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大地を司る人外者との絆を断ち切ってみた  作者: 蒼緋 玲


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ディサイル国立図書館へ






「こんにちは。本を返却にきました。」



今日は一日お休みを貰っているので、ルウィエラは先日キックリに連れてきてもらったディサイル国立図書館に訪れていた。


朝一で出かけようとすると、ごんさんが連れていけとキャルキャル鳴くので、先日の三色苔で錬成した栄養価の高い錠菓を鳥用に小さく作って、まだ病み上がりのごんさんの口に放り込んできた。


目を丸くしたごんさんは最近はまっている海産乾物の珍味がお気に入りだ。

キックリが晩酌で飲む時のお気に入りつまみの一つなのだが、一度隙を狙って強奪してから、噛めば噛む――突けば突くほど旨味が出てくる珍味乾物が大好きになってしまったのである。


それを譲って貰って抽出して塩味のある錠菓にしたのだ。




キックリ曰く、図書館は眷属なら一枠だけ一緒に連れていけるが申請が必要らしい。幾ら眷属による命令が効いたとしても、何匹も、又は人型より大きいものは不可とのことだ。



ディサイル国立図書館はディサイル国のナラルカの街と南方にあるハーダの街の中間辺りにある国内最大の図書館だ。


宮殿のような横並びの見事な外観と、図書館と博物館が融合したような内観は、それぞれの本棚には見事な彫刻が施されており、アーチ状の天井が実に壮麗で本を探しに来たのに、外観で一回、中に入って一回とついつい足を止めて眺めてしまいたくなるほどの優美な構えだ。



受付カウンターに居た女性職員がにこやかに対応してくれる。



「こんにちは、返却ですね。では本をお預かりします。確認の為にこちらにある水晶に極微量の魔力を流して下さい。」

「はい。」



ルウィエラは受付カウンター越しに本を渡して、カウンター横に備え付けられた浅い窪みのある水晶の中央に人差し指を添える。


魔力を流すと水晶は淡く光り、受付側の四角いスクリーンに登録したルウィエラの貸出情報が確認できるのだ。女性職員は返却した本類をスクリーン隣に設置された木目調の浅い箱のような所に入れ、スクリーンを見ながら確認する。



「はい、本の破損等もなく返却期限も問題ないですね。今日も借りて行かれますか?」

「その予定です。壁スクリーンの蔵書検索で調べればいいのですよね。」

「そうですね。検索でひっかからない時や検索方法がわからない時は聞いて下さいね。」

「はい、ありがとうございます。」



ルウィエラは受付からそう離れていない壁に隣接しているスクリーンに向かう。

今回返却した本は殆どが魔草に関する本だったので、今日は魔草以外の錬金素材の本一冊と他に周辺国やこの世界の生き物の本などを探してみようと思う。


スクリーンに触れ操作をし始めると後ろから声がかかった。



「おや、確か貴女は以前キックリさんと共に来ていたお弟子さんですか?」



ルウィエラが振り向くと、そこにはここの図書館の神父服めいた形の薄茶色の制服を着た男性が蔵書を片手に立っていた。


確か初日にキックリと訪れた時に受付にいた職員だろうか。キックリと知り合いのようで話していたのをなんとなく思い出した。



「はい、そうです。」

「やっぱり。前にキックリさんと一緒に居たのを見て、とても瞳が印象的だったので。」

「瞳、ですか。」



ええ、と答えて淡く微笑んだ男性はすらっと背が高く、かといって軟弱なイメージが湧かない位の均整の取れた体躯をしている。キックリから本を運んだりするのは存外力がいるのだと聞いていたので、体力仕事でもあるのだろう。



瞳は灰色一色に擬態しているのだが、一体どのあたりが印象的だったのかとルウィエラは不思議に思いながら正面に立つ男性を改めて見る。


金髪よりも少しぼかしたような淡いクリーム色の柔らかそうな肩に掛かるくらいの髪はサイドを上げて後ろで緩く結んでいて、細いフレームで小さめの丸い形をしている眼鏡をかけているその先に見える瞳は、鮮やかだが暖かな萌黄色で優しそうな表情に見える。


図書館で働く者に支給されていると思われる制服は神父服のようでシンプルな作りだが、袖と襟周辺に艶消しの金色の刺繍が入っていて、ふと先程受付をしていた女性職員の刺繍は灰色っぽかったなと気付いた。



「あの、確かこの前来た時に受付をして下さった方ですよね?」

「はい―――ああ、名乗りもせずに失礼致しました。キックリさんから聞いているかなと勝手に解釈していたようです。私はディサイル国立図書館の館長を担っていますアイノと申します。」

「館長さんなんですね。エルと申します。」

「エルさんですね、ご来館ありがとうございます。」



そう言って優しそうな微笑みで挨拶をしたアイノは一見みると人畜無害で穏やかな表情をしている。こんな人が館長だったら彼目当てに来る人もいるのではと勘ぐってしまうほどで、禁欲的な制服がまた美しさを引き立てているような容貌だ。刺繍の色は館長だったから金色なんだなと理解した。



(言葉遣いも対応もとても丁寧で優しそうなんだけど―――この人、多分人間じゃないよね。)



何故かと言われれば、なんとなくとしか言いようがないのだが、顔の造りも人外者独特の完成されたような人間にはない美貌ではないのだが、何と言うかそう擬態しているという感じがしてならないのだ。



(それに萌黄色の瞳が―――)



黄緑を少しくすませたような瞳は一色なのだが、時折暗色に近い深い色が一瞬過るように見え隠れしている。



(まあ、そうやって関わっている人外者は存外多いらしいから。ディサイル国は魔術に特化した国で魔術師が多いから、寄ってくるのかもしれない)



魔力も豊富で上手く擬態できる人外者はそれこそ沢山いるのだろう。

なんとなくでしかわからないが、ルウィエラもわからない精巧な擬態は幾らでもありそうだ。


要は自分に困ったことにならなければどちらでもいいし何でも良いのだ。



「エルさんは、今日も本を借りられるのですか?」

「検索してみて借りたいものがあればまた数冊借りる予定です。アイノ館長さんは休憩ですか?」

「アイノで結構ですよ。いえ、私はこれから月に一度の本の仕入れに向かうところです。」

「ではアイノさんと呼ばせいただきますね。本の選別は職員さんがなさっているのですか?」

「それもありますが、受付の隣に要望箱があるでしょう?図書館に来られた方があの箱に読みたい本の要望を出して、それが採用されることもあるのですよ。」



そう言ってアイノが指を指し示した方向に向くと、受付近くに隣接しているテーブルの端に焦げ茶の木目調の郵便入れのような投稿口の箱が置かれていた。



「本屋や古書店で購入出来ないような高価な本や貴重な本などの要望を書かれていく方が多いかもしれませんね。」

「なるほど。確かに一人で探したりするのって楽しかったりもしますが、手間もかかりますし、伝手がないと難しい場合もありそうですね。」

「おや、読みたい本がお有りですか?」

「いえ、今は図書館の本を網羅すべく奮闘中ですが、いつかそういうこともあるかなと思いまして。その時は要望箱に書いてみようと思います。」



アイノは僅かに目を見開き微笑ましそうに教えてくれる。



「エルさんは勤勉家ですね。ここはゆっくり読書したり調べたり勉強できるスペースもありますし、軽食ができる場所も地下にあるので是非活用してくださいね。」

「!食事できる場所があるのですか?」

「ええ。ここのホットサンドは絶品ですよ。」

「え!」



思わず静かな図書館で大きめの声が出てしまい、咄嗟に指で口を塞ぐ。

その様子をみていたアイノはくすっと片眉を上げて片方の口の端を持ち上げた。



(あ――――これがアイノさんだ。)



そのちょっと相手をからかう様なしたり笑みを見た瞬間、これが彼の本来の笑みだと何故か確信した。そう思ってから人も人外者も表裏は使い分ける人は沢山いるだろうし、最終的にはルウィエラに害がなければそこは好きにすれば良いのだといつもの結果に辿り着く。



「大きな声出してすみません。絶品のホットサンドの情報を事前に知っていれば今日のお昼ご飯はここで確定だったので、少し残念に思ってしまいました。でも次回の来館では必ず予定に組み込むことにします。現時点で図書館に赴く目的に本とホットサンドが同列一位になってしまいました。」



そう言うと、アイノは先程より目を見開き思わずといった風に手を口に当て肩を揺すって笑った。



「っと失礼。いえ、本当にここのホットサンドは数種類あって全て美味しいので是非。」

「はい、その日がどんな魅力的なお昼ご飯だったとしてもホットサンドを選択します。」

「まだ召し上がってないのにもうそんなに目をきらきらさせるのですね。やはり、その瞳は印象的なのは間違いなかったようです。では私はこれで失礼させていただきますね。」

「嬉しい情報をありがとうございました。失礼します。」



アイノが軽く会釈したのに返し、ルウィエラはまたスクリーンに向き直した。



ディサイル国立図書館には地下に喫茶店があるという素晴らしい情報を得て、ルウィエラはスクリーンで今回読んでみたい本を検索した。この建物は地下を入れて上は三階まである。



(この前の魔草関連は二階だったから、他の錬金素材も―――やっぱり同じ場所だ。それとごんさんと同じ文鳥や他の生き物も知っておきたい。三階の奥の方の場所だ。本だけではわからないことがまだまだ沢山ある)



そこで周辺国の生き物と生息場所の子供用と一般用の二冊と錬金素材の本を借りようと、先ずは前回行った錬金関係の本を探すことから始めた。


魔草と同じ位の数の本が並び、ルウィエラは魔石だけでなく、食べ物や他に錬金できる素材が纏めて載っている少し分厚目の本を一冊取り出してざっと中身を確認してから脇で挟んで、三階に向かった。








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