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大地を司る人外者との絆を断ち切ってみた  作者: 蒼緋 玲


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特殊な国籍と共通価値





二人であれこれ話をしながら、キックリが紅茶のお代わりを入れてくれる。



「まあ、今ではルウィエラもそうだが、私もディサイル国から居なくなられたら、大打撃だからね。」

「お婆を止めるという行動自体が無謀に感じはするのですが、国家権力で抑えることは?国籍を動かせないようにするとか。」

「冒頭部分に言い回しにも納得はできないが、できないよ。私の国籍はディサイル国ではなく、このグエタの森だからね。」

「え?グエタの森はディサイル国領なのに―――あ」



国内に森があるので思わずそう答えたルウィエラはここが、治外法権の土地であることを思い出した。キックリはそれを見て、一つ頷く。



「そう、グエタの森は治外法権で守られている。人外者や幻獣ですら決めたものでは無いし、そもそも国籍や国境も土地も人間が勝手に侵略して決めたものだから土地を守護するものにとっては知ったことではないんだ。そこに住まわせていることが何よりの証拠になり、住んでいる生き物や人を脅かせば、何が起きるかは分からないんだ。」

「お婆にしっかりとその辺りを聞いたことはまだなかったですね…治外法権地区でも国籍はディサイル国だとばかり。」

「私がグエタの森に居るのは土地が選んでくれただけあって、とても居心地が良いからだが、ディ歌うサイル国に良く顔を出すのはその国自体が気に入っているものもある。ただ、何かがあってディサイル国側を助けたりするのは善意であって国民としての義務ではない。ということは国から何か不愉快なことをされれば国領内に居ても手を貸す理由もない。だからディサイル国側も助言を請いはしても、命令や強制という下手なことはできないんだ。」

「守護されている何かがどういう基準で住む権利を与えてくれるのかはお婆も解らないと言っていましたが、選ばれた人間がとてつもなく悪逆非道だった場合はその土地自体もそんな感じの場所なのでしょうか。」



ルウィエラは勿論、人間が全てにおいて善悪を謳うのは烏滸がましいとは思うが、選定理由が全く分からないと今後知らずに治外法権地区に足を踏み入れてしまった時、そしてそこに許可を得た人間が自分にとって害のない人とは限らないのだ。



「そうだねぇ、私以外に治外法権地区に住んでいる奴を二人程知っているが、何と言うか人柄に難はあっても私が嫌煙するようなことをする人間ではないね。戦を仕掛けたり、自然破壊したり、魔力で世界征服なんて出しゃばって外に出てあれこれするような奴等ではないことは確かだね。」



ルウィエラはなるほどと頷く。

キックリがディサイル国を気に入っているのは以前から聞いていたし、フルナーレにも良く足を運んでいるし、仲良い人達もいるようなので居心地は良いのだろう。


それに国王との会話も気心知れたような気安い会話だったが、それは国王の人徳なのだろう。


それと選定基準は未知だが、キックリが嫌煙しない人間ならばキックリの思考を嫌煙しないルウィエラが厭う確率も低そうだ。



「お婆が業突く張りでも森から出されないのは、人として―――でなくそこに生きる者として相応しいから選ばれたということなんですね。」

「またもや冒頭部分に納得はできないが、選別された理由は個々の地区に寄るのかもしれないがグエタの森に関してはそうだね。その土地を傷付けない当然の理由とそれ以外にそれぞれあるのかもしれないね。」

「がめつさや底意地の悪さは悪事の対象にならないのですね。」

「まだ重ねるのかい。それならあんたも一緒に弾き出されているよ。」

「なんですと。食欲が旺盛なのは罪ではありませんよ!」

「寧ろそれだけだと思っているあんたは何なんだろうね。」



そんな話をしながらも、グエタの森がキックリを選んだ理由はなんとなくでしかないがルウィエラには理解できた。


ちょっとしたことで配達屋のお兄さんから値切ろうとするし、薬が上手く錬成できた時の悪どく嗤う表情は最早デフォルトだし、自分の好物をルウィエラが多めに食べた時など、その後の修行と称した抜き打ち攻撃は殆どが殺気無しという人で無しの所業だ。


でも、森を始め自然に対しての礼儀は全てキックリから伝授されたし、それは人間用、ではなく生きるものとしてのものなのだとルウィエラは感じている。


そして厳しくも温かくて上辺だけでない優しさがとてもルウィエラに心地よくて、懐に入れた者には情け深く慈悲深い。

錠菓の話だって、高く売れることが解って、それを上手くせしめる方法なんて赤子並みの経験しかないルウィエラを操るなんてお手の物だろう。


だが、キックリは生きる者、そして人としての在り方を教えてくれて、それをルウィエラは窮屈に思わないし、受け入られないものなどなかったのだ。


それをキックリに直接言うと調子に乗ったり、明朝配達されるパンの一つ目を選ぶ順番の権利を横取りされかねないのでルウィエラは心の内に留めておいた。



「まあ、ディサイル国が私如きと思っていているのなら話は別だが、ルウィエラへの取り扱いを登城した時に言っているし二度は言わないからね。グエタの森を出入り禁止にすれば事足りる。」

「取り扱いって何ですか、私は珍獣ですか。少し食べることに貪欲なだけではないですか。それに偶にお婆から修行がてら奪取するくらいではないですか。」

「辛うじて一つ増えたが、それだけだと思っているあんたは何なんだろうね。」



そう言って呆れた顔をされたが、その表情はやっぱり温かいのだ。



「近々接近してくるかもしれないね。これで会う口実ができたとでも思っているんだろうよ。」

「なるほど。ではお婆仕様で対応できるように精進します。」

「そういうとっておきの方法は最後に出すもんだ。」



ニヤッとそれこそ悪辣な商人のように嗤う表情に思わず両腕を擦らざるを得なかったが、そんなルウィエラを見ながらキックリがもう一つ、薄いカードを出してルウィエラに渡してきた。



「これは…音声式通信カードと筆記式通信カードですか?」



それはお金を貯めて買っていつか改造できたら良いなと思っていた青色の音声と筆記の通信カードだった。



「ああ。緑色だと国内のみになってしまうからね。今度隣国の森にも行くから青色だと隣の国までなら通信可能だ。これはあんたがここに来てから一人で生活ができるようになって、薬屋の手伝いや、良く使う素材の採取や普段あまり入手できない素材を採取してくれたことで、私も一人で動いて居た時よりも格段に様々な効率が良くなったことへのご褒美だね。遠慮なく受け取りな。」



キックリから手渡されたカード二枚を見つめながら、言われた言葉に瞬きが増えじわじわと心が温かくなる。

キックリにとってルウィエラはレウィナの娘だったからだけでなく、ルウィエラとしてキックリの役に少しでも立っていて必要とされていることがとても嬉しかったのだ。



「―――ありがとうございます。大事に使わせてもらいますね。」

「ああ。これでお互いが外に出ても連絡が取り合えるからね。」



その後、キックリから通信する相手とやり取りするにはお互いのカードに魔力を微量に感知させて登録する方法を教えてもらい、先ずはキックリと交換してちゃんと通信できるかを確認する。



「音声の方はカードを持って相手を思い出し念じるだけで良い。文字は自分が読んだ後、画面下にある赤部分を押すと消える。直接書くこともできるが、長文の場合などに青部分に手を添えて言葉を念じると文字が表示される。それで青部分を押せば送れるよ。」

「ありがとうございます。時間を掛けられる時にちょっと弄ってみようかと思います。」

「相変わらずだねぇ…無理のない程度にやりな。それと前と今回納品した錠菓と濃縮した薬のことだがね―――」



そう言いながら、キックリはレーレイ店主から濃縮した液体の薬は提示した金額の十倍で、

錠菓はタンデ個人が今後の自分への錬成の為に買い取ってくれたらしく、自分の中で予想していた金額の約20倍というとんでもない金額を提示され、そして両手に埋まるくらいの白っぽい袋でどさっと渡されたお金の重みと中身を見て金銀銅の貨幣に驚いてしまった。


前回渡してあった錠菓は五個を一袋に入れて三袋、今回は液体の薬と一緒に二袋渡していた。それらの全額が、ディサイル国で平民男性の約二ヶ月分の稼ぎと聞けば、思いもしない大金にルウィエラはどうしたら良いか分からなくなる。



「この金貨…ですがディサイル国専用ではないですよね?」

「これは、この大陸共通で使える金貨だね。一緒に入っている銀貨と銅貨も同じだ。共通が一番使い勝手が良い。このままで持っていても良いが、高価な結晶石や宝石に換えておく手段もあるね。勿論その逆も有りだ。結晶石や宝石であまり錬成には使えないが、高価なものは換金用に取っておくのでも良い。」



ルウィエラはなるほどそういう保管の仕方もあるのかと頭に記憶する。

そしてキックリ曰くルウィエラの錠菓自体もそのような役割を果たすと言われた。

タンデがキックリの弟子だからという理由で錠菓の値段を決めるような奴ではないとのことなので、正当な評価をされているならば、それが対価になる場合もあるとのことだ。



共通金貨は一枚で銀貨百枚分になる。銀貨一枚で銅貨十枚分だ。

今度フルナーレに行った時にレーレイに訪れて色々話を聞いてみようと思いながらお金を恐る恐るペンダント収納に入れる。


思った以上の金額を手に入れたので、通信カード代をキックリに支払おうとしたのだが、それは正当な報酬だと受け取って貰えなかった。


でもチョコレート代は貰っておくよと、全額には足りないに決まっている銀貨一枚だけ持っていった。







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