…短時間だ―――噛まれませんよう…に―――――)




そしてぶつんと意識が途切れた。






次の更新は14日になります。

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